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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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黎明

 マスカレイドへと伸びる枝が風切り音を出しながら彼に迫るけど、全て見えない壁に阻まれて彼に届かない。


「……あれは?」

「ショウソクが足止めをしてくれているだけだ」

「それは分かるけど、攻撃が届いてないよね」


 マスカレイドの背後に顕現している心器の魔導工房から、何かの液体が入った瓶を取り出したかと思うとそれを枝へと向かって投げる。

それが撃ち落とされたかと思うと、首都全体が地響きを立てて揺れ始め……


「これは……?」


 首都として使われている【薬神】メランティーナの身体の色が変わり枯れ始め、伸びていた枝が乾いた音をあげて折れる。

それと同時にアキラさん達が前に出てマスカレイドへと向かっていくけど、状況が理解できないぼくだけがその場に取り残されてしまう。


「え……あ、急いでいかないと!」

「戦場で迷うな、お前は馬鹿か……」

「え?」


 隣から声がして驚いて振り向くと、そこには首都から身体を生やした化け物の姿をしたショウソクがいた。

その姿は所々変色していて痛々しい。


「……えっと、大丈夫なの?」

「これが大丈夫だと思うのならそうなのだろうな……」

「あぁ、えっと治癒術で治す?」

「いやいい、強力な除草剤を撒かれたようなものだ、しばらくすれば元に戻る」

「それって全然大丈夫じゃないと思うんだけど」


 植物に特化した毒を使われたという事は、今のショウソクの身体はかなり弱っているのかもしれない。

これは凄い危ないのではないだろうか。


「それならここにいないで安静にしていた方がいいんじゃ?」

「お前の家族を守るように言われたからな……、ここであのクソガキを止めなければ守れないだろう、だから出て来たというのに随分な言われようだな」

「……えっと、そういう事じゃなくて」

「なに……言わなくても分かっている、レース……お前が気遣いをしてくれているという事はな、だが……俺は自分の事に関してすら興味が無い」


 あぁ、何かめんどくさい。

結局の所この人は何を言いたいのだろうか……、こんなやり取りをしている間にもマスカレイドに向かって氷の魔術や炎の精霊術を使った二人の攻撃が行われているから、早く合流した方がいいと思う。


「……取り合えず、二人が戦ってるから早く合流しようよ」

「そうだな、国を滅ぼしに来た害虫は駆除しなければな」


 ショウソクの身体がエルフの物に戻ると手元に木で出来た剣が現れる。

たぶんだけど……あれがこの国の王が継承して来た心器だろうか、ぼくが父から受け継いだ大剣のように固有の名前があるのかもしれない。

そう思いながらアキラさん達に合流すると……マスカレイドと目線が合う。

二人の攻撃を魔導工房から量産され続ける魔導具の盾を持った人型の魔科学兵器で防ぎながら見て来る辺りかなりがあるのかもしれない。


「小僧、お前がこの場に来るのには実力不足じゃないのか?」

「……話す余裕があるんだ」

「当然だ、何せこいつらの能力は今の俺と相性が良いからな……滅尽がいる事を想定して炎熱耐性を魔科学兵器に持たせている」

「でも、なんでマスカレイドが戦ってるの?ルードに用があるんじゃなかったの?」

「……それに関しては言いたい事があるが、【氷翼】と【滅尽】、悪いが攻撃を止めろ、本気でやり合う前にレースと話をしたい」


 ……ぼくと話がしたいってなんだろうか。

何故かマスカレイドの言葉を聞いた二人が攻撃を止めてぼくの近くに来る。


「まずは戦闘中に疑問を投げかけるな愚か者が、答えてやるが仕掛けて来たのは貴様等だろ……ケイスニルをけしかけた挙句安全な場所から盗み見るとは恥ずかしいとは思わないのか?」

「クソガキ、何の話をしている?」

「……薬王、お前その体はどうした?所々腐ってるではないか、まさかあの毒にやられたのか?……ふふふ、面白い、という事はお前は【薬神】メランティーナの力を制御出来ているという事か、現にメイディの心器【エリクシリア】を顕現させているという事はそういう事なのだろうな」

「……相変わらず気持ちが悪い男だ、早口で何を言ってるのか分からん」

「お前はいつもそうだな、俺の言葉の殆どをまともに聞こうとはしない……俺のやろうとしている事がエルフ族の為になる事が何故分からない?、ハイネの夢見たあのエルフ族が元々いた世界に戻る為には手段を選ぶ必要は無いだろう、どんなに犠牲を出してでもやるべき事をするべきだろう」


 ハイネ……確か初代薬王の名前だった筈、やはりあの本に付いていた涙の後はマスカレイドの……。


「……母の想いと俺の思いは違う、俺は娘がただ幸せに生きれるならそれでいい、それにだ住む場所が変わった以上はその場に適応するべきだろう、それが出来なかった癖に偉そうに口を開くな、レースもそう思わないか?」

「えっと……反応に困るかな」

「薬王こいつに同意を求めるな、お前の意見とレースの意見は違うだろ……それに俺は小僧と話しているのに割り込んでくるな愚か者、で?盗み見していたのはだれだ?」

「それはえっと、ぼくがマリステラと一緒に見てただけで……」

「……そうか、ならお前は俺の秘密を知ったわけだな?この前のメセリーの件といいお前は何処までも俺の計画の邪魔をする、もういい……レース、お前だけは俺の魔術理論を継いでいる以上生かしてやろうと思っていたが気が変わった」


……彼の背後の魔導工房に張り付けられてる、三つ棺がゆっくりと開くと白い煙をあげながら三体の人形が姿を現す。

そして中央にある大筒を取り外すと、魔導工房が音を立てて崩れ出すのであった。

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