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38 愛の国の筈なのに

「殿下、少々宜しいですか」


私に用意された部屋に下がってから、メルが申し出てきました。


「先程のフリード殿下について、多大なる違和感を持ちましたので申し上げたく思います」


それについて、メルに言葉を促しました。


「ミッドガルドには側妃を含め、王の妃が23年間存在していません」

「え、どういうこと?それじゃフリード殿下は」


ひょっとしたら存在していてはいけない存在なのかしら。

そういえばフリード殿下の存在は母国シオンでは聞いた事がありませんでしたわ。


「処分されたという妃達の話は、もう20年以上前のことです。ということはその中に彼の母上が含まれていたということは辻褄が合いません」


確かにそうだわ。

それに何だかあの殿下の言葉たちが一々何かに引っかかる気がしておりました。


「メルは情報通なのね。私も知らなかったことを沢山知っていて、頼もしいわ」

「滅相もございません」


それにおかしな話だわ。

大陸随一の大国の世継ぎの王子が隠されていたという事自体が。

私をシオンから連れ出した時もミッドガルドに迎えたい、と言っただけでヘルベルト王は私を妃にとは言ってなかったのよね。


最初からフリード殿下のお妃にすることを考えていたということなら腑に落ちます。

女性への不信が原因でお妃様達を処分されたのなら、ヘルベルト王は御自身の妃を求めない筈。

そしてわざわざ他に女性を求めるのも考えにくい。


「それにしても、何故フリード殿下の存在が隠されているんでしょう。大国の世継ぎなのに」

「だからこそですよ殿下。命も身柄も狙われやすいからこそ、ミッドガルドでは王家の子は10歳を過ぎるまで存在を公表されないのが倣いだそうです」


ああ、そういうことなのね。

それじゃあもしかしたらリンゼイでもそうなのかしら。


「リンゼイも同様なのかしら」

「そうですね。王妃陛下も常に命を狙われていましたから、逞しくお育ちになられました」


逞しく、ねえ。

私には王子王女殿下方に対してはとても愛情深い方に思えますが。


「本来、リンゼイもミッドガルドも愛情の深い国民性なのです。それゆえにその愛情を裏切る者には容赦ない制裁をするのです」


分かる気がします。

国王陛下の初恋のお相手との関係には寛容でいらっしゃった王妃陛下。

リンゼイの王女よりもシルビア嬢を選び、それに飽きたからと他の女性に手を出してあまつさえ要らないと言っていたマルガレーテ王妃に擦り寄ったところでそんな男に掛ける情けなど欠片も残っていないでしょう。

そういう愛情をフィリップ殿下も王太子殿下もアンジェ様もお持ちなのでしょうね。

海のように深い、青空のように天井知らずの愛情を注がれて育ったわけではない私には、重いと同時にそのように愛されたいという願いもあります。

諦めてしまっていたものを与えてくれようとしている人に出会った時、そうされて幸せと感じる相手かどうかは大切な事でした。



「殿下、私はもう少しミッドガルドの内情を調べたいと思います」

「あら、嬉しいけど貴女に危険な真似はさせられませんわ」

「あり難きお言葉。けれどそういう事を含めて私はフィリップ殿下より傍仕えの命を賜りましたので」


そう言うと、ウィルヘルミナとアンナに私の入浴と身づくろいを託して部屋から退出していきました。


メルが戻ったら、飛び切りの美味しい食事とお茶で寛いでもらいましょう。



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