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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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能力の使い方

 カエデの心器が持っている能力【指示】、これって使い方次第では色んな能力を発動出来るのではないだろうか。

例えば難しい物は無理でも、母カルディアの心器の能力である魔術を複数同時に発動する事を可能にする【多重発動】、ぼくも同じものを持っているけど……魔術師が使う杖等に、【複数の魔術を発動させる】という内容を指示出来ればもしかしたら出来るかもしれない。

それと同じ感じで、彼女を特性をトキに作って貰った武器に能力で指示して貰えば、攻撃した相手の身体能力を劣化させるとか出来るのでは、そう思って説明をしてみると……


「……言ってる事は凄い強力だと思いますが、それはもはや【指示】の範疇を超えているかと」

「なら、カエデが魔術で作った土を砂状に加工して水に濡らした後、『触れた相手の身体能力を劣化させる』って指示を書いてそのまま武器に直接塗るとかは?」

「レースさん、そもそもどうやって塗るんですか……触れたら劣化するという事は塗ってる最中に効果が出てしまいますよ?」

「あぁ……ならえっと」


 ダメだ、指示の使い方を考えては見るけどこれと言って有効的な方法が浮かばない。

それならどうすればいいだろうか……、治癒術や雪の魔術で新術を作っている時は色々と思いついたりするのに……使った事の無い属性となるとあんまり力になれない気がする。

何かしら理論が分かればいいんだけど、土と言われてもどれを土と定義すればいいのか……、いや?勿論土と言ったら土なのだけれど、砂は?……粘土は?、じゃあ石や岩は?、メセリーの首都で暮らしていた時に土属性の魔術を使っている人を見たことがあるけど、一つの属性で出来る事が余りにも多い。

手元に砂利を生成して相手の顔めがけて投げての目つぶし、先端が尖った石の塊を相手に向けて射出す【ストーンバレット】、そして相手の頭上に岩の塊を生み出して落下させ物理的損傷を与える【ロックフォール】、土を振動させて大規模な地震を起こす大魔術【アースクェイク】、考えれば考える程思考の沼にはまりそうだ。


「──さん、レースさん?聞いてますか?」

「え?あ、ごめん……考えすぎて自分の世界に入ってた」

「そういう所があるのはもう慣れましたけど……、何処まで話聞いてました?」

「塗ってる最中に効果が出てしまうってところまでかな」

「何も聞いてないじゃないですか、まぁいいですけど……取り合えずまた同じ内容を話すのでちゃんと聞いててくださいね?」


 今度はしっかりと話を聞こうとするけど、他の方法があるのだろうか……。

こういう時土属性の魔術が使える人がいると……ぼくの知らない方面から答えをくれそうな気がする。


「まず……首都に到着するまでの間に、地面に魔術を使って来ましたよね?」

「うん、けどそれがどうしたの?」

「それと同じような事をして、一定の範囲に入ると身体能力が劣化するようにするのはどうですか?そうすればルードやアンデッドがそこを通過又はその場に留まらせる事が出来れば、身体能力を下げたり、下げ続ける事が出来ます……つまりSランク冒険者に相当する能力を持つ敵をレースさん達でも安定して戦えるレベルに落とす事が出来る可能性がありますね」


 それが可能なら、戦闘に参加する騎士や冒険者……後は死絶傭兵団の団員達も安全に戦えるだろう。

特に低いランクの冒険者……傭兵団に所属している人が多いとは言えモンスターとの実戦経験に乏しい可能性がある。

そう思うと下手に怪我をして負傷者を増やすよりは減らす努力をした方がいい。


「……なら陽が暮れる前に、また外に出て準備をしてくる?」

「いえ、それなら明日の方がいいと思いますよ?」

「何で明日?」

「合流する冒険者や傭兵団の方達が弱体化したら、戦いどころではないじゃないですか」

「確かにそうかも……折角来てくれたのに身体能力が劣化して戦えないとかってなったら、怪我人が出るどころか悪戯に死者を増やすような事になるかもしれないし」


 ただ……そう思うとネフィーラが最後に見せた行動が気になる。

あの周囲に毒の毛をばら撒く切り札っぽい行動……、あれで周囲の冒険者達を巻き込んだりしないだろうか。

もしそれで周囲に被害が出た場合、戦うどころではない気がする。

それを考えたら念の為、メイメイにお願いして毒に耐性が付く薬を作って貰って冒険者や騎士の人達に飲んで貰った方がいいのかもしれない。

とはいえ、あの髪の毛で作られた異形の化け物を操って戦うのなら問題ないだろうけど、ガルシアがいるから大丈夫だとは思うけど……警戒しておいた方がいいだろう。

ただ、必要な行動だったとはいえ正直人選を間違えてしまった気がする。


「……という事なので、明日からレースさん、準備している間ちゃんと守ってくださいね?」

「それは勿論しっかりと守るよ、だから安心して欲しいかな」


……そう言って立ち上がると『えぇ、お願いしますね?だって私はあなたの婚約者ですもの、あっ!でも一番はダートお姉様ですよ?私の優先度は二番でいいですからね』と言って宿屋だった施設を出る。

そしてぼくの方に振り向くと『レースさん何やってるんですか?、早くダートお姉様の所に戻りますよ?』と笑顔で言うのだった。

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