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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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久しぶりの診療所

 扉を開けると、懐かしい匂いがして何とも言えない気持ちになる。

長く住んでいる地域の匂いを人は無意識に覚えているというけれど、ここまで安心するという事は確かなのだろう。


「なんか帰って来たって気がするね」

「ダートもそう思う?」

「うん、だってさ……私達の家だよ?帰って来れたと思うと嬉しいよ」


 ダートも同じようで、安心した顔をしている。

その姿を見て良かったと思うけど……ここ一月の間で彼女の体系は大分変わったような、変わってないような。

いや……ただの考え過ぎだと思うけど、少しだけ体系の変化があるような気がして不思議な感じだ。

子供が出来たら少しずつお腹が大きくなったりとかするのは知ってはいるけど、どれくらいから変化が起き始めるのか分からない。

一応メイディにいた時に、触りの部分は教えては貰えたけど……詳しく聞こうとしたら


『あなた男性ですよね?そういうのはトラブル防止の為に女性の治癒術師に任せた方がいいと思いますよ』


 と言われてしまい、深いところまでは教えて貰えなかった。

確かにメセリーだと小児や産婦人に対して専門的に学ぶのは女性が多いけれど……、男性がいない訳ではない。

けど……色々とトラブルが起きた事例があるのは、専門的に学んだ訳では無いぼくでも知ってるくらいで男性が診断した結果、特に変な事をしていないのに乱暴されたと言い張ったり、子供を虐待されたと騒ぐ患者さんがいるのは確かだ。

そういう時男性という立場は本当に不利で、確実な証拠が無い限りはそのまま拘束され罪に問われる可能性がある。

故に彼女たちの言葉は、素直にぼくの事を気遣ってくれたから出た物だろう。


「で?我はここからどうすれば良いのだ?ルミィやサリッサに顔合わせでもするのだろうかのぅ」

「いや、いきなり顔合わせは良くないと思うから寮の方へ行って貰っていいかな、二人にはぼくの方から話しておくから、後日フランメの方で新生活が落ち着いたタイミングを教えてくれたら、会って話そうか」

「あ、なら私がフランメさんを寮に送ります」

「ならカエデに任せてもいいかな、長い間寮で生活していたから色々と説明しやすいと思うし」

「おぉ、それは良いのぅ、なら頼むぞ?我が義妹よ、手取り足取り教えて貰うぞ?」


 フランメが握手を求め、カエデがそれに応じると扉に触れて寮へと繋げるとそのまま開く。

そして二人で中に入ると暫くして……


「あら?久しぶりじゃない……、て?はっ!?えっ、ガイスト!?なんで?えっ、えぇ!?」


 休みの日なのか、閉じた扉の奥からスイの驚く声が聞こえる。

取り合えず聞かなかった事にして、他の場所との接続を切るとそのまま扉を開けて診療所スペースへと足を踏み入れると……、黒い髪に赤い瞳、そして右目に黒い眼帯を着けた高い身長の男性がベッドに横たわった女性の老人へと向かいマッサージをしている光景が映った。


「……マチザワさん」

「おぉ、レース殿、やっとおかえりなさいですぞ!」

「え、あぁうん」

「今はこの見目麗しいご婦人に、指圧マッサージをしているところですぞ!後はこれ、針を刺してですなぁ!」

「いやだぁ、恥ずかしいわぁ、私が後五十年若かったら狙ってたのにー」


 ……彼はアンさんが使役する自我を持つスケルトンのアンデッド『マチザワ』、彼女が辺境都市クイストに滞在している間、生前の顔を模したらしい特殊な素材で作られた、特殊なスーツ着用して診療所の手伝いに来てくれているのだけれど、彼がいると年齢関係なく女性の患者さんが増えて、結果的に収益が増える傾向にある。

とはいえ、特に怪我をしてる訳でもなく、軽い擦り傷や加齢からくる関節の痛みで来る人が多い。

勿論後者の場合は、治癒術を骨や筋肉の衰えや軟骨のすり減った所を完ぺきとは言えないけど症状を改善したり、悪化した血液の循環を整えたりとかはするけど、問題として非常に話が長くて対応に困ってしまう。

そういう意味では、どのような話でも笑顔で聞いて必ず返事を返してくれる彼の存在は本当にありがたい。

けど身体は骨なのに、どうやって表情を作っているのか……あの人特有の素肌の感覚、しかも血液が通った人間の暖かさを再現しているのか、色々と医学基、治癒術の範囲で見ても大変興味深い、アンさんに聞いたら分けて貰ったりとか出来ないだろうか。


「あら?レース先生お久りぶり……ね?」

「おい、見ろよせんせーの左腕」

「機械?いや、魔導具?なんだこれ」


 現に患者さん達が、ぼくの左腕を指差して騒ぎになっている。

腕に組み込まれた偽装の魔術が込められた回路の効果を使えば、人の腕に見せる事は出来るけど……メイディにいる間、そんな事をする必要が無かったせいで隠す事を忘れていた。

とはいえ……、これに関してはぼくの不注意だからしょうがないけど、これから先同じような事が起きてしまう可能性を考えたら、是非ともあのスーツが欲しいなと思う。

結構な金額がしてしまうとは思うけど、左腕の義肢を隠せるだけでもかなり印象が変わる筈、今度冒険者ギルドに行った時に話してみようかな。


「おぉ、これは良い腕鎧ですな……暫く新婚旅行に行くとは聞いておりましたが、舞い上がって着用したまま帰ってくるのは良くないですぞ?レース殿」

「え?あ、あぁ……うん、かっこ良いでしょこれ、ついつい気に入っちゃってさ」

「はは、そういう所は男の子ですなぁ……、ささっ!旅の疲れやサリッサ殿やルミィ殿、上で休憩中のカルディア氏と積もる話があると思いますからな、帰宅して直ぐ仕事よりも今日はゆっくりとおやすみくだされ!」


……マチザワの言葉に患者さん達の怪しい物を見るような視線が和らぎ、『せんせー、マッチーの言うようにゆっくり休んでくだせぇ!診察とかはスイちゃんがいるから大丈夫っすよ!』と患者さん達の笑い声と共に、そんな優しい言葉が投げかけられる。

何となく気恥ずかしい気になりながら、マチザワにお礼を言って皆で二階の居住区にあがるのだった。

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