新たな力
セラフナハシュから放たれた魔力の光が胸を貫く。
その衝撃に立っている事が出来なくなり、膝から崩れ落ちると……何かが自分の中に入って来るような不快な感覚に襲われる。
視界が歪んだかと思うと、倦怠感が全身を襲う。
「レースさん!」
「父さん!」
何かが内側で暴れているような、身体が作り替えられて行くような感覚に胃がひっくり返されたかのような嘔吐感に襲われ、その場に両手をつく。
『くふふ……レースよ、おぬしにはどうやら幼い頃に【叡智】と【黎明】の手で封印が施されておるようだからな、特別に解いてやろう、そうでないと神の残滓を体内に宿す器になったとしても身体が持たないからのぅ』
頭の中で消えた筈のセラフナハシュの声がする。母さんとマスカレイドの手で封印が施されている。
その言葉の意味に理解が追い付かないけれど、解いた場合何が起きるのかが分からない。
けど抵抗する事は出来なくて、されるがままに自分の身体をいじられて行く。
そして徐々に周囲の音すら聞こえなくなって来たかと思うと、身体の感覚が無くなり倦怠感や嘔吐感が無くなり、頭の中がクリアになる。
『……ん?ほぉう、レース、愛されておるなぁ、中にいる二人がおぬしを守ろうと神相手に健気にも必死に抵抗するではないか、まったく力になってやろうという妾の気遣いを無駄にする気か?このままではディザスティアの増幅された力の残滓に耐えられずに器が壊れるぞ?、そう、そうだ、分かったなら大人しく妾に全て任せればよい』
中にいる二人?、一人はぼくをこの世に産んでくれた母スノーホワイト・ヴォルフガングだと思うけど、もう一人は誰だろうか。
消去法で考えたら、ヴォルフガング・ストラフィリアだろうけど、彼がぼくの中にいる意味が分からない。
けど、代々ストラフィリアの覇王の間に継承されて来た心器の大剣【スノーフレーク】を受け継いだ際に、彼の精神の一部が入って来たと考えれば理屈が通る。
そう思うと、大剣の能力【氷雪狼】で生みだす二匹の狼が何故、オスとメスで分かれているのか……何となくだけど分かった。
指示が無い限りぼくを守ろうとする方に、母スノーホワイトの意識が残っていて本能的に自分の子を守ろうとする。
そして父ヴォルフガングの精神が宿っている、大剣を咥えた狼は脅威を排除しようと率先して敵に向かう。
つまり、あの国での一件以降、ずっと二人に守られていたのかもしれない。
『さて、これで良い……封印は解けたし、肉体の調整の方も終わりじゃ、だが……ふむ、いじくりまわして思ったのだが、レース……おぬしは実に面白い、遠い血縁にメセリーの血があるようじゃな、他にもトレーディアスの血も交じっておる、くふふ……そう言えば、レティシアーナの夫はトレーディアス王の息子であったか、それなら納得が行く、けどメセリーは何処から来たのか分からぬな、もしや長い歴史の中で血が交わる事があったのか?、こういうことがあるから人の歴史は面白い』
セラフナハシュのいう事が本当なら、ぼくはトレーディアスとメセリーの器としても機能するという事だろうか。
もしかしてだけど、母さんとマスカレイドはその事を知って封印が施していたのかもしれない。
それなら納得が行く、二人はもしかしてぼくの事を守ろうとしてくれていた可能性がある。
マスカレイドは今でこそ、シャルネの【精神汚染】の影響を受けて精神が歪んでしまったけど、当時は彼なりに色々と気を使ってくれていたのだろう。
『血に交じっている情報を合わせて調整をしたおかげで、今のおぬしは妾【智神】セラフナハシュとトレーディアスの【商神】グローリシェス、ストラフィリアの【闘神】ディザスティア、三柱をその身に宿す事が出来る器となった、おぬしの中にいて長く意識を保っていられるのもその為だが、けど空っぽの器はどうにも居心地が悪い』
「それなら……指輪とソフィアの中に戻れば良いんじゃないかな」
『今は黙って妾の話を聞け……あの闘いしか頭にないバカの真似をするのは大変心外だが、妾の力の一部をおぬしに譲ってやろう、今のおぬしは二柱の神から力を授かったと思うが良い、……だが、人の身で妾達の力を使う事は不可能である事を忘れるでないぞ、必要であれば……強く願えば良い、見た所……心器の大剣の能力の枠が二つ空いておるからな、【氷雪狼】と似たような能力を得て呼び出し使役するが良い……、さてやる事は終わったから妾はもう帰るぞ?人の子よ、精々長生きして妾を楽しませると良い』
……神を呼び出して使役するって、とんでも無い事を言っている気がするのは気のせいだろうか。
確かに心器の大剣【スノーフレーク】には、能力の空きがあるけれど、【守護者】を含めて自身の能力を未だに使った事が無い。
実父であるヴォルフガングが持っていた能力が便利過ぎる余り、頼り切っていたせいだと思うけど、セラフナハシュが言うように強く願い、こうありたい、こうなりたいという想いから強大な力を操る事が出来るならやってみる価値はあるだろう。
そんな事を考えながら、身体の感覚が戻るのを感じると心配する二人を見ながらゆっくりと立ち上がるのだった。




