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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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忠節を尽くす

 とりあえず皆が出て行った後、何となく手持ち無沙汰に感じてベッドから立ち上がると、テーブルの椅子に座りダリアが持ってきてくれた食事を口に運ぶ。

野菜はもそもそとして何とも言えない食感、お肉に関しては取り合えず食べれればいいとでもいいのか、火を通しただけで何だかゴムを噛んでいるような不快感……味気ないスープに、噛んで食べるだけで顎が疲れてしまいそうに感じる。


「……何て言うか栄養だけ取ってる感じ」


 ぼくの診療所でも、身体が弱っている人用に渡す食事のレシピがあるけれど、あれでもここまでは酷くない。

味気ないのはしょうがないとしても、栄養だけ取っているというこんな食事が辛く感じるものは出して無い筈だと思いながら、食事を口に含んでスープで強引に胃の中に流し込んでいると、扉を叩く音がする。


「……ん?」

「お邪魔するよ」


 そしてゆっくりと扉が開くと、紫色の髪に特徴的な青い瞳、そして見上げる程に大きい身長を持つ男性が入って来る。

やけに親し気な笑みを浮かべながら近づいて来るけど、この人はいったい誰なのだろうか。


「えっとあなたは……?」

「ストラフィリアで一度会った事があるけど……あの時は、彼女に身体の主導権を奪われていたから、こうして会うのは初めてだね」

「俺は、君の奥さんから依頼を受けた【死絶傭兵団】の団長【死絶】カーティス・ハルサーだよ」


 カーティス・ハルサー……、マスカレイドの先祖に当たる人物で、御伽噺として語られる程の古い時代に起きた神々の争いを終わらせた、現代に生きる英雄の一人。

ダートから依頼を受けたとは言えど、まさか団長が動く何て予想もできないし、彼の行動に理解が追い付かない。

何でぼくに会いに来たのか、その理由が何なのか、分からないことだらけで無意識に身体に力が入ってしまう。


「……御伽噺の英雄の?」

「あんまり誇らしくない歴史だけど、そうだね……君達が子供の頃に寝物語で聞くお話の英雄だよ……後は、ほら入って来なよ」

「……レースさん、無事だったみたいですね」

「グロウフェレス?どうして君が?」


 カーティスが扉の方を振り向いて、誰かに入るように促すと三本あった尾が1本になってしまったグロウフェレスが、何とも気まずそうな表情を浮かべて部屋に入って来る。

そしてぼくの前に来ると、空いている椅子に座って……


「カーティスに頼んで、ここまで連れて来てもらいました」

「連れて来て貰ったってなんで?」

「何でって、今回の事について手を貸して頂いたのにお礼を言わないのは筋が通っておりませんので……それに」

「それに?」

「マスカレイドの事、我が主人に変わり謝罪致します」


 いきなり謝罪致しますと言われても、その意図が理解できない。

マスカレイドがおかしくなったのはシャルネのせいだし、そのせいで起きた出来事や被害は謝られたから許せる程のものでは無いというのに


「謝罪をしてもマスカレイドは帰って来ないし、彼を失った世界的な損失は取り戻せないと思うよ」

「えぇ、それに関しては存しております、ですが……それでもシャルネ様は私にとって仕えるに値する方なのです」

「……【精神汚染】でここまでの被害を出したのに?」

「はい、それでも私にとっては主人なので、例えそれが間違えた方向に進んでいたのだとしても、信じて忠節を尽くすのが私の道です」


 主人が間違えているのなら、それを正すのが忠義だと思うんだけど、グロウフェレスの場合は違うかもしれない。

……人それぞれ価値観や考え方が違うのは分かってる、でも本当にそれでいいのだろうか。

もし彼も精神汚染の影響を受けてしまっているのなら、何とか正気に戻す事は出来ないのか、色々と考えて見るけど答えを出す事が出来そうにない。


「……グロウフェレスも精神汚染の影響を受けてるんじゃないの?」

「レース君、グロウフェレスを説得しようとするのは止めた方がいい、彼は昔からこうなんだ、一度でも仕えた相手に対し何処までも尽くそうとする、もうこれは一種の病気みたいなものだよ」

「……あなたには言われたくないですが、節操など何処かに投げ捨てたかのように、シャルネ様と旅に出た後に数えきれない程の女性に手を出し子を生すとは、恥を知りなさい」

「恥を知るも何も、俺の旅の目的は魔族が人と交配して、しっかりとこの世界に根付く事が出来るのか、それを調べたかったのもあるからしょうがないんじゃないかな?」


 その結果、世界で最も多くの子孫を世に残したという意味でも有名で、彼の身に着けていた物を持っていると将来子宝に恵まれると言われる程だ。

けど、今はそれとこれは関係ない気がする。


「また自分がやった事を他人事のように……、それに当時から何百年も時が経過した今は我が主を倒す為に傭兵団を作るなんて、私としてはそっちの方が頭が痛いですよ」

「……これに関しては尚の事しょうがないんじゃないかな?、友人が間違えていたら止めるべきだろう?」

「いや、二人で話を進めるのはいいけど、結局何のようがあってここに来たの?」

「……私は謝罪とお礼を言いに来ただけなので、これで失礼させていただきます」


……グロウフェレスは立ち上がると、そのまま部屋を出て行ってしまう。

そしてカーティスと二人きりになる、そして気まずい雰囲気の中『……さて、君と大事な話をしたいんだけど今は大丈夫かな?』と妖美な笑みを浮かべ話かけてくるのだった。

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