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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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黎明の内通者

 グロウフェレスが、シャルネと別行動をとっているのなら彼女は何処にいるのだろうか。

ぼく達の最大の敵であり、この世界を壊しかねない【天魔】シャルネ・ヘイルーン……、正直マスカレイドの拠点よりも、そっちの方が気になる。


「……グロウフェレス、聞きたい事があるんだけどいいかな」

「聞きたい事?私が答えられる範囲なら良いですよ」

「それなら、──は今何処にいるの?」


 本来なら義肢の左腕に組み込まれた、マスカレイドの偽装の魔導具から取り出したコードのおかげでシャルネの精神汚染の効果から外れる事が出来て、名前を言葉にする事が出来るけど、グロウフェレスの前で名前を言える事が知られてしまったら、あちら側にぼく達が不利になるかもしれない情報を渡す事になる。

だから母さんが作ってくれた方の偽装の魔導具を使う事で、未だにぼくが彼女の能力に掛かっていると思わせた方がいい。


「それ位なら話してもいいでしょう、主人でしたら栄花にいますよ」

「……栄花に?」

「私達の拠点は栄花にある、封印指定され人が近づく事を禁止された区域、名称封印指定区域です」

「あの……グロウフェレスさん、敵対関係にある私が言うのもどうかと思うけど、そんな大事な事を話しちゃっていいの?」

「えぇ、別に構いませんよ?何故なら場所を把握出来たとしても……あなた達ではたどり着く事は不可能ですからね」


 ……栄花にシャルネ達の拠点がある。

栄花騎士団の団長で、ぼくも婚約者であるカエデの父……キリサキ・ガイはその事実を知っているのだろうか。


「それをぼくが栄花騎士団の団長に報告したらどうするの?」

「どうもならないと思いますよ」

「……それってどういう事?」

「ふふ、その情報までは渡せませんが、あなたが栄花騎士団の副団長様と婚約関係にあるのなら、いずれ知る日が来るかもしれませんよ?」


 グロウフェレスは、栄花騎士団について何か知っているのかもしれない。

そんな事を感じさせるような、含みのある言い方に警戒心を抱くけど、今の彼はぼく達と争う為にここにいる訳ではないようだから、これに関しては反応をしない方がいいだろう。


「……さて、レースさんが聞きたい事には答えましたが、ダ-トさんあなたは何か聞きたい事がありますか?」

「えっと、じゃあ……グロウフェレスさんは、学園で何をしてるの?」

「……それは答えづらい内容ですね」

「無理だったら答え無くてもいいよ?」


 学園でやっている事がそんな言いづらい事なのか。

いや、でも……ぼく達に話してこの国の王であり、辺境都市クイストの領主であり、更には学園で学園長という立場にある、【魔王】ソフィア・メセリーの耳に入るような事があったら、困るような事があるのかもしれない。


「いえ、ただ……あの学園の教師の中に、マスカレイドと繋がりのある者がいる事が分かったので」

「マスカレイドと?」

「えぇ……ロドリゲス・ビネガー、私達の同僚であり、この国において指折りの実力者である魔術師である彼です」

「ロドリゲスが?……けど、あの人は最近真面目に授業を受けるようになった生徒達の面倒をよく見るようになったから、問題ないように見えるけど?」

「……?あなたにはそう見えるのですね」


 ロドリゲスが、マスカレイドと繋がりがある。

多分マスカレイドがメセリーに滞在していた時に、共同で魔術の研究をしていたとかそんな所だと思うけど……、当時はまだぼくが産まれていなかったと思うから、それが真実かどうか分からない。


「なら、ウァルドリィ・ワイズ・ウイリアム教授も、過去に繋がりがあったと聞いたら?」

「……ウィリアム教授が?」

「えぇ、マーシェンスの魔科学技術と、彼が研究していた魔術を利用したモンスターの制御術式、それを合わせて産まれた魔導スライムの脱走の件はご存じで?」

「いや、知らない」

「……本当に知らないようですね、私もマスカレイドから直接聞いた程度の話ですが、数年前通常の個体よりも再生力と体内の酸による消化能力を強化し、一定の支持を理解して動く人工頭脳を取り入れた個体だったらしいのですが、ウィリアム教授の不手際で逃がしてしまったらしく、冒険者ギルドの討伐対象になってしまったらしいです」


 ぼくがまだ首都にいた時に、当時トレーディアスから来た高ランク冒険者だった、ジラルド達が受けた依頼に状況が似ている気がする。

その結果、ジラルドは体の一部が欠損し、クロウに至っては瀕死の重傷を負う事になって、後に禁忌指定される事になる新術を使い治療を行ったけど……、その結果、コルクは彼等から逃げるようにパーティーを抜け。

ぼくと一緒にこの辺境都市クイスト、いや当時はまだ都市ではなく集落みたいなものだったけど、移住する事になった。


「……そのスライムに関しては、依頼を受けて失敗した冒険者をぼくが治療したから覚えてるよ」

「なるほど、それなら話は早いですね」


……グロウフェレスはゆっくりと立ち上がり『ですが、この事に関してはあなた達も既に他人事ではありませんよ?、ダートさんが妊娠中である事をロドリゲスを経由してマスカレイドが知った場合、狙われるのは間違いなくあなたなのですから』と言葉にすると、何処からか鈴がなるような音がする。

一瞬意識が遠くなったかと思うと、次の瞬間そこにいた筈のグロウフェレスの姿が影も形も無く消えていたのだった。

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