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15 こんな所で殿下の頑固が発動です

「兄上!」

「殿下!」


部屋の外で待ち構えていたらしいアンジェ様と側近のノリス侯爵令息様が飛び込んでこられました。

思わずびくうっと身体が強張ります。


「でかしましたわ兄上!大金星ですわ!」

「おめでとうございます殿下!」


お二人とも興奮してらっしゃるのですが、何しろフィリップ殿下が私をギュウ抱きにしているところをしっかり見られているので私としては落ち着きません。


「あのう、殿下、離してくださいませ」


小声で訴えかけるも、その手の力が弱まりません。

困りましたわ、どうしましょう。


「やっと、この手の中に捕まえられたんだ。僕の手を擦り抜けて何処かに行ってしまわれては悔やみきれない」


何故私が逃げるのが前提ですの!?


「いえ、アンジェ様とノリス卿が見ていらっしゃいますので」

「構うものか。婚礼式には大勢の前で口付けだってするのに、これしきで狼狽えるとは、何て可愛らしいんだ」


か、かかかか可愛いですって?

誰の事ですの、それは私ではありませんわ。


「ああ、顔が真っ赤になって…だめだ、こんな可愛いエヴァンジェリン嬢なんて誰にも見せたくない」


「ええ兄上、決して逃さないでくださいませね。エヴァンジェリン様はああ見えて奥手な方ですから」

「安堵しました。この国の第二王子殿下が生涯独身になるかどうかの瀬戸際だったんですからね。サノーバ侯爵、貴女は英雄です!」


えっ、英雄…

私そろそろこの状況に耐え辛くなってきました。

お母様が亡くなってから多くの事を譲らされ、奪われることに慣れてしまった私には、こんな風に可愛いと言われることも無償の愛情を向けられる事もなくて久しいものでしたから。

アンジェ様はガッツポーズですし、ノリス卿は胸の前で手を組み合わせておめめウルウル状態になっています。

何故。


「これは、急ぎ陛下にお報せせねば」


と侍従長が走り出て行かれます。

こんな所を国王陛下に見られたら本当に居た堪れません。



「あのっ、殿下、国王陛下がお越しになる前に離していただけませんでしょうか」

「嫌だ。僕達の婚姻を王命にされたくないからちゃんと思い合っているという所を父上にも見せなければ」


えええ、何でこんな所で頑固を発動されますの。


部屋の入り口にばたばたと人の気配が増えました。


「フィリップ」


お声をかけられたのは、国王陛下よりも若い…王太子殿下のお声です。


「兄上、父上。サノーバ次期女侯爵殿が私の妃になる事を受け入れてくれました」

「そうか。良かった、…良かった」


国王陛下は呆然としていらっしゃるのか、お声も出ません。

…ですよね?


「エヴァンジェリン嬢、本当に良いのか」


こんなに空気読めない殿下なのに、と後に続きそうです。


「こらフィリップ。エヴァンジェリン嬢を離さんか。困っておるであろう」

「それは王命ですか、父上」

「でなければ話もできないだろうが」


そう言われて渋々お手を離してくださいました。

ぱたぱたとドレスを軽く整え、お出ましになった国王陛下にご挨拶いたします。


「我が祖国シオンの輝かしき太陽、国王陛下にサノーバ候が娘、エヴァンジェリンがご挨拶申し上げます」


カーテシーで礼を取ると、陛下が首を振られます。


「いや、其方は私の娘になるのだからそのような堅苦しい挨拶は今日を限りとしておくれ。サノーバ侯爵家は我が王家の預かりとなったが、次期侯爵を王家の一員として迎え入れられる事は我等にとってもめでたいことだ」

「本当に。ガスパール殿には礼を言いたいくらいだ」


無遠慮に言葉を発した王太子殿下を、フィリップ殿下とアンジェ様が睨みます。

そりゃあ、王家にしてみれば懸案のロード領とサノーバ領が濡れ手に粟で転がり込んできたのですから目出度いでしょう。


「兄上、言葉を慎んでください。それによって彼女がどれだけ傷付き多くの物を失ったと思ってるんです」

「ああ、いや、悪かった、そんなつもりでは」


慌てて謝罪をする王太子殿下、本音という尻尾が見えておりますわ。

この方が次代の国王で大丈夫なのでしょうか。

ああ、その為のフィリップ殿下でしたね。


「いえ、気にはしておりません。歓迎頂き光栄に存じます」

「早速だが、この後の話をしたい」


国王陛下は私を見た後、チラリとフィリップ殿下の方を見られます。


「…後にしてください父上。私は長年の思いのたけを彼女に伝えることを最優先といたしますので」


王太子殿下が失礼をした分、フィリップ殿下にそう言われて陛下も黙って引き下がられました。



王家の中での力関係が解せぬのですわ。

これは早急に情報を集めませんと。


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