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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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マンティコア

 迫って来るルードの手に何時の間にか、螺旋状の刃を持ったナイフが手に握られている。

それを勢いよく突き刺そうとした所で【自動迎撃】によって発動した雪の魔術によって防がれるが……、衝撃に耐えきれなかったようで一瞬で砕かれてしまい、そのまま勢いを殺す事無く突っ込んで来た。


「……最近、この能力があんまり頼りにならない気がする」

「それ程相手がおまえよりも格上だって事だろ?来るぞ!」


 二匹の狼が壁になろうとするけど、蠍の尾で弾き飛ばされてしまう。

それを見て咄嗟に大剣で防ごうとするけど……


「……え!?」


 一瞬でぼくを乗せた狼が衝撃で砕けたかと思うと、攻撃を防いだ大剣ごと弾き飛ばされ受け身を取る事無く地面を勢いよく転がる。

何とか武器だけは手放さないようにしたけど、全身が軋むように痛んで上手く立ち上がる事が出来ない。

多分、身体の何処かしらの骨が折れているのかもしれない……そう思いながら治癒術を発動させて怪我の治療を始めるが……。


「……お兄さん弱いね?」

「レースが弱いんじゃない、あんたが強すぎんだよ」

「お姉さんは誰?」

「あたいはトキってんだ……、しがない栄花の鍛冶師だよ!」

「でも、お姉さん強いよね?そこのお兄さんも……だから友達になってよ」


 何とか2本の武器を杖代わりにして立ち上がると、今度は二人に向かって翼を広げて飛び掛かっていた。

しかしハスの銃による攻撃によって、全身が炎に包まれると怯んだところを、トキが【壊滅】と【不壊】が付与された禍々しい戦斧を叩きつけ爆発を起こし、激しい土煙を巻き上げながらルードを弾き飛ばす。

それを追うようにして二匹の狼が飛び掛かって行く。


「レース!無事かっ!」

「だい……じょうぶ!」

「それならさっさと戻って来な……!こんのガキ、あたし等の事を餌として見てない!」


 とりあえず体に走る鈍い痛みが引いたから、急いで合流すると……かすり傷しかついてないルードがゆっくりと立ち上がり、二匹の狼を無視して蠍の尾を伸ばして突き刺そうとする。


「餌じゃなくて友達だよ?」

「うぉらぁっ!簡単にやられるあたいだと思うなよ!」


 トキが戦斧で尻尾を両断すると、即座に灰に変わったかと思うとルードの元へと帰って行き瞬時に再生する。

多分だけど、切られた部分を死霊術でアンデッドに変えて自分の身体に継いでいるのかもしれない。


「友達って言うのはなぁ!相手を殺してなるようなもんじゃない!信頼関係から来るんだよ!」

「知ってるよ?僕は皆を信頼してる、ほら新しく友達になったこの猫の獣人さんもね?」

「おめぇは友達を食うのかよ」

「……これはしょうがないんだ、強い友達を食べろって身体が本能が疼くんだ!だから……食べさせてよ!」

「ルード、君は……」


 めちゃくちゃだ……もはや倫理観も何もない。

人の形をした化け物が目の前にいる……。


「レースお兄さん、お父さんは?お父さんは何処……?」

「……え?」

「お父さんとここで合流する約束なのに来ないんだ……、何処にいるか知ってる?」

「死んだよ、ケイスニルはマスカレイドと戦って……」

「……」


 ルードが驚いた表情をしたまま、その場に棒立ちになる。

多分いきなり死んだと言われて理解が追い付かないのだろう……。

ぼくも同じ立場で、ダートが死んだと言われたら同じ反応をしてしまうと思う。


「……嘘だ」

「悪いけど、事実だよ」

「嘘だ嘘だ……嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だぁ!」

「レース!これ以上相手を挑発するな!あぁいうタイプは冷静さを失ったらヤバい!」

「もう手遅れだよ馬鹿ッ!」


 両手で頭を抱えるようして悶えると、爪を立てて搔きむしり……周囲に鮮血が舞う。

そして血まみれになった両手を脱力したかのように下ろすと、真っ赤に染まった顔でぼくを睨みつけ。


「……ならお兄さんだけでも持ち帰る、お父さんが言ってた、お兄さんだけ生きて捕らえる事が出来れば、ぼく達を増やす事が出来るって!」


 そう言って再び飛び掛かろうとするルードを、武器を口から話した二匹の狼が脚に噛みついて邪魔をする。

それに続いてハスが炎の弾を撃ち出して燃やし、再び怯んだ所に今度はぼくが大剣を勢いよく横殴りにしてぶつけるが、硬い物を叩いたかのような甲高い音がすると逆にこっちが反動でふら付いてしまう。


「……な、かったい!」

「痛くないよ……だって、友達を沢山食べて強くなったから!」

「こんなん倒せる奴いんのかよ!」

「あたいが何とかするっ!あんたらは離れな!」

「分かった!レース、下がれ!」


 言われた通りに下がると、トキの戦斧に眩しい程の光が集まって行き……雄たけびを上げながら刃をルードへとぶつけると、立っていられない程の爆発が起きて彼女がぼく達の方へと吹き飛ばされて来る。

ハスが走って近づいて抱き留めると踏ん張る事が出来ずにそのまま転がって行き、ぼくも長杖を手放して、大剣を両手で地面に深く刺す事で飛ばされないようにするだけで精一杯だった。

そして爆発が収まり周囲の煙が晴れて来たかと思うと、身体の所々が欠損したルードが膝を着いて立っていて肩で息をしている。


「ごめんレース、あたいはこれで戦線離脱するよ……両腕がボロボロで動けそうにない、ハスもあたいをここに捨てて前線に戻りな、レース一人だと負担がでかいでしょ」

「そんな事出来るかよ!ライを失ったのに、お前まで死んだら俺は自分が許せねぇ!悪いレース!トキをメイメイの所に連れて行くから少しだけ耐えてくれ!」

「分かったけど早く戻って来て!」

「大丈夫、分かってる!」


……トキを抱きかかえたハスが、ぼく達から離れていく。

それを止めようとしてるのかルードが立ち上がろうとするが、身体が上手く動かせないようで苦痛に顔を歪める。

けれど尻尾だけは無事だったようで、蠍の尾をぼくへと向けて伸ばして来たところで彼の後ろの空間が裂けたかと思うと、そこからライが飛び出して来て傷口に短剣を深く突き刺し雷の魔術を直接体内に流すのだった。

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