そして深い眠りへと
ガイスト、いや……フランメの言葉を聞いて、正しいのだろうなと感じるし……、この言動をから今までの彼女が正気では無かったのが伺える。
けど個人的にはやっぱり、以前の彼女の姿が脳裏にちらついて複雑な気持ちになってしまう。
半竜人という希少な種族という事もあるけど、心器の能力を使う事で自身の姿をドラゴンへと変化させる事が出来、それだけでも凄まじい戦闘能力を持っているというのに、【滅尽】アナイス・アナイアレイトの神霊から分かれた、特別な精霊と契約をしているというのも、正直敵として考えると恐ろしい。
残りの人生を家族の為に尽くす的な事を言っていたが、もしその言葉が嘘であった場合、果たして抵抗する事が出来るだろうか。
そうなった場合この中で、フランメとまともに戦う事が出来るのは……彼女に頭を撫でられているラン位だろうけど……今の頭を撫でられて、やめろと言いながら喉をゴロゴロと鳴らしてる状況で、動けるのかどうかと言われると不安だ。
「おーい、戻ったぜー」
「あ、レース戻ってたんだ?おかえりなさい」
そんなぼくの考えなどつゆ知らず、ダート達が散歩から戻って来る。
「あ……?んだよ、ガイストがんでここで寛いでんだ?」
「フランメじゃ、今の我の事はガイストでは無くフランメと呼んどくれ」
「お?おぅ……」
「えっと……」
フランメの言葉に二人が困惑しているけど、これに関してはしょうがないと思う。
ぼくも同じ状況だったら同様の反応をするだろうし、これに関しては彼女の行動が悪いとしか言えない気がする。
「ダートよ、おぬしの旦那は家に住む事を了承してくれたぞ?これで契約は守られたのぅ」
「え……あ、うん」
「事情はフランメから聴いたから大丈夫だよ……、ダート、ぼくを助ける為に色々としてくれてありがとう」
「うん……、でも勝手に色々とやっちゃってごめんね?」
「いいよ、おかげで無事に生きてダートの元に帰って来れたからさ」
正直あそこでフランメが来てくれなかったら、マスカレイドに対して有効打を与える事が出来なかった。
けど……それもたまたま熱に弱いという弱点があったからというだけで、それが無ければ、どうすれば倒せるのか検討もつかない。
人の生命活動に必要な臓器だけ残っているという事は、脳はあるとして……心臓はどうなのだろうか。
昔マスカレイドがメセリーにいた時に、魔導具を疑似的な心臓として稼働させる技術がどうのとか言ってたのを聞いた事があるけど、当時は……
『……理論上は出来るが、今の技術では非現実的過ぎる』
と言葉にしていたのを覚えている。
けど生きている人間の心臓を摘出して、その空いたスペースに魔導具に置き換える場合……その間体内で止まった血流はどうなるのかという疑問が浮かぶ。
特に心臓の中には大量の血液が入っているから、摘出するとなったら何らかの方法で血液を全て取り出さなけれ行けないし、けどそうすると脳に血液が行かない為どっちにしろ死んでしまうだろう。
そう思うと……体の殆どを魔導具へと作り替えはしても、内臓の殆どは生身のままだったのかもしれない。
「……レース?」
「ん?あぁ、ごめん、マスカレイドと戦った時の事を考えてた」
「良かった……、凄い顔色が悪いから何処か怪我をしちゃったのかもって……」
「あぁ、それは単純に疲れてるだけだから大丈夫だよ」
「それなら横になって休んで?」
ダートが心配そうな顔をして、ぼくの顔を覗き込みながらそういうけど……今横になっても眠れない気がする。
でも……横になって目を閉じてるだけでも大分違うと思うから、フランメの件が終わったら身体を休めようか……。
「そうじゃぞ?ここで体調を崩して、契約を守れないとかって言うのは止めるのだぞ?」
「そんな事はしないよ……、けどぼく達の家に住んでいいとは言ってないから」
「じゃあなんぞ?我に家無き子にでもなれと言うのか?」
「いや、貸家でも借りるか……寮に入って貰おうかなって」
「なら寮にするかの、我は治癒術が使えぬが……変わりに診療所の職員達の身の回りの世話をしてやるかな」
寮にいる人達は基本的に自炊出来る人ばかりだけど……、今の所あそこに住んでるのはスイだけで、他の人達は冒険者ギルドの仕事に付きっ切りで戻って来ない。
そういう意味では、お世話をしてくれる家政婦さんみたいな人がいなくても問題無いとは思うけど、これから先人が増えて来た時に……寮の管理をしてくれる人がいるのは心強い気がする。
「……ちゃんと出来るか分からないけど、寮の管理をしてくれるなら任せるよ」
「うむ、なら決まりじゃな?……ではこれからよろしく頼むぞ?我が愛しの弟よ」
「あなたに愛しの弟とか言われるのは何か嫌だな……」
「そうか……、なら時間と共に違和感を感じないようにせんとな」
「……そうなればいいね」
……正直、フランメを連れ帰った際にルミィやサリッサがどんな反応をするのか不安ではあるけど、こればっかりは何とかなると信じるしかない。
そう思いながら椅子から立ち上がると、ダートと一緒にベッドへと向かい二人で横になる。
幾ら疲れてるとはいえ、一人で横になれるのに……それに人前で一緒のベッドに入るのは、何て言うか気恥ずかしい。
そんな事を思いながら眼を閉じると、優しい彼女の腕が背中に回されて一定のリズムでぼくの背を手で叩く。
その感覚が心地よくて……そのまま意識が遠のいて行く。
やっと長い非日常が終わり、明日から束の間の日常が帰って来るのかもしれない。
そう思いながらダートに身体を預け深い眠りへと落ちて行った。




