学園長室にて
ノックして学園長室に入ると、ソフィアに淹れて貰ったのかダリアが椅子に座って紅茶を飲んでいた。
「父さん結構遅かったじゃねぇか」
「途中でマローネのお孫さんに会ってね、色々と話してたら遅くなったんだよ」
「まじかよ、俺もエスペと一緒に来るんじゃなくて……マローネの孫と一緒に来たかったぜ」
ぼくに気付いたダリアが、こっちを見ながらそういうけど……正直あの状況は見られなくて良かったと思う。
正直娘という立場からしたら浮気を疑われてもしょうがないと思うし……特に学園長室に来るまでの道中を考えると、外部の人間が学園の生徒と妙に親し気にしていたように見えたと思うから……これでぼくが今日からこの学園の教師になるというのに良くない気がする。
「まぁまぁダリアさん、レースさんが来たので先程の話の続きを致しませんか?」
「ん、まぁそうだな、と言っても殆ど話はもう終わってんだろ?」
「それはそうですけど、立場上父親であるレースさんにも伝えておいた方が良いですし」
「ならいいけどよ……」
「では改めて、今回ダリアさんが編入する事になったクラスですが、この学園の入学試験にて最も優秀な成績で入学した生徒達を集めて作られていおり──」
優秀な生徒、ダリアが編入する事を考えたら当然なのかもしれない。
実戦経験が豊富で尚且つ使っている所をぼくは見た事が無いけど、精霊術まで使えるとなったら、親のひいき目で見てもかなり優秀だ。
そんな彼女が一般的な成績の生徒だけをまとめたクラスに入った場合、能力的な格差が大きくなってしまうだろう。
「──という訳で、そこのクラスはエスペランサ・アドリアーナ・ウィリアムさんを中心とした派閥のような物が出来てまして、教師を下に見る生徒が多いのですよ……ですが、中にはスパルナ・フォン・フェーレンさんのように教師から積極的に知識を学ぼうとする素晴らしい方もいます」
「あぁ、その子ならぼくが過去にお世話になった人のお孫さんだよ、ここに来る前に会って遅くなったって言った子がそうだね」
「って事は同じクラスの生徒なのか、ならこれから仲良くしてやんねぇとな」
「既に面識があるみたいで安心しました、彼女のように真面目な生徒達が現状まともに授業を受ける事が難しく……」
「それって……学園長であるソフィアが何とかするべき事じゃないの?」
思わず心の中の声を口にしてしまうと、ソフィアは気まずそうな顔をして黙ってしまう。
ダリアもこいつやりやがったなとでも言いたげな顔をして苦笑いしているのを見ると、もしかしたら言わなかった方が良い言葉だったのかもしれない。
「あ、えぇっと……」
「だってしょうがないんですよぉ……、この国の魔王である私が学園長っていう立場自体無理がある話ですし、首都での王としてのお仕事も忙しいし、この領地を治めるのも大変って言うか、なんで辺境の都市なのに五大国の王族が沢山滞在してるの?隣国のマーシェンスの【賢王】ミオラーム様は事情からしてしょうがないと思うけど、そもそもトレーディアスの王女ミント・コルト・クラウズ何て、旦那さんと一緒にここに住むっておかしくない!?自国の領地で幸せ家族生活してればいいのに」
「……あぁ、うんそうだね」
「ストラフィリアの元王女何て、この都市でルミィちゃん防衛隊何て作って子供達のアイドル的な立場になってますし、話を聞いて頭を抱えて胃が痛いのに魔導学園についてはこの生徒問題、優秀な教師候補を国中から頑張ってスカウトしたり、ミオラーム様にお願いして魔導具の教師をして貰う事になったのに、私一人じゃもう無理だよぉ!助けてよぉレースくん!婚期を逃したおばちゃんに何でもしていいから力を貸してよぉ!」
……なんだこの残念な人はって思うけど、この国の【魔王】ソフィア・メセリーはストレスが一定量溜まるとこうなるから、ぼくからしたら見慣れた光景だ。
暫く心の中の声を吐き出させておけば落ち着くからいいけど、困った顔をしてダリアからお前何とかしろよっていう風に見られている以上放置はしない方がいいだろう。
「……何でもしていいって言われたら反応に困るけど、ぼくが出来る範囲の事ならやるよ」
「そ、それなら……レースく……こほん、レースさんにはそのクラスの担任をして頂こうと思います、これは出来る範囲ならやってくれると言ってくれたので決定事項です!」
「あぁ……言わなきゃ良かった」
「言質は取りましたからね!では教室の場所はダリアさんに伝えてありますので直ぐ行ってください!」
「えっと……こういうのはまず、他の職員の方達への挨拶とかそういうのが大事なんじゃ?」
……ダメだこの人完全に頭が回ってない。
こういう時はもう言う通りにしておいた方がいいだろう、そう思いながら部屋を出ようとすると『他の教師の方達には、予めレースさんが担任をする事は伝えてありますので、クラスの方に着いて引き継ぎの方にお会いしたら、自己紹介の後に職員室へ向かってくださいね』と先程とは違い冷静な声が聞こえる。
もしかしてこれって最初からぼくが断れない流れを作って、良いように動かされたのでは?と思いながらダリアと共に教室へと向かうのだった。




