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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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死絶傭兵団

 あの後皆で朝食を食べた後、食堂でダートに事の経緯を説明すると……


「……そういうのは次からちゃんと伝えてからやらないとダメだよ?」

「そうなの、幾らカエデちゃんがお世話をするのが好きだからって、甘えたり頼りすぎるのは良くないの」


 と二人から注意され……二人に次からちゃんと気を付ける事を伝えると


「とりあえず冒険者ギルドに行くんでしょ?何時ルードが攻めて来るのか分からないんだから、何かあったらちゃんとカエデちゃんの事守ってあげてね?」

「私のカエデちゃんに何かあったら許さないの、群れの長ならちゃんと雄として雌をを守るの」

「そういえば冒険者ギルドまでの座標を覚えてる?教えてくれたら空間を繋げて送るよ?」

「それなら……えっと、ここからなら──」

「んー、ちょっと高さの情報が良くないかも、空間跳躍って使えると便利なんだけど座標の設定を間違えて飛んじゃうと壁の中に体の一部が入ってしまって切断されちゃったりとかするから、幾らライさんが使ってた形見の短剣の補助があるからって油断しちゃダメだよ?」


 と言われてダートに空間魔術を使ってもらい、冒険者ギルドに移動したぼく達は施設内にある会議室に通されてカフスを待つ。

その間、他愛ない話をしながらさっきダートが言ってたカエデの事を守ってあげてって言葉の意味を考える。

もしかして座標が上手く記憶出来てない事を予め察していて、帰りは徒歩で帰った方がいいと助言をしてくれていたのかもしれない。

……それとも彼女なりに気を使って二人でいる時間を増やそうとしてくれているとか?、ダートはこれからお腹の子が成長して来たら出来ない事が増えて来るだろうし……そうなった時に側にいてぼくを支える人を増やそうと?、いやその発想は何て言うか自分に都合の良い考え過ぎて気持ち悪いな。

やっぱり助言をしてくれていたのだろう。


「いやぁ、お待たせして申し訳ありません……少しばかり対応しなければ行けない案件があったものでして」

「急に押しかけたのはこちらなので構いません……ですが、ギルド長であるあなたが対応しなければいけない案件ってどうしたんですか?」

「実は……死絶傭兵団の方がここに残した拠点に忘れ物を取りに来たとかで、ついでに冒険者として依頼を受けに近くの冒険者ギルドに顔を出したらしいのです」

「死絶傭兵団の誰だろう……副団長のサリアだったら知り合いなんだけど」

「副団長ではなく、【紫毒糸】ネフィーラ・ハルサー、【猛牛】ガルシアと一般団員達ですな……特に二名は死絶傭兵団の中でも荒事を専門にしているため、今回の依頼に参加して頂ければ良い戦力になると思い……ここに招いたのですが、内容的に冒険者ではなく傭兵としての仕事になるから独断では出来ないと言われてしまいましてな」


 ネフィーラ・ハルサー……名前の響き的に、Sランク冒険者【死絶】カーティス・ハルサーの親族だろう。

ガルシアという人は違うと思うけど、一応ぼくと死絶傭兵団の副団長サリアはメセリーに拠点を移した後何度か話す事があったから、交流を深める中で彼女を介さずに依頼を可能にする特別な合言葉を教えて貰っている。


「それならぼくが説得してくるよ……、副団長のサリアから秘密の言葉を教えて貰ってるからさ」

「レースさん、秘密の言葉って何ですか?」

「それに関しては無闇に他の人に話さないように言われているから……ごめんねカエデ」

「……分かりました、それでは死絶傭兵団の方はレースさんに任せます、私はカフスさんと依頼の内容について内容を詰めたいのでここに残りますね?」

「死絶傭兵団の方達は現在、ギルド施設内の応接室にて待機しております、場所は会議室から出て左に曲がり暫く歩いた場所にあるのでそちらに向かってください」


 カフスさんの言葉に返事をすると、会議室を出て応接室へと向かう。

以前カエデに聞いた事があるけど、栄花騎士団の団員や国の重鎮が来た時に対応する為の部屋らしい。

中に入った事が無いけどどんな場所なのだろうか……、そう思いつつ応接室の扉の前に立つと


『あのじじいよぉ、俺達をあんな安い金で雇うつもりかよ!あんな少額依頼を独断で受けちまったらサリアにどやされちまう』

『あたし等だけだったら受けてあげても良かったんだけどねぇ……あん?何かくせぇニンゲンの匂いがしない?……あたしさ、嫌いなんだよね、あたし等獣人よりも身体能力が劣ってる癖に偉そうに同じ目線に立とうとしてさ』

『……あ?それは言いすぎだろ、人族とは言え俺達と同じ人間だぞ……ネフィーラ、団長に聞かれたらぶっ飛ばされんぞ』

『……そりゃまずいね、ぶっ飛ばされたらそのまま死んじゃうよ』


……これは何か部屋に入るのが気まずい。

でも自分でやると言った以上はしっかりとやる事をやらないと……そう思いドアをノックするとそのまま扉を開け中に入ると『あぁ?じじい帰って来たのかよ……で?サリアに渡す依頼書は出来たのか?さっさとよこ……誰だあんた』と紫色の髪に紫色の瞳をした黒い服に身を包んだ女性が睨みつけて来る。

思わず息が止まりそうになるけど、今はそんな竦んで立ちすくんでいる暇はないから勇気を振り絞りサリアに教わった合言葉を口にするのだった。

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