冒険者ギルドへ
あの会話の後、カエデをメイメイの部屋に送り届けると……特にやる事が無いから、少しだけ個人的に動く事にした。
ライさん達の話を聞いて思ったのだけれど、ハスとぼく……そして心器の能力で生み出せる三匹の雪で出来た狼だけでは力不足な気がする。
そう思いながらイヤーカフスを耳に着けて部屋を出ると、騎士達の姿や気配が無い静かな通路を歩き首都への出口へと向かう。
『レース君、何処に行くんだい?』
「ちょっと冒険者ギルドに行こうかなって」
『……今から行くと到着する事には陽が完全に落ちて夜になるから止めた方がいい』
「大丈夫だよ、行きは時間掛かっても帰りはライさんの使ってた、あの短剣で空間魔術を使って帰るから……ただその為の距離を把握する為にまずは歩かないといけないからね」
『そもそも何故この時間から冒険者ギルドに行こうと思ったんだい?』
その問いには敢えて答えない。
現状のぼくを例えるなら声が響く通路で大きい独り言を言っている不審者だ。
周りに誰もいないから、ショウソク以外には聞かれていないと思うけど……余り彼の活動範囲内で聞かれるのは避けたい。
栄花騎士団の中で上から数えた方が強いハスと、彼に匹敵する程の戦闘力を持つ彼女がいれば何か不測の事態が起きた時に安心だし。
それにあわよくば現地の冒険者達にルードが使役するアンデッド達の相手を頼む事が出来れば、メイメイに何かあった時にダートが彼女を守らなければいけないという事態になるリスクも減るだろう。
『……だんまりか、何を考えてるかは分からないけど何らかの策があるのかもしれないから黙って見守る事にするよ』
「……ありがとう、それにしても騎士の人達は何処に行ったのかな」
『これに関して言いづらい事があるんだけど、彼らは普通にさっきから扉の前に立ったりしてるみたいだね……、薬王ショウソクの魔力特性【消息】の効果で姿や音を消しているみたいだけど、魔導具越しに見える視界を通してだと僅かに人の形に揺らめく魔力の波長があるね』
「それって……ぼくの独り言を全部聞かれてたんじゃ?」
『いや、それは無いだろう……、どうやらレース君達にも効果が付与されているみたいだからね、これは俺の予想だけれどAグループとBグループに分けて効果が発動していて同じグループ内でのみ認識が可能という事かもしれない』
もしそうだとしたら恐ろしい特性だ。
例えば国内で犯罪者が出た場合、その人を認識できないようにしてしまえば誰にも気づかれる事無く処刑する事が出来る。
何となくだけどこの国に犯罪組織が多いのに一定の秩序が保たれてる理由が分かった気がする、メイメイの機嫌を損ねた場合文字通りに存在を消されてしまう。
それって凄い恐ろしいけど……あちら側からしたら彼女の機嫌を損ねる事さえしなければこの国に滞在する事が出来るのだから、改めて歪な国だなと感じた。
「……何て言うか、まぁ住みづらそうな国だなぁ」
『レース君がどうしてそう思ったのかは分からないけど、他国の人から見てそう感じる位だから、この国の国民からしたら更に不満や不安はあったろうね』
とりあえずショウソクしか聞いてないと思われる独り言を続けながら、首都の出口へと行くとそのまま外に出る。
そして冒険者ギルドへと向かって歩き始めるけど……あの森にいた時のようにいつアンデッドが出て来てもいいように警戒をしてみるが
「この速度じゃ何時になったら冒険者ギルドに着くか分からないね」
このまま何があってもいいようにと一歩一歩、慎重に足を進み続けていたら日が暮れて……更に朝日が見えてもたどり着けないだろう。
けど単体行動をしている以上はもしもの事を考えて行動した方がいい。
『……雪の狼を生成して乗った方が良いんじゃないかな』
「……あっ」
『忘れていたみたいだね』
「うん」
ライさんに言われるまで狼の背に乗って移動するという発想を忘れていた。
少し前に三体目の狼を呼び出した時に、こういう使い方が出来そうとか考えてたんだけどな……。
取り合えずそんな事を考えていてもしょうがないから、魔術で目の前に雪を作り出すと心器の大剣を顕現させて【氷雪狼】を発動し、身体が雪で作られた狼を生成する。
「移動用だから心器を核にしないでいいか……」
そう思って勢いよく乗ろうとすると、目の前で狼が砕けてただの雪になってしまう。
……怪力を常時発動させているのがもはや自然体になりつつあるせいで、力加減を間違えた気がする。
そっか、心器を核にしていない個体ってこんなに脆いんだ。
そう思って今度は心器を核にして、再度生成し直すと再び背に跨り冒険者ギルドの方向に向けて進むように指示を出す。
「……最初からこうした方が良かったかも」
……ケイスニルの背に乗って移動した時程では無いけど、結構な速さで景色が流れていく。
取り合えず空間魔術を使って部屋に戻れるように、座標を頭に入れておくのを忘れないようにしている内にあっという間にギルドへと到着するのだった。




