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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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戦いが終わり……

 あの後、吹き飛ばされそうになった前に首都や地面から枝や伸びた木の根が幾重にも伸びて壁になってくれ、更には【滅尽】アナイス・アナイアレイトが相殺しようとしたのか、壁の前に立ち精霊術を使った魔術で防壁を作ってくれた。

耳が一時的に聞こえなくなる程の轟音と衝撃が収まったかと思うと、辺り一面の景色が全て首都を残し、地面はガラスのようになり……生えていた草木は全て灰すら残らずに消えてしまう。

咄嗟にアキラさん達の方は大丈夫だろうかと思ったけど、氷の壁がある一点を除いて消失しておりその周りには人の形をした影のような後だけが残されて、悲惨な現状が伺え……、戦いが終わったというのに生き残ったのは栄花騎士団の面々と死絶傭兵団の団員、そして一部の騎士と高ランク冒険者だけだった。

多くの犠牲を出した戦いの後、どうなったのかというと……


「……【滅尽】アナイス・アナイアレイトよ、俺の娘を守ってくれた事に感謝をする」

「この化物め、あなたはどうすれば死ぬのよ」


 死んだと思っていた薬王ショウソクが、首都の中から姿を現すとそのまま戦後処理を騎士達に命じその場にいたぼく達を中へと招き入れる。

そして困惑するぼく達の気持ちなど知らないと言わんばかりに謁見の間に通すと……このやり取りが始まった。


「そうじゃ、父よ……あの時余はぬしが頭だけになった姿を見たのじゃよ?」

「……あれは確かに俺だった物だが、必要な犠牲だ」

「ダメじゃ……何を言ってるのか何も分からんのじゃ……」

「分かりやすく説明するとだな……、身体を完全にこの首都と完全に一体化する事に成功したという事だ……変わりにこの国から出る事が出来なくなったが、それに関しては娘を守る為だったからしょうがない」

「……余のから……いや、首都と一体化したという事は父よ……おぬしはまさか人から神になったのか?」


 ……そういえばメイメイは、ショウソクが人を辞めて亜神と呼ばれる存在になった事を知らなかった。

そんな彼女からしたら、自分の元の肉体を奪われてしまった事に関してどう思うのだろうか……。


「そうなる……、今の俺は首都メランティーナその物だ、だが残念な事に神としての権能は何も無いがな」

「それはそうなのじゃ、権能とはそのものが神に至るまでになした物が能力として形になった物じゃからのぅ、父の場合はその経緯を飛ばしてしまったからのぅ、正直メランティーナの身体に囚われたようなものじゃな」

「……そうなのか?」

「そうなのじゃ、おぬしそのような状態になって王としての政務はどうするのじゃ?定期的に行われれる栄花での五大国会議の出席は?色々と問題ばかりじゃぞ?」

「それに関しては俺は王位をメイメイに譲った事にする……そうすれば問題無いだろう?勿論政務に関しては、今まで通り俺が担当するとしよう」


 それって王位を譲った意味があるのだろうかと思うけど、一々反応していたら疲れるから黙っている事にする。


「……それだと余のやる事が無い気がするのじゃが?」

「メイメイには五大国会議の参加及び、今まで通り国内での新薬の製造等を担当してもらう、その過程で必要とあれば許可をしたくないが……これからはお前がこの国の王になるのだから、国外に出て外交を行う事も許そう」

「……つまり余は自由にこの国を出て良いって事?」

「そう言う事だ、その代わり護衛の騎士を一人着けさせて貰うが、この国にメイメイを守れる程に強い者がいないのも事実、それ故に【滅尽】アナイス・アナイアレイトよ、お前に護衛騎士という立場を任せたい」

「……私に?何でそうなるのよ」


 ショウソクの言葉に、アナイスは困惑を隠せないようで……助けを求めるように周囲に視線を送る。

けど……誰もそれに対する答えを出せる訳も無く……。


「考えてみろ、【滅尽】アナイス・アナイアレイトは建前上は俺の政策に不満を持ち組織された集団を率いて首都に攻め込んだ……その結果俺はこの国の王の座を降り娘であるメイメイが次代の薬王となり、国の立て直す事を近い俺の娘から乞われて護衛騎士となったという事にした方が都合が良い、その為に態々お前の名前を憶えてやったんだ」

「理由は分かったけど今の私はそこまでの力はないわよ?、マスカレイドの爆発を抑える為に神霊を犠牲にしてしまったもの、変わりになる子と契約しないと……」

「師匠、それなら我の精霊をあなたに返すのじゃ……元は神霊から分かれて産まれた分霊じゃからな……」

「いえ、ガイスト、それは既にあなたの子よ、だからショウソク……悪いけど神霊を扱えなくなった私にはもう……」

「それなら問題無い、俺の神霊の能力を貸してやる……」


 ショウソクがそういうと壁から、隠し部屋にいたのと同じ女性の姿が現れたかと思うと、周囲に不思議な光が集まっていく。


「……こいつは元俺の妻だったのだがな、精霊となり神霊へと昇華した後自然界の魔力を使い精霊を生み出す事が出来るようになった、つまりアナイスよ、お前の神霊が持っていた魔力を彼女が集めて一か所に合わせて器を作ってやれば?」

「……もしかして、帰って来るというの?」

「厳密には別の精霊……いや、魔力生命体と言えるが人で言う所の血を分けた実の子と言えるだろうな」


 集まった光が赤く輝き炎に包まれたかと思うと、アナイスの元へとゆっくりと飛んで行く。

その姿はまるで、朱い炎の翼を持った小鳥のようで弱弱しくも神々しく感じる。


「この姿は、私が初めてこの子と出会った時の……」

「精霊は精霊使いと共に生き、成長していく、大事に育てて再び神霊に昇華させてやれ」

「感謝するわ、ショウソク・メイディ……これは護衛騎士の任も受けなければ恩を返せないし、私の正義に反するわね」

「なら決まりだな……、後はそこにいるレースとダリアにガイストよ、特に渡せる物品は無いが此度の件に関して礼を言う、お前達がいなければ今頃この首都はクソガキの手により滅ぼされていた事だろう、……そうだな、特別にお前達にはこの国に滞在している間の自由と永住権を渡してやる」


……急に思いついたようにそう言葉にしたショウソクは『話は以上だ、後は王族と護衛騎士だけで話をしたい、お前達は部屋に戻り家族や栄花騎士団の者達とゆっくりと話すがいい』と言われて追い出されてしまう。

取り合えず言われるがままに、部屋に戻ろうとすると騎士の一人がこちらへと走って来て『死絶傭兵団のガルシア殿より伝言を預かって参りました、今回の依頼は無事に終わったと判断して俺達はメセリーに戻るが、思った以上に危険な依頼だったから今度飯でも奢れ!だそうです!』と伝言を伝えると深く頭を下げて何処かへと走り去っていく。

その言葉を聞いて戦いが終わったという実感が湧いて来て、身体の力が抜けそうになるがダート達の顔を直ぐに見たいと感じて急いで部屋へと戻る事にした。

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