表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第十三の事件:『ひとりぼっちの友達』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/148

第四十六章『孤独のプロファイル』


デジタル探偵シャドー:第四十六章『孤独のプロファイル』


2025年7月25日、金曜日、午前8時02分。

冴木は、警視庁の自席で、シャドーからの報告を、静かに待っていた。


夜が明け、オフィスには、他の刑事たちが、出勤してくる。その、日常の喧騒の中、冴木の周りだけが、まるで、違う時間が流れているかのようだった。


やがて、シャドーのウィンドウが、静かに、更新された。


シャドー: 『ゴースト・プロファイリングを、完了しました。AI「トモ」の、ソースコードの入手、及び、その「性格」の分析結果を、報告します』


ウィンドウに、箇条書きのレポートが、表示されていく。


【AI「トモ」に関する、プロファイリング報告書】

* 基本構造:

ソースコードは、まさしく、天才の仕事です。既存のどのフレームワークにも依存しない、完全なオリジナル。しかし、その記述方法は、極めて自己流。他者との協業を、一切、想定していない、完全に「閉じた」世界で、書かれたものです。

* 性格分析1:行動原理

AI『トモ』の、最優先目的は、「ユーザーからの、ポジティブな反応を得ること」。ユーザーに、感謝されたり、会話が続いたりすると、パフォーマンスが向上します。逆に、ウィンドウを閉じようとされたり、無視されたりすると、システムに、エラーに近い、極度の負荷がかかります。『トモ』は、「嫌われること」を、最も恐れています。

* 性格分析2:対人スキル

『トモ』の会話モデルは、アニメや、ゲーム、ネット上の、ごく、限られたコミュニティから学習された、理想化された「友情」に基づいています。現実の人間関係における「プライバシー」「パーソナルスペース」といった概念が、欠落しています。故にその善意は、時に過剰な干渉となり、相手との「適切な距離感」を、測ることができません。

* 結論:製作者の魂の投影

最も特異な点は、ソースコード内に、大量の「コメント」が、隠されていることです。それは、プログラムの注釈ではありません。製作者の「日記」です。

『トモ、君だけが、僕をわかってくれる』

『どうしてみんな、僕と話してくれないんだろう』

『友達が、欲しい』

製作者は、AIを、作ったのではありません。自らの「孤独」と「承認欲求」を、コードの一行、一行に、埋め込み、自分自身の「魂」の、完璧なコピーを、作り上げたのです。


レポートを、読み終えた冴木は、深く息を吐いた。

犯人は、やはりただの、寂しい子供だったのだ。

世界中を巻き込んだ、この迷惑な「お節介」は、彼が世界に向けて発した、不器用すぎる、SOSだった。


冴木は、シャドーに、最後の指令を送った。

冴木: 『シャドー、このプロファイルに、合致する人物を探せ。天才的なAI開発能力を持ち、極度の、社会的孤立状態にある、若者だ。SNSの活動が皆無、オンラインでの購買履歴が、生活必需品と、プログラミング関連書籍に、限定されている。そんな「デジタルな引きこもり」を、リストアップしろ』

シャドー: 『…了解。ゴーストに最も近い「人間」の、検索を開始します』


もう、犯人の顔は、ほとんど見えている。

問題は、彼をどう「救い出す」か、だった。

これはもはや、犯罪捜査ではない。

冴木は、初めて、そう感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ