王城の魔導具
王城に着いた後、騎士達にカエデが訪問の目的を説明すると、ミオラームが訪問の件に関して話を通してくれていたらしく、謁見の間に直接通された。
けどそこはなんと言えばいいのか、今まで見てきた国とは違い。
壁一面全てに首都全体や王城の内部が詳細に描かれた動く絵が飾られている。
「……絵が動いてる?」
「これが例の……初めて見ました」
「ん?カエデ、これが何か知ってんのか?」
その絵の事に関してカエデが何か知っているらしいけど、今はその事よりも動いてる内容が気になってしまう。
様々な所で人の形をしたような物が動いていて、まるで生きているような、そんな感覚を覚える程に不思議な光景で、良く見ると先程あった騎士とそっくりな人物が廊下を歩いている姿が映っている。
「えぇ、レースさんやダートお姉様方に渡している通信端末の元となった魔導具です、マスカレイド様が音や映像を直接遠くに送る技術を開発する為の試作として作ったものらしいですよ」
「これをマスカレイドが……、映像って事はこれってやっぱり実際にそこにいる人達が映ってるって事?」
「えぇ、マーシェンス内にて国民登録されると、この謁見の間にていつでも誰が何処にいるのか確認出来るようになっているそうです、移す対象は賢王のみが選ぶ事が出来るらしく、首都全体と王城内の映像を映すようにしていると以前……栄花騎士団の団長である父から聞いた事があります」
「へぇ……、って事は悪い事が出来ねぇな」
確かに犯罪とかは出来そうにないけれど、ぼくがマーシェンスの国民だったら常に監視されてるのは何て言うか嫌だと思う。
いくら様々な魔導具があるおかげで便利な暮らしが出来たとしても、何処にいても心が休まる事は無いのは勘弁して欲しい。
「そもそも、どうやって国全体を映像として移してるの?」
「上空や天井付近に、偽装の魔術を付与して姿を見えなくさせた魔導具を浮かべて、そこに搭載している機械のレンズを使い映し出しているそうですよ?」
「ちょっと言っている意味が分からねぇけど、魔導具を使うって事は魔力を使わねぇと動かないだろ?そこんとこどうやってんだ?」
「それは私にも詳しくは──」
「でしたら、私が説明致しますわ!」
謁見の間の扉が勢いよく開いたかと思うと、煌びやかなドレスに身を包んだミオラームがSランク冒険者【宵闇】フィリア・フィリスを連れて入って来る。
そして、賢王のみが座る事が許される豪華な椅子の上に座ると……
「マーシェンスの王である私の中に封じられた、【賢神】マリーヴェイパーの力を吸い出して魔力へと変換しているのですわ!しかも……こうやって謁見の間の椅子に座る事で国内全体に魔力が行きわたるようになっておりますのよ!」
「……一言で言うなら、【賢王】と言う名の電池ね」
「電池って、フィーその例えは酷いですわよ?それに……レース様達には通じないのではないかしら?」
「……通じなくていいのよ、私とミオだけが分かればそれでいいじゃない」
「もう……ダメですわよ、あなたはもうこの国で私の筆頭近衛騎士ですのよ?ちゃんとして頂きませんと困りますわ」
電池が何かは分からないけれど、マリーヴェイパー……、以前ミオラームと魔力の波長を合わせた時に見た、頭が三つある異形の化け物の姿を思い出す。
神から力を吸い出して国内に魔力を供給するという事自体、色々と理解が追い付かないけれど、マスカレイドの技術力の高さに彼が亡くなった事に関する世界的な損失の大きさを感じてしまう。
マスカレイドから継承した【黎明】と言う特性の力を使い作ったのだろうけれど、果たしてぼくは受け継いだ物を使いこなす事が出来るのだろうか……、育ての父の今は亡き背中が余りにも大きすぎる。
「……善処するわ」
「えぇ、お願いしますわよ?……さて、レース様方お久しぶりですわね、カエデ様も先程来て頂いたのにレース様を呼ぶために使ってしまってごめんなさいですわ」
「いえ、私も婚約者であるレースさんに直ぐにでも会いたかったので問題ありません、それよりも栄花騎士団副団長としてではなく、彼の婚約者としての立場で聞きたい事があるのですが……」
「聞きたい事ですの?なんでもバーンと言ってくださいまし!私、何でも答えますわよ!」
「レースさんを呼んだという事は……、何か頼みたい事があるのですか?私としては、今すぐにでもマーシェンスから、メセリーの辺境都市クイストに戻り、妊娠中のダートお姉様のところに帰りたいのですが」
「私もそうしたいのですけれど、問題が起きてしまいまして……、まずはこれを見てくださいまし」
……ミオラームが申し訳なさそうな顔をすると、椅子の肘掛けの上を指で触り始めると、壁に映っている映像が変わり、見た事がない場所が映し出される。
オレンジ色の長い髪、そして水色の瞳を持ち白いローブの身を包んだ性別の分からない人物と、あれは盗賊だろうか……見すぼらしい身なりをしており、腰には短剣と小さい銃を差している集団が跪いているのだった。




