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48 誓いの日

ミッドガルドの王が退室してから、アンジェがエヴァンジェリンに抱き着いてきた。


「折角エヴァ様がお姉様になったのに、離れ離れになるなんて寂しい」


アンジェは幼子の様にぐずぐずと甘えて来る。


「アンジェ様、貴女も公爵家に降嫁されるのでしょう。どの道一緒に暮らすことはできないと思いますの。でも私達には同じ目標に向かって研鑽していく道があるでしょう?これからもアンジェ様はオリバー様と共に王太子殿下を支えていくことになるのでしょうし」

「そうね…フィリップ兄上とエヴァ様が抜けた分、私とオリバー様が頑張らないといけませんわ」


そう言ってエヴァンジェリンから離れると、ナミア様をこれからビシバシ鍛えますわ!と力強く胸を張る。



ヘルベルト王は身勝手にエヴァンジェリンを拉致した事には一定の罪悪感があった。

その為、後日シオン国ではなくサノーバ領宛に交通システム整備の為の補助金を支払う事にした。

単なる賠償というだけでなく、大陸の豊かな未来への投資として受け取りを拒否する事は認めなかった。






神殿での手続きを終え、フィリップと共にエヴァンジェリンもリンゼイに旅立つ日が来た。

サノーバ領の表向きの運営は、元侯爵のランセットと執事のアルバートとアーノルドが中心になって行っていく。


「いつか必ず戻って来るわ」


活気に溢れるサノーバ領の姿を目に焼き付けるように見渡す。

恐らくその時は、フィリップとその子供達と一緒に。

未来の統治者を伴って。


「お嬢様の大切な領地、確かにお預かりいたしました。お戻りになられる頃には更に発展しておりますように努めてまいります」

「宜しくね、アルバート」


それには交易や技術開示の交流なども必要になるだろう。

領地という小さな雛型で、大国の王妃として為すべき事がわかって来るはずだ。

エヴァンジェリンにとって、これからも新しい学びの日々となる。



3か月後。

一通りの王太子妃教育を終え、フィリップとエヴァンジェリンの婚礼式が執り行われる。

リンゼイの王太子妃教育には、元リンゼイの王女だったマルガレーテ王妃も協力してくれくれた。

国内の一領地を統治する覚悟はあったが、一気に大国の統治者になるのだと思うと不安になるのも偽らざる境地だった。


「大丈夫。エヴィは子供の頃からずっと自分の感情より何を為すべきかを大切にしてきただろう?君はそういう健気な女性だからこそ、僕の妃になってほしいとずっと望んでいたんだから。母上や伯父上にもまだ学ぶところはあるけど、一緒に僕と歩んでほしい」

「嬉しいですわ、フィル。共に歩んでいきましょう」


自分を愛してくれるフィリップがこれからずっと傍に居てくれる。

それが大きな力に感じられた。




花嫁を送り出す元サノーバ候も、リンゼイで行われる婚礼式に来ていた。


「お前には何もあげられなかったと悔いていた。これからは度々会えることもなくなるだろう。どうかリンゼイでも幸せに」


そう言って送り出してくれるランセットに、真っ白なウェディングドレスに身を包んだエヴァンジェリンが微笑む。


「いいえお父様。お父様は最後の最後に私を選んでくださいました。自ら選んだ女性ではなく、サノーバ侯爵家の娘である私を」

「そう、思ってくれるのか」

「はい」


カタリナとは与えるものが違ったけど、領地を経営する器量をしっかり与えてくれた侯爵。


目に見える物を認識するのは容易い。

でもそういった力はなかなか認識しにくい。

幼い心ゆえに親の愛情を見失わなかった事を、エヴァンジェリンは良かったと思っていた。


「ありがとうございます、お父様。私は幸せになります」


エヴァンジェリンが微笑みながら礼を言うと、ランセットの目に光るものが浮かんだ。



バージンロードの途中で、リンゼイの王太子となったフィリップがランセットからエヴァンジェリンを託される。


「エヴィ、世界一美しい僕のエヴィ、この日を幼い頃からずっと夢見てきたよ」


その笑顔はこれまでになく蕩けそうだった。


「大袈裟ですわ。私など可愛げもありませんのに」

「僕にはこれ以上なく魅力的だよ。君の良さがわかるのは僕だけでいいだろう?」


微笑み合う王太子とその妃は、大司教の前で永遠の愛を誓い合った。





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