暗号通信
俯いたまま固まってしまったカエデに対してどうすればいいのか。
こういう時に何か気の利いた言葉を掛けた方がいいのかもしれないけど……
「こういう時、カエデちゃんみたいに大人びた対応をしようとする子は、こっちが気を使うと自分を隠しちゃうよ?」
「……確かに」
耳元でダートが小声で助言をくれるけど、確かにカエデの事だからこっちが優しくしようとすると、こちらに心配かけさせないように気丈に振る舞ったりして、気持ちを隠そうとしてしまうだろう。
なら、ぼく達に出来る事といったら、普段通りに接してあげるくらいなのかもしれない。
「……決めました、私」
「決めたってどうしたの?カエデちゃん」
「ライさんと連絡を取って、しっかりと行動を起こします」
「行動って……確か、団長を捕らえてカエデが新しい団長になるって言うあれだっけ?」
「はい、……今すぐとは行きませんが、ダートお姉様とレースさんのお子さんが産まれてから、本格的に動こうと思います」
カエデが覚悟を決めた表情を浮かべると通信端末を取り出して、ライさんへ連絡をする為に番号を入力していく。
そして……呼び出し音が鳴ると、暫くして懐かしい声が聞こえて来て
『カエデ姫、急に連絡をしてどうしたんだい?』
「例の件についての話なのですが……今大丈夫ですか?」
『……少しだけ待ってくれないかな』
通信端末越しに、何か変な音がする。
トントンと叩いているようだったり、ツーという何かをこすっているような……。
「なるほど、分かりました……それでしたら一度通信を切るので後で余裕が出来た時に連絡をください」
『気遣いに感謝するよ、それなら今の案件が落ち着いたらこちらから折り返すよ』
ライさんの声に合わせて、カエデがテーブルを叩いたり、通信端末にあるボタンを長押ししてピーっという音を鳴らしたりする。
それに合わせて返事をするかのように、あちら側からも音がしたかと思うと、通信が終わったのか無言になり……
「……カエデちゃん、今のって何をしてたの?」
「ダートお姉様、今のはライさんが考案した音を使った独自の信号による対話です、何でも古い時代にマーシェンスで使われていた長距離連絡用の言語を改良した物だそうで」
「それって何て言ってるのか分かるの?」
「はい、難しい言葉になると分かりませんが、簡単な会話程度なら問題無く出来る程度には」
マーシェンス独自の言語、ミオラームが知っている王族のみが知っている、0と1で作られた物や、今回見た音を使って会話する方法。
特別な知識が無いと分からない物が多すぎて、確かにこれならさっきの通信中で話の内容を誰かに盗み聞きとかされる事は無いのかもしれない。
ただ……何も知らない人からしたら、いきなり何かを叩きだしたり音を出し始めたりするから不審者そのものだ。
「レースさんやダートお姉様に説明すると、ウィリアム教授がマスカレイドと繋がりがある事を簡易的に知らせた感じですね」
「今の短いやり取りで?」
「はい、最初のライさんからの信号は『要件、連絡』私が返したのが『教授、内通者、指名手配、黎明』、最後の返事が『了解、調査』という内容です」
「んー、何か凄いね」
確かにその短い内容で、ここまでのやり取りが出来るのは凄いと思う。
ぼく達も同じ事が出来れば、敵に悟られずに情報の共有が出来るのではないだろうか。
そう思うと、後でカエデに色々と教えて貰った方がいいかもしれない。
「……そういえばカエデ、さっきの連絡の本題はどうするの?後で連絡が来るって言ってたけど」
「連絡は来ませんよ?さっきのやり取りで『例の件について』と言えば、伝わるようにしてあるので」
「なるほど、それならいいけど……あ、そういえばランはどうしたの?」
「ランちゃんですか?、あの子なら私と一緒に帰って来た後、そのまま寮に戻りましたよ?それがどうしたのですか?」
「あぁ……ほら、栄花騎士団の件でさ、彼女のお兄さんだけは最高幹部の中で唯一団長側だって以前ライさんから聞いたから、大丈夫なのかなって」
以前メイディの首都に滞在していた時に、気にしないという風には言っていたけど、実の兄と敵対して本当に大丈夫なのだろうか。
そう思うと彼女の事が心配になるけど……
「問題無いと思いますよ?ランちゃんはしっかりとした子ですし」
「ねぇ、レース、カエデちゃん、取り合えず今は栄花の件はある程度話がついたし、ロドリゲスさんについて話した方がいいんじゃないかな」
「……話した方がいいって言っても、ぼく達に出来る事と言ったらソフィアに直接話すとか?」
「いえ、それは止めた方がいいと思います、魔王ソフィア・メセリー様にお話しして、ロドリゲス・ビネガーが学園の教師を解雇され、彼が辺境都市クイストを去ってしまったら、マスカレイドとの繋がりを調べる事が出来なくなります……なので、こここは敢えて現状は何もせずに何らかの不審な行動を起こすのを待った方がいいと思います」
……確かにカエデの言う事は一理あるかもしれない。
とはいえ彼を泳がせるのはいい、でも生徒達に被害があったりしないだろうか。
色々と気になるところは多いけど、今出来る事がそれしかない以上はしょうがないと割り切るしかないのだった。




