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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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【杖鉈】のカフス

 冒険者ギルドに着くと、庭で薬草の手入れ等をしている職員が驚いたような顔をして建物の中へと急いで入ってしまう。

いったいどうしたのだろうかと思いつつ狼から降りて、頭を撫でると能力を解除して雪に戻す。

そしてギルドに入ろうとした時だった。


「あなた様はどのような事情で冒険者ギルドに訪れたのですかな?」


 紳士服に身を包み、シルクハットをかぶった老紳士がギルドから出て来る。

見ただけでぼくよりも一回りどころか、どれくらい歳が離れているか分からない程に皺が刻まれた顔には、凄い優しそうな表情を浮かべているけど……違和感を感じる程に太い杖を持ちながら背を伸ばして立っている姿を見ると、見た目以上に若い印象を受けてしまう。


「……えっと」

「おや、これは失礼……私はこの冒険者ギルドの長をしているカフスと申します、さて再度尋ねさせて頂きますが、モンスターの背に乗ってこちらへと走って来たと報告を受けましたが、どのような事情ですかな?」

「モンスター?えっと……あれはぼくのしん、あ、いえ、魔術で作り出した魔法生物でそんなんじゃ……」

「魔術で作り出した……なるほど、という事は治癒術師の着用するローブに身を包み長杖を背負っているというのに、魔術師という事ですな?あまりにも怪しすぎる」

「怪しいって言われても……」


 確かにカフスさんの言っている通り、治癒術師の装備をしながら魔術を使いました的な事を言われたら怪しく思われるのは当然だ。

心器が使えるようになってから長いせいで忘れてたけど、本来は治癒術を使いながら魔術を使用する事が出来ない。

そもそも本来の治癒術師は杖術による近接戦闘、生物の身体を治す事に対して専門的な教育を受けているという事は、逆に壊す事に対しても長けているのが特徴で……ぼくも杖術については学んだ事はあるけど、近接戦闘に対して才能が無いと自覚があるし以前アキラさんからも言われたから、長杖を使った戦闘行為に関しては諦めている。

けど今は彼から戦い方を教わり、ケイから大剣の使い方を教わったおかげで別の方法で戦えるようになった……でも、逆に治癒術師なのに大剣を使ってます何て言ったら尚の事怪しく思われそうだ。


「……だんまりですかな?それでしたら多少乱暴だと思いますが、武力を行使させて頂く事になりますがよろしいですね?」

「まって、ぼくはここに大事な用があって」

「ならその大事な用とやらは、あなたを拘束した後に詳しく聞くとしましょう」


 ギルド長のカフスが杖の丸いハンドルのような形をした持ち手部分をひねると、杖が変形し片刃の鉈のようになる。

非常に重そうに見える武器をそのまま器用に肩に担ぐと……中腰に構えて、ぼくの方を睨みつけて……


「さぁ、何しに来たのか全部吐いてもらいま……うごぉ!?」

「あんた何やってんだい!」

「……えぇ」


 カフスの後ろのドアが勢いよく空いたかと思うと、そのまま誰かが老体を蹴り飛ばす。

余りの状況に頭が現状を読み込めないけど、結構なご老人だから大事にした方がいいと思うんだけど……


「レース悪いね、狼の化け物がギルドに襲撃に来たって職員が慌てて来たからよぉ……ギルド長が怖い顔して飛び出して行った時はどうしたのかと思ったよ」

「トキさん、それはぼくが悪かったからしょうがないけど、老人を足蹴にするのは良くないと思うよ?」

「ん?あぁ、カフスはいいんだよ、元Aランク冒険者だけあって年齢の割に体は上部だしさ、それに何よりも……自分の体重よりも重い鉈を肩に担いで飛び掛かれるじいさんがこの程度でくたばると思うかい?」

「仮にそうだとしても、目の前で怪我人が出るのを見過ごす訳にはいかないよ」


 そう言ってカフスに走って近づこうとすると、倒れた状態からすっと立ち上がり紳士服に付いた汚れを軽く手でたたいて落とす。

そして鉈を元の杖に戻すと……


「失礼……あなたがレースさんでしたか、訓練場をそこのトキさんと一緒に破壊したという」

「あぁ……えっと」

「いえ、それに関しては怒っていませんのでお気になさらず……あれに関しては冒険者から栄花騎士団最高幹部の立場になったというのに、未だに落ち着かないこの子が悪いのですからな……」

「だからあれはあたいの武器が思ったよりも凄い性能で……」

「そう言って冒険者時代に、複数の冒険者ギルドの施設を破損させていたのは何処の誰か考えてみる事ですね……、栄花騎士団にスカウトされた際に首都スメラギで起こした事を私はまだ許していませんよ?」


 首都スメラギ……、確か栄花の首都で騎士団本部がある場所だったか。


「あれは、あたいが小さいからって態々喧嘩を売って来た奴らが悪いんだろ?あたいは悪くねぇよ……、けど変わりにこうやって壊したら無償で治してんだからいい加減勘弁してくれてもいいんじゃないかい?」

「それで機嫌が悪くなったと暴れて冒険者の殆どを引退に追いやられた結果起きた被害は、その程度で許されるわけないのですよ……それに壊したら責任を持って直すのは当然です」

「……分かりましたぁ、ごめんなさいー」

「分かれば良いのです……それにしてもレースさん、あなたはBランク冒険者という立場でもあるのですから、私が尋ねた際に身分が分かるような物を見せて頂けたらこんな面倒な事にならなかったのに……次から気を付けてくださいね」


……カフスはそういうと『さて、大事な用で来たという事ですし、詳しい話はギルド長室でお聞きしましょう……着いて来てください』と言って冒険者ギルドの奥へと案内されるのだった。 

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