意外な弱点
投げ飛ばされて来たマスカレイドを、大剣を使って叩き落すと思った以上に硬い手応えがして金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡る。
片膝をついて地面に着地して眼鏡越しに鋭い視線を送って来るけど、これ以上彼に話をさせたらただただ不快な気持ちになるだけだ。
そう思い呪文を唱えて長杖の先端に雪の塊を生成すると横殴りにして弾き飛ばす。
「ちょ!なんで俺の方に投げんだよ!」
「あっ、ごめん!」
「まったく何をしておるのじゃおぬしは……、ダリア!ここには余達しかおらんから好きに魔術を使って良いぞ!精霊術はまだ未熟だから使う出ないぞ?」
「ったく……しょうがねぇな!」
ダリアの姿が消えたかと思うと、今まで彼女がいた場所にメイメイが周囲から生えた木の根がマスカレイドを拘束する。
その後ろに姿を現したダリアの手に握られた心器の剣を、そのまま突き立てると一瞬にして周囲の風景が風化して砂になっていく。
「……これは時空間魔術か、なるほど、小娘……お前が【天魔】が探し続けて来た時空間魔術の使い手か、レース!お前とダートの間に産まれた女は素晴らしい!この個体がいれば出来る事が増えるぞ!【黎明】の能力により俺の頭の中に浮かび上がった事を試す事が出来るのなら、人は老化からくる寿命という時間の概念から解放され永遠の時を生きる事が出来るだろう!、この娘を俺に寄越せ!」
「……まじかよ、周囲の時間を急速に進めたのに平然としてやがる」
「当然だ、自己修復機能を備えたこの身体がたかが数十年で滅びる訳が無い」
そうは言うけれど、着ている衣服等は例外のようでボロボロになり所々色褪せている。
眼鏡においてもフレームの塗装が剥げ、下の金属が出て錆ており……レンズにおいては劣化して白く濁り、所々がひび割れていた。
けど……マスカレイド本人は無傷な辺り本当に反則的としか言いようがない。
そう思い狼に追撃をするように指示を出して警戒をしていると、頭上から轟音が響き……
「おぬし等!我が来るまで良く耐えた!」
見覚えのある白い髪に赤い瞳、そして特徴的なメイディの民族衣装に身を包んだガイストが炎の塊と共に落下してくる。
そしてマスカレイドが炎に包まれたかと思うと、そのままぼくの方に歩いて来て……
「おぬし……、この馬鹿者が!」
「え?あ……いたっ!?」
何故か頬を叩か、乾いた音が戦場に響く。
余りの驚きに言葉が出せなくなっていると……
「マスカレイドに向けておるその殺意はなんじゃ!、レースよ……治癒術師ともあろうものが、何をしている?おぬしの役目は人の命を救う事であって殺す事ではないだろう!」
「は?え……?」
「いきなり現れてなんなんじゃこやつは!?」
「……なんじゃこやつは?我はこの男の姉じゃよ!こやつの嫁と契約をして助けに来てやったぞ!……ん?おぉ!そこにいるのは姪っ子のダリアか?少し背が伸びたかのぅ」
「……いきなりなんなんだよお前」
豪快に笑いながらぼくの肩を何度も力強く叩くと、今度はダリアを優しく抱きしめる。
その間も近づく事が出来ない程の高温に包まれたマスカレイドが立ち上がろうとするけど、何やら様子がおかしい。
どんどん彼の姿が変わって行くというか、着ている服が全て焼け落ちたようで見えるシルエットは人のありのままの姿だけれど……そこにいるのは頭髪も何もない全身が金属部品と細かい配線のような物に覆われた異形の姿だった。
「いきなり?家族が危険な目にあっているのなら助けに向かうのが姉と言うものじゃろうが……、それに弟が立場的に戦場に立たねばならぬ身になりしょうがないとは言え、明確な殺意を持って相手を殺そうとしているのじゃぞ?我としてはそれを許容するわけには行かぬのじゃよ」
「……取り合えず理屈は分かったけど、余と話し方が被ってるから変えて欲しいのじゃ、それに戦場で悠長に会話をしている暇はないのじゃよ」
「何を言うか薬姫よ、既に勝負はついておるではないか……幾ら心器と一体化して強靭な肉体を得ておるが、こやつには明確な弱点があってのぅ」
「こんな化物の何処に弱点があんだよ?」
「ダリアは気づかぬか……、心臓や肺等の重要な臓器は生身もままと聞けばレースは分かるのではないか?、こうやって炎に包み周囲の酸素を燃やしてしまえば動きは止まる」
確かに理屈は分かるけど、あの金属で出来た身体にどうすればそこまでの熱量を加える事が出来るのだろうか。
ただ……あの時、【神器開放】を行い、封じられた【ディザスティア】を一撃で葬った一撃が使えるのなら不可能では無いのかもしれない。
「……理屈は分かるけど」
「じゃろう?愚かな物よな……自らを兵器へと変え身体能力を向上させた変わりに明確な弱点が出来てしまったのじゃからな、肉体を強化しても中を焼かれたら終わりじゃろうて、現に先程までべちゃくちゃとうるさかったのが静かになったじゃろう?」
……その言葉の通り静かになったマスカレイドが全身から煙から水蒸気のような物を噴出させたかと思うと、身を包んでいた炎が消える。
そして、ゆっくりと立ち上がったかと思うと……腕から通信端末のような物を取り出し何らかの操作を始めたかと思うと『……俺の意識データのバックアップを拠点に送信した、生きていたらまた会おう』と言葉にしたかと思うと、全身に白と黒の光が集まっていき……彼を中心に広範囲の爆発が起きるのだった。




