クラスの現状
ダリアが自己紹介をした後、クラス内を見渡して空いている席を勝手に探し始める。
こういう時は教師が指定するべきだと思うのだけれど、ぼくも今日から新任教師として働く訳だから何処が空いてるのか分からないし、彼女に任せた方がいいだろう。
「あ、あの……レース先生、ダリアさんが空いてる席を探してるみたいなので、私の隣使っていいですよ?」
「えっと、じゃあお願いしようかな……ダリア、あそこの子の隣の席が空いてるらしいからそこに座って」」
「ん?おぉ、お前いい奴だなっ!俺はさっき自己紹介したけどダリアってんだ、よろしくな?」
ダリアに任せようとしたら、スパルナが立ち上がって隣の椅子を指差しながら空いてる席を教えてくれる。
「こ、こち、らこそ、よろしくね?えっと私、スパルナ・フォン・フェーレンって言うの」
「フェーレン?って事は、もしかしてスパルナがマローネの孫か?」
「えっと、うん……」
「おぉ、まじか!って事は今からお前の俺の友達だなっ!」
席について直ぐにスパルナと打ち解けて友人関係を築いている辺り、ダリアのそういう所は本当に凄いと思う。
ぼくならそういうの出来ないし、友人関係を作るのに長い時間を要してしまうタイプだから、仮に相手が友人だと思ってくれていてもこっちが自覚する事が難しい。
「ちょっと!ダリアさん!?あなた……フェーレンとお友達になるつもりなのかしら?」
「ん?あぁ、そうだけど?それがどうしたんだよエスぺ」
「どうしたんだよってあなた……彼女はこの辺境都市クイストの前領主の親族ですわよ?魔王様に逆らった逆賊の身内とお友達になるなんて正気ではありませんわ」
エスペランサの言葉を聞いた数人の生徒が頷くと、敵意を込めた視線をダリアへと向ける。
多分、今ぼくが出来る事は彼女達の間に入って止めるよりも何も言わずに見守る事だろう。
仮にここで大人が話に割って入ってしまったら間違いなく拗れてしまうだろうし、様子を見る事も大事な筈だ。
「……エスぺおまえさぁ、そんなくだらない事言ってんじゃねぇよ」
「くだらないですって?ダリアさんあなた、このエスペランサ・アドリアーナ・ウィリアムをくだらいと仰るのですの?」
「あぁ、くだらねぇだろ、そこの頷いてる奴等も同じように馬鹿なんじゃねぇの?考えてみろよ、前の領主に問題があったとしてもスパルナには何の問題もねぇだろ、そいつの問題を家族に持ち込むんじゃねぇ、犯罪者の子は犯罪者理論振りかざしてんじゃねぇよくだらねぇ」
「な……えっ」
「俺が転校して来たからには、これから先そんな馬鹿みてぇな事しだしたらぶっとばすからな!覚悟しろよ?エスぺ、おめぇも友達だからって容赦しねぇぞ!」
何ていうか、凄いなぁって思う。
このクラスの問題がダリア一人で解決してしまうのではないだろうかと感じる程で、勢いだけで行動できるのは彼女の強みなのかもしれない。
「あいつ生意気じゃね?」
「一度分からせた方がいいだろこいつ」
「可愛いからって生意気だろ」
先程頷いていた生徒達が立ち上がってダリアへと近づきながら、見習いの魔術師が持つ短杖を構えると魔術の光を灯し始める。
さすがにこれは止めるべきだと思い声を掛けようとすると
「父さん。悪いけどここは俺に任せてくれよ、こういう馬鹿には実力を見せねぇと」
「いや、実力を見せる以前にそろそろやり過ぎだから止まりなよ、エスペランサや他の生徒も席につ──」
「るっせぇなぁ!新任の教師が偉そうにしてんじゃねぇよ!」
「あ、あなたっ!人に向かって直接魔術を使ってはいけませんわ!」
「いつも通り黙らせれば問題ねぇよ!」
意外な事にエスペランサが大きな声で、生徒達を止めようとするが……完全に頭に血が上っているようでそれぞれが詠唱を唱えながら魔術を発動する。
土塊や、先端が尖った水の槍、火の玉が向かってくるけど、どれも今まで経験した来た戦いのせいか脅威に感じる程では無い気がする。
……いや、威力は充分だと思うんだけど、何て言うか相手を傷つけようとしてるのに怖くないというか、何とも不思議な感じだ。
「レ、レース先生っ!避けてください!」
「ん?あぁ……これ位大丈夫だよ」
「な、うっそだろ……今の俺の全力だぞ」
「あ、ありえねぇ、何だよあれ」
空間収納から、【不壊】の効果が付与された大剣を取り出すと鞘から抜き放ち生徒達の魔術を叩き潰す。
心器が使えないから【怪力】の効果が落ちてるけど、鞘から抜いて振る位なら何とか出来る。
まぁ……その後は、重すぎて持ち上げる事すら出来ないせいで教壇に刺さってしまったけど相手に冷静さを取り戻させるのにはちょうど良い筈だ。
「……左腕の義肢だけでもおかしいのに、何だよその武器卑怯じゃねぇか!」
「戦う気が無い人に向かって複数人で魔術を使う方が卑怯だよ……、これ以上やるなら相手になるけど出来れば座って皆の自己紹介をして貰いたいかな」
……空間収納の中に鞘と大剣を戻しながらそう言うと、ダリアが何やってんだこいつ、という顔でこっちを見て来る。
その反応を見るに多分あれが最適解だったと思ったんだけど何かやり方を間違えたのかもしれない。
そう思いながら生徒達の自己紹介が始まるのを待つのだった。




