カエデの責任感
カエデの提案を聞いたダリアがめんどくさそうな仕草をすると、ベッドの上に腰かけ……
「……それなら俺は部屋でゆっくりくつろいでるから、父さんとカエデだけで行って来いよ」
「ダリアも来た方がいいんじゃないかな、その方がミオラームも喜ぶんじゃない?」
「喜ぶって、どうせ歳が近いからとかっていう理由だろ?」
「それもあるけど、ミュラッカから役職を貰ってる以上、今のダリアはストラフィリアの王族としての立場があるから……」
ミオラームが帰国して、賢王としての仕事を影武者から引継いで以降、忙しい毎日を過ごしている。
そんな彼女に対して、歳が近い友人を作ってガス抜きをしてあげたいと思うのだけれど、その為にダリアを利用しようとして、立場を利用しようとしたのはさすがに良くなかったかもしれない。
「んな事言われても困るんだよ、いきなり王族らしくしろと言われても無理があんだよ」
「……それはそうかもだけど」
「そういうめんどくさいのは子供じゃなくて、大人がやるべきじゃねぇの?ほら……、この世界だと成人は10歳からだと言っても、そんな成人したての俺にいきなり大人になれって言われても無理があんだろ?」
確かにぼくが成人した時も、同じような事を思った事があるけど……、大人になってしまった以上は、周りは優しくしてくれない。
だから思考が凝り固まっていない今のうちに様々な事を経験させてあげたいと思う。
でもこれは、言わば親のエゴのようなもので……けど、子供に未来の選択肢を増やしてあげたいというのは当然な事なのではないかと、幼い時にカルディアとマスカレイド、いや……両親にして貰った事を思い出すとそう感じるところがある。
「ダリアさん、それなら尚の事一緒に来た方がいいのではないですか?」
「……なんでだよ」
「あなたはもう年齢的には立派な成人です、なので大人……それも父や母が仕事をしている姿を見て学ぶのも必要ですよ?」
「必要って……、だぁもう分かったよ!俺が悪かった、着いて行くからこれでいいだろ?」
「決まりですね、……もう、レースさん、あなたも父親何ですからこういう時は多少強引にでも、ダリアさんを引っ張ったりしないとダメですよ?」
カエデが指を自身の口元に当てて笑うと、何故かその指をぼくの唇に当てる。
そして再び自身の口に当てると今度は頬を赤らめながらも、嬉しそうに笑う。
何でいきなりそのような事をしたのか分からないけど、注意されてる以上今は謝った方がいい気がする。
「えっと、何て言うかごめん」
「別に構いませんよ?だって私はレースさんの、そういうダメなところも含めって慕っておりますもの」
「いや、どうしてこのタイミングでいちゃつこうと思えんだよ……」
「いちゃつく?別にこれくらい普通では無いですか?私とレースさんは婚約関係にあるんですよ?そしてダートお姉様の事は実の姉のように慕っておりますし、そのお二人の子であるダリアさんは、言わば義理の子……つまり保護者ですからね、仲が良いところを見せる位は当然ではないです」
いちゃつくが何かは分からないけれど、確かに妻であるダートと婚約者のカエデ、二人との関係が良好であることを周囲に見せる事は大事だと思う。
それに、彼女のそういう責任感が強いところは好感が持てるし、個人的には尊敬できるところで……もしカエデと同じような状況だったら、ぼくは果たしてどうするだろうかと考えるけど、ダートやカエデにぼく以外にも大事な異性がいる事を想像したら胸が苦しくなるし嫌だ。
「別にぼくはいちゃつくがどういう意味か分からないからいいけど、カエデなりの考えがあるならそれでいいんじゃないかな」
「……お、おぅ、父さんがいいなら別にいいけどさ……、なんつうかカエデ、本当にこいつと婚約して良かったのか?」
「良いも何も、そういう一般的なところから大分ズレているところや、短所として見られてしまうところってかわいいですし、愛しいですよ?それにダメなところがある人の方が完璧な人よりも安心出来るじゃないですか」
「……ダメな男に引っかかるタイプじゃねぇか」
何か凄い失礼な事を言われてる気がするのは気の所為だろうか。
これだとまるで、ぼくがダメな大人として見られてるようで複雑な気持ちになる。
そういう話は出来れば本人がいない所で言って欲しい。
「なら私は幸運かもしれませんね、レースさんならダメな男になる前に私達がちゃんと支えてあげれば治そうという努力はしてくれますし、そういう人だからこそ私は慕っているんですよ?レースさん、だからちゃんと……私と婚約した以上は一番はダートお姉様でいいので、二番目に私の事を大事にして可愛がってくださいね」
「え、あぁ……うん、そ、そんな事よりダリアも王城に行くって決まったから、ミオラームを待たせるのも悪いし、早く移動した方がいいんじゃないかな」
「……そうですね、ダリアさん空間魔術で移動お願い出来ますか?」
「まるで俺を便利な移動道具か何かと勘違いしてねぇか?まぁいいけど……」
……ダリアがベッドから立ち上がると、心器の剣を手元に顕現させる。
そして扉の前の空間を切り裂くと、王城へと繋がる道が表れると門を守っている銃を持ち武装した軽装の騎士が驚いた表情を浮かべているのが見えた。
取り合えず、何時までも見つめ合ってるわけにはいかないから何も言わずに通るのだった。




