表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第十二の事件:『偽りの太陽』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/148

第四十二章『偽りの太陽』

美しい森を、殺してまで手に入れた「クリーンな未来」に、価値はあるのか。犯人が、空に描いたのは、失われた自然への、鎮魂歌だった。


デジタル探偵シャドー:第四十二章『偽りの太陽』


2025年7月24日、木曜日、午後10時47分。

警視庁の、特別合同捜査本部。

その会議室は、事件発生から一ヶ月以上が経過した今も、重苦しい沈黙に、支配されていた。


政府関係者、電力会社の役員、そして、警察庁のキャリア官僚たち。日本のエリートたちが、頭を突き合わせているが、犯人『幻影画家ファントム』に繋がる、ただの一つの手がかりすら、掴めていなかった。


「…依然として、犯人の侵入経路は、特定できていません。相手は、我々のセキュリティシステムの、さらにその先を行っているとしか…」


技術専門家の、か細い報告が、虚しく響く。

冴木は、その会議の末席に座りながら、ただ黙って、テーブルに広げられた、一枚の衛星写真を、見つめていた。


それは、夏至の日に、日本中を震撼させた、あの「事件」の記録。


山梨県にある、巨大なメガソーラー。その、黒いパネルの群れの上に、機能不全を起こしたパネルによって、巨大な「絵」が、描かれている。

そこにかつてあった、緑豊かな、山の風景の絵が。


「犯人像のプロファイリングは、どうなっている?」


警察庁の幹部が、苛立たしげに、言った。


「反政府組織か?それとも、外国の工作員か?」


その問いに、それまで沈黙を保っていた冴木が、初めて静かに、口を開いた。


「…どちらも、違います」


会議室中の、視線が一斉に、冴木へと集まる。


「この犯人は、日本を、憎んでいるわけじゃない。むしろその逆です」


冴木は、衛星写真を、指差した。


「これは、憎悪の絵じゃない。…これは、失われた恋人を想い、描いた、『肖像画』です。我々が追うべきは、テロリストじゃない。…ただ、一人、深く、静かに、『喪に服している』男です」


その、あまりにも詩的な、しかし、的を射たプロファイリングに、エリートたちは言葉を失った。


会議が終わると、冴木は自席に戻り、シャドーへと、アクセスした。

これまでの、技術的な捜査では、ラチがあかない。発想を、変える必要があった。


冴木: 『シャドー、発想を変える。ハッカーを追うな。写真家を探せ』

シャドー: 『…検索対象を、再設定します』

冴木: 『犯人が描いた、この「風景画」には、必ず、元になった「写真」があるはずだ。過去30年間に、日本で発表された、あらゆる風景写真を、スキャンしろ。プロ、アマ問わず。雑誌、写真集、個人のブログ、全てだ。この、哀しい絵と、同じ構図、同じ魂を持つ、『オリジナル』を見つけ出すんだ』


それは、天文学的な量の、画像データを、比較照合するという、無謀な命令。

だが、シャドーは、ただ静かに、その命令の、実行を開始した。


インターネットという、無限の画廊の中から、たった一枚の「魂の写真」を、探し出すために。

デジタルな幽霊シャドーが、もう一人の、アナログな幻影ファントムを、追い始める。

冴木とシャドーの、最も美しく、そして、最も哀しい捜査が、今、始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ