無事の確認
転移の魔導具を使い栄花騎士団本部に戻ったぼく達はそのまま、メセリーに戻ろうとしたけど……ふと、アキラさんの事が気になってしまう。
栄花に戻っているとは聞いたけど、本当に無事なのだろうか……幾ら奥の手を使い死ぬ事は無かったとしても……超越者としての力を使い過ぎた結果、調子を崩しているらしいから心配だ。
そう思いながら廊下を皆で歩いていると、見覚えのある長髪の男性の姿が窓から見えた。
「……あれ?あの外にいるのってもしかして」
「アキラさんですね、どうやら仕事に復帰出来る程度には回復したようで」
「でも、近くにいる子は?」
木刀を手に持って構えているアキラさんの前には、彼と近い髪色をした子供が同様に訓練用の木剣を構えている。
暗い水色の髪に、血のように赤い瞳……そして触れたら壊れてしまいそうに感じる、陶器のように透き通った白い肌、予め息子がいると聞いていなかったら女の子だと間違えてしまいそうだ。
「カエデちゃん、アキラさんの息子さんだよね?アンさんから見せて貰った写真にそっくりだもの」
「えぇ、ダートお姉様の言う通りお二人のご子息ですね、それにしても珍しいですね……アキラさんがお子さんを騎士団本部に連れて来るなんて」
ぼく達が思わず足を止めて窓から外にいる二人を見下ろしていると、木剣を構えたままアキラさんへと勢いよく走っていく。
……振り下ろそうとした時だった、足元から氷の柱が出現し少年を天高く弾き飛ばすと、悲鳴をあげながら地面へと叩きつけられそうになる。
そして頭から落ちそうになった瞬間に、背中から氷の翼を生やしたアキラさんが一瞬で距離を詰めると体全体を使って受け止め、ゆっくりと地面に下ろす。
「……何か凄い訓練してるね」
「何を言うとるのじゃレース、あれはかなり実戦的だと思うぞ?武器だけで戦おうとしたら魔術により、あぁやって不意打ちをくらうからな……若い内にそういう戦い方に慣らしておいた方が、あのわっぱが本気で戦士になろうと思った時に役立つじゃろうて」
「今の少ない動きだけで良く分かるの……、私からしたらただ子供を虐めてるようにしか見えなかったの」
「はっは、ストラフィリアじゃと、可愛い子供程早めに戦場に出せと言うからのぅ、まぁ我やゴスペルはそのような環境におらなんだから、あの国では苦労したがの」
「ちょっと反応に困るし……、ここはストラフィリアじゃなくて栄花なの」
ランが困ったような顔をしてぼくとカエデを見るけど、こういう時にどんな言葉を返せばいいのか分からなくて黙ってしまう。
カエデもダートの手を取って歩く事に集中しているみたいで、反応する余裕が無さそうだ。
それを見てランが寂しそうな顔をするけど……時折すれ違う一般団員の人達が、カエデの姿を見て『姫ちゃん、久しぶり元気してた?』とか『この人がカエデ姫の婚約者……?イケてる顔の人を捕まえたんねぇ、凄いねぇ』とマーシェンス特有の訛りが入った口調で、ぼくの事を見てくる人達がいるせいで構ってあげられそうにない。
「しっかし、カエデと言うたかおぬし?さすが若くして栄花騎士団の副団長の任に付くだけはあって、人気者じゃのぅ……もしかしたら団長殿よりも人気なのではないか?」
「いえ……、私はまだ未熟者なので、戦いにおいてもからめ手や卑怯な手段を使わないとまともに戦う事が出来ませんし」
「何を言うとるんじゃおぬしは、戦いに卑怯も何もある訳なかろう、戦場においてどのような手段を用いてでも最後まで生き残った方が正義なのだから、それでうまく行ってるのなら堂々としておれば良いのじゃよ」
「……ガイ、いえフランメさん、ありがとうございます」
「礼等良い、おぬしはダートと共にストラフィリアの王族の一員になる女なのじゃからな、ぶれずに堂々としていて欲しいという、ただの義姉の余計な気遣いじゃよ、むしろ我はこのように思った事を直ぐに口にしてしまうでな……嫌だったり不快だったら言うておくれ?ダートもじゃぞ?我は言われんと分からんタイプの人間じゃからな」
「えっと、うん……、ならその時はちゃんと言うね?」
そうこう話しているうちに、副団長室に到着すると……扉を開けて部屋の中に入る。
そして……中から扉を開けて診療所へと戻ろうとすると……
「何故入って直ぐに再び開ける必要があるのかのぅ……」
「扉がぼくの師匠、いや……育ての親が作ってくれた魔導具のおかげで、決められた手順で扉を開ける事で家に移動できるようになってるんだよ」
「なんと、そんな飛んでも無い事が実際に……あるんじゃろうなぁ、しかしあの転移の魔導具と同じ効果を扉に付与するとはどんな発想をしたらそうなるのか、理解が出来ぬな」
「とりあえず理解が出来なくても納得は出来たみたいだから、家に戻るけど……ルミィとサリッサと会っても喧嘩しないようにね?」
……ルミィはとても我が儘な妹だけど、時折凄い大人びた対応をする時があるから多分大丈夫だと思うけど、問題はサリッサで……ヴォルフガングを慕っていた彼女の前に、彼を殺害したフランメが現れたらどうなるのか。
そう思うと不安になるが、多分大丈夫であることを祈りたい。
そう思いながらぼくは扉を開けると、久しぶりに診療所の倉庫へと足を踏み入れるのだった。




