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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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フランメ・ヴォルフガング

 部屋を出た後、そのまま部屋に戻るけど不貞腐れたような顔をしたランが椅子の上で器用に膝を折りたたんで座っていて、カエデに慰められている光景に遭遇する。


「ランちゃん、私は大丈夫だよ?ほら誰も怪我しなかったし」

「でも……何も出来なかったの、折角カエデちゃんの護衛として来たのに拘束されて……無力なの」

「なんじゃめんどくさいのぅ、たまたま格上とぶつかっただけだろうに」

「っ!ガイスト!」


 ランが勢いよく立ち上がり短剣を構えると喉から獣のような唸り声をあげて威嚇するが……ゆっくりと彼女に近づいたガイストが、頭にそっと手を乗せると撫で始める。


「愚か者が、我に敵意があるかどうかしっかりと見極めんか……、折角実力はあるのに経験が足りなさ過ぎるのが欠点じゃな」

「なーでーるーなぁ!」

「はっは、我が拘束を解いてやらねば恥ずかしい姿のまま宙に固定されておったのは何処の猫かのぅ」

「ぐぅぅぅっ!」


 ……いったい何を見せられているのだろうかと言う気持ちになるけど、思いの外ガイストがこの場に馴染んでいて困惑する。

ぼくがいない間に何があったのかと思うけど、取り合えずこれから一緒に暮らす事になるのなら仲が良い方がいいだろう。


「あ、レースさん、おかえりなさい」

「ただいま、ダートは何処にいるか分かる?」

「お姉様ですか?それならダリアさんと一緒にお散歩に行ってますよ?」

「そうなんだ?」


 あの戦いの後に散歩に行くとか、良く体力が持つなぁとは思うけど多分二人で話したい事があるのかもしれない。

それにダートも部屋に籠っているよりも、ある程度運動をした方が健康的に良いから丁度良い気がする。

とはいえ一応知識があるとはいえ、産婦人にたいする専門的な知識があるわけではないから間違えてるところがあるかもしれない。

けど体調が良くて動ける間は、激しい運動は無理でも軽い運動は必要だとは思うし、何よりも運動不足からくる筋力や体力の低下から来る、様々なリスクを減らす事が出来る筈。


「それなら探しに行こうかな」

「それって探してるうちにすれ違って会えなくなる流れだと思うので、待ってた方が良いと思いますよ?」

「……そうかな?」

「お姉様に会いたい気持ちは分かりますけど、待つのも大事ですよ?さぁ、お茶を淹れるので座ってください、レースさんも戦いの後で疲れてると思いますしゆっくりと休まないと」


 カエデに背中を押されて椅子の所まで運ばれてしまったから、大人しく座る。

確かに彼女の言うように慣れない大きな戦いを経験した後だから、気を抜いたら意識を失ってしまいそうな位に疲れているけど、でもまだ何処かで興奮が冷めてないのか気持ちが昂っているのを感じる。

今まで経験した戦いを振り返ると、ぼくはどちらかと言うと前線に出るよりも味方のサポートをする事が多かったし、それに思い付きで行動して結果的には上手く行っても注意されるような事が多かった。

それに実父であるヴォルフガング・ストラフィリアから、心器の大剣を継承して珍しい二つの心器を持つようになったけど、あの能力はどちらというと今のぼくには到底使いこなせるような物ではない。


「レースさん、気持ちを落ち着かせる効果のあるお茶を淹れたのでゆっくり飲んでくださいね」

「うん、ありがとう」


 お茶を受け取るとそのままテーブルの上に置く。

一応最低限【大雪原】と【氷雪狼】なら使えはするけど、前者の方は正直魔術で代用出来るから使わなければいけないという程では無いし、後者に至っては父のように大量の狼を生み出し物量で攻めるような事は不可能だ。

とはいえ、ぼくが生成出来る狼達は量よりも質の方が勝っているみたいだから差別化されてると思えば個人的には納得が行く。

けど……一番腐らせているのは【孤軍奮闘】の方だろう、頭の中に浮かぶ能力の使い方を見る限り、味方が少なければ少ない程戦闘能力が上昇するってあるけど、ぼくの周囲には常に人がいるから使う機会が無いと思う。


「レースよ、何をそんな難しい顔をしておるのだ?飲まないなら我が頂くぞ?」

「え?あっちょっと」


 手が伸びて来たかと思うと、ガイストがそのままお茶を一気に飲み干してしまう。

突然の出来事に空いた口が塞がらなくなっていると……カエデが別のカップを取り出して中にお茶を淹れて渡してくれる。


「ガイスト……いったい何を」

「フランメじゃ、我の事はこれからそう呼ぶが良い……その名は復讐に捕らわれた哀れな女の名じゃからな、今ここにいる我はおぬしの姉であるフランメじゃよ」

「ならフランメさん、レースさんのお茶を勝手に飲まないでくれますか?」

「お、おぅ……それは悪かったのぅ、ところで何をヴォルフガングのように顔芸をしておるのだ?まるであやつを見ているようで懐かしい気持ちになったが、何をそんなに思い悩んでいるのかの」

「それは……」


 取り合えずぼくが先程考えていたことを伝えて見るけど、その瞬間堰を切ったかのように笑うガイスト、いや……フランメを見て気持ちに少しだけ不快感を覚える。


「はっは、悪かったのぅ……謝るからそんな顔をするでない、ふふ……、レースよおぬしはそんな事を考えておったのか、そんなの難しく考えんで良いだろうに」

「……それってどういう」

「能力をヴォルフガングと同じように使える必要性等無いであろう、おぬしはおぬしだしあやつはあやつなりの使い方がある、全部同じだったら気持ち悪いわ」

「……え?そこまで言う?」

「おぉ、言うぞ?ったくのぅ、おぬしにゴスペル、ヴィーニもそうじゃが、難しく物事を考え過ぎじゃ、そういう悪い所を親から受け継いでるあたり親子だとは思うが、おぬしはおぬしなりに今できる事を精一杯やれば良いのじゃよ」


……そう言ってフランメがぼくの頭を力強く撫でると、再びランの元へ行き何故かお尻のあたりをトントンと叩く、すると反応に困るような声を出して、その場にへたり込んでしまう。

再びこの人は本当になんなんだという気持ちになるけど、『若い内に考え過ぎると、あ奴のように眉間に皺が増えるぞ?それにおぬしはヴォルフガングのように孤独な男では無いのだから、周りに助けを求める努力をするのじゃな』と笑いながら言う彼女を見て、行動はともかく言ってる事は正しい気がするのだった。

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