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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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闘神降臨

 ストラフィリアの闘神ディザスティア、その姿は以前ヴォルフガング・ストラフィリアがその身を変えた時とは違った。

あの時は確か白い身体を持つ巨人だったのに、今の姿は漆黒の筋骨隆々の肉体に至る所から朱色の光が溢れた化け物だ。

それに背中から伸びる無数の腕は翼のように見えて、禍々しくも神々しい。

一目見ただけで、人間では勝つ事が出来ないと分かる程の圧倒的な存在感に気圧されてしまい、言葉が出なくなる。


「……父さん、これどうすんだよ」

「レ、レース様!?」

「これは困りましたね」


 能力で生みだされた狼達も、尻尾が下がり数歩後ろに下がる。

でも恐怖で身がすくんでいる筈なのに、必死にぼく達の事を守ろうとしてくれているようで、牙を向いて唸り声をあげディザスティアを睨む。


「ディザスティア、久しぶりに見たわねぇ……」

「母さん、もしかしてディザスティアにあった事があるの?」

「私がまだ子供だった頃、自分の能力を制御出来なくて……居場所を求める為に色んな国を旅したわ、それでストラフィリアを訪れた際にディザスティアと謁見する権利を得たのよ」

「……カルディア様、それ私知りませんよ?」

「だって話した事無いもの、その時にこの闘神が滅ぼされ封じられる瞬間に立ち会ったわ」


 それってつまり、母さんは御伽噺の時代に起きた戦いを実際に見た事があるという事になる。

という事はシャルネ達と出会った事があるという事になるけど、精神汚染を受けているようには見えない。


「……まぁ、今は過去の事に関してはどうでもいいわね、それよりも動かないのが気になるわね」

「確かに、なんで動かないんだろ」

「そこでレースちゃんに質問、なんでこのディザスティアは動かないのか!1、中にディザスティアの魂が無いから!2、残滓の中に残ったディザスティアの魂の一部とレティシアーナの魂が主導権を奪い合っているから動けない、さぁどれでしょう!」

「どれって……ディザスティアの魂が無いからじゃ」

「んー、残念っ!魂が無かったら、今頃あの身体はレティシアーナが動かしてるわ」


 ……何だかこのやり取り、凄いめんどくさいと感じる。

こんな状況で質問をされても、いつ動き出すのか分からないディザスティアが気になって正直それどころでは無い。

けど、母さんの性格的にここで答えないと話が進まない気がする。


「なら答えは質問2になると思うけど、それなら主導権を奪い合うのはおかしくないかな、レティシアーナはディザスティアを信仰しているんだよね?それなら主導権を譲ると思うんだけど」

「……確かに彼女はディザスティアを信仰しているわ、けど生前のレティシアーナは神と一体化する事を望んでいたの、だからその身に神を封じる事になった時は凄い喜んでいたわ……でもね、彼女の中にいるのはディザスティアでは無く、その残滓……つまり、レティシアーナの中ではあれはディザスティアではないのよ」

「いや、質問はどうでもいいけど、話しがなげぇよ!つまりあれは、ディザスティアじゃないから、レティシアーナと体の主導権を奪い合って喧嘩してるせいで動かないって事だろ!さっさと結論を言えよめんどくせぇ!」

「……レースちゃん、ダリアちゃんの育て方間違えてないかしら、小さい頃から口が悪いと大人になってから苦労するわよ?」

「いや、今回に関しては母さんが悪いと思うし、体調が良くないんだから休んでなよ」


 ダリアが我慢の限界が来て怒り出してしまったけど、これに関してはしょうがないと思う。

けどとりあえず今の事に関して理解出来たから、それに関しては素直にありがたい。


「そう?ならそうさせてもらうわね」

「おぅ、ここは俺達が何とかするから、ばあちゃんははでしゃばらずに休んでろ」

「ダ、ダリアさん、そういう言葉はあんまり言わない方が良いですわ!」

「あ?なんでだよ」

「何でかは分かりませんわ、けど……そういう言葉を口にすると良くない事が起きる、そんな気がするのですわ!」


 ミオラームが焦り出すけど、今の発言の何処に良くない事が起きる要素があるのか分からない。


「……ソフィア様も黙ってないで、何とかしてくださいまし!」

「今何とかする為の準備をしているので、静かにして貰えると助かります」

「何とかするって?」

「何かするつもりなら説明してくれよ」

「お二人まで……分かりました、まずこちらの指輪を見てください」


 ソフィアが心器の杖槍を顕現させると、天井が黒い霧に覆われる。

その中に複数の指輪が表れたかと思うと、夜空を照らす星々のように輝き始めると徐々に二匹の蛇が描かれて行き。


「……綺麗だと思いますけど、これがどうしたのかしら?」

「歴代の魔王達が死後、その死体を宝石へと加工し指輪へと変え来るべき時に備えてきました」

「死体を宝石に、確かメセリーの伝統でしたわよね?死後残された方の為に指輪に魔力を封じる事で、その方が得意だった魔術を使う事が出来るとかでしたっけ?」

「大まかに言うとそうですね、ですが……本来は王族に封印されている偉大なる神【智神】セラフナハシュの力の一部を削り封じる事で、世代を重ね無力化する為の儀式を、我が魔導国メセリーの民が真似して広まったのが始まりですね」

「……という事は、この指輪に全てセラフナハシュが封じられてるの?」


……ぼくの言葉にソフィアはゆっくりと頷く。

そして杖槍をバトンのように回すと更に指輪の輝きがます。

同時に、ディザスティアの主導権争いが終わったのか、咆哮を上げてぼく達を見下ろすのだった。

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