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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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二代目の覇王

 心器の【自動迎撃】が間に合わない程の速度で、打ち出され一撃に全身の骨を砕かれながら、床を転がっていく。


「父さん!大丈夫か!」

「……っ!」


 声を出そうにも、呼吸が上手くできない。

胸の奥から生暖かい物が込み上げて来たかと思うと、勢いよく口から大量の血が吐き出される。


「……脆い、これが私の血縁?」

「レースさん!」


 ソフィアがこっちに近づこうとするけど、初代薬王ハイネ、いや……ドライハイネに阻まれてしまう。

その間にレティシアーナが、ゆっくりと歩いて近づいてくるが、その表情は変わる事はなく、眼には感情が無い。

何とか身体の痛みに耐えながら、吐血によりパニックを起こしている頭を気力を振り絞って落ち着かせつつ、自身に対して治癒術を行使する。

……吐血をしてしまった以上、迅速に治療を行わないと危険だ。


「父さんに近づくんじゃねぇ!」

「……さっきから父さん、父さんって言うけどあなた、もしかしてこの恥さらしの娘?」

「恥さらし?おめぇ、父さんの事を恥さらしって言ったのか?」

「えぇ、ストラフィリアの王族は力こそ全て、私の攻撃を耐えられずに一撃で死にかける何て恥でしかない……それに」


 何か話してるみたいだけど、声が遠く聞こえる。

この症状から判断出来るのは、一時的に大量の血液を失ったせいで貧血を起こしているのだろう。

……けどその程度で済んで良かった、本来なら吐血した血液が気道に入って呼吸が出来なくなり、窒息してしまう危険性があった。

その場合、心臓が徐々に止まり、脳に血液が送られなくなった結果……どうなるかは嫌でも想像に難しくない。


「あ?……それになんだよ」

「父上とそっくりな顔をしていて気に入らない、恥さらしの娘、こいつの名前は?」

「恥さらしの娘じゃねぇ、俺にはダリアって名前がある!それに父さんは恥さらしじゃねぇ、俺の自慢……とはいいがたいけど、父親のレースだ!」

「レース?へぇ、名前も父上に似てるのね、むかつくわ……どきなさい、今この死にかけにとどめを刺してあげる」

「やらせるかよ!父さんを殺すなら、俺を倒してからにしろ!」


 魔力を血液に変換して輸血、そして損傷部位の治療、必要とあれば禁忌指定された術で体内の再生成。

失った部分を作り直すとなったら、身体の負担が大きくなり寿命を大きく削ってしまうけど、予め壊れたものを再生成するだけなら、新たに改良したこの術なら負担は略ないに等しい。

問題は魔力の消費が非常に大きい事だけど、こればっかりはしょうがないだろう。


「……おぃ、ばあちゃんよぉ、これ助けてくれてもいいんじゃねぇか?」

「あら?助けてって、この程度の相手倒せなければレイドに勝つ事何て出来ないわよ?」

「だぁ、もうわぁったよ!レティシアーナ!おめぇは俺がぶっ飛ばすから覚悟しろ!」

「……そう、ならあなたは私が眠らせてあげ……うそでしょ?」

「あ?」


 レティシアーナの相手をダリアだけに任せるわけにはいかない。

だから、まだ体内の血液の量は足りてないけど、必要最低限に抑えて、損傷は禁忌していされた術で即時に治療を施す。

そしてふらつく体を大剣と長杖で支えながら立ち上がると、後先考えずに出力を最大にして【怪力】を発動させる。


「父さん……起き上がって大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないよ、けど……ここで無理してでも倒さないと、ぼくは何時までも限界を越えられないし強くなれない」

「……へぇ、恥さらしと言ったのだけは謝ってあげる、お詫びに一つだけ答えてあげるけど、何か聞きたい事あるかしら?」

「聞きたい事?この状況で君は何を……」

「特別にこの私が答えてあげると言ってるのよ?ほら、聞きなさいよ……例えばどうして私だけが会話が可能なのかとかね」


 まるで聞いてくれと言いたげに、雪の大槌を肩に担ぐ。

その余裕そうな仕草に、少しでも隙が見えたら全力で攻撃をしようとするけど、そんな隙を見せてくれる訳が無く。

こちらを見て、始めて嘲るような感情の篭った笑みを作って指を指す。


「それって、君が言いたいだけじゃないの?」

「あら?バレちゃった?しょうがないから教えてあげる、私だけが意識を持って話せる理由、それは……マスカレイドの提案に乗ったの、生前戦って戦って、何処までも戦って死んだ私をに新しい身体をくれて、満足行くまで戦わせてくれる、変わりに力になれって言う提案に!」

「……狂ってる」

「狂ってて結構!けど……賢王と薬王は馬鹿ね、こんなに良い提案をして貰えたのに、『わしはもう終わった存在だから眠らせてくれ』とか、マスカレイドを見て『あなたが道を踏み外すところを見たくなかった』何て言って、蘇らせてくれた彼に対して敵意を持つのだもの、そんな事したら脳の一部を切除されて自分の意識を奪われて、設定されたプログラム?って言うものに従う兵器にされて当然よね、だって武器に感情は必要ないもの!」


……レティシアーナはそう言葉にして、ゆっくりとドライハイネの方に近づくと肩に担いでいた大槌で勢いよく頭部を狙いそのまま床に叩きつける。

甲高い金属音と、生身の部分がつぶれたような嫌な音がしたかと思うと『ほら、この通り意思がないってかわいそうよね、自分の身を守る事すら出来ないのだもの、恥さらしもいい所だわ!』と、物言わぬ人形となったドライハイネを踏みつけながら、高笑いをするのだった。

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