隠し部屋
何故書庫に古びた鉄の扉があるのか。
凄い気になるけど今はダートに会う事の方を先決するべきだ.
「さて、ここの奥にダートがおるぞ?」
「……うん」
「ん?どうしたのじゃ?入って良いのじゃよ?」
「この国の王族しか入れない場所だって最初に行ってたから、勝手に入るのは良くない気がしてさ」
「父さん、んなもん気にしてんのかよ……、ここまで案内されたんだから堂々と入りゃいいんだよこうやってさ」
ぼくの迷いは何だったのか、ダリアが前に出ると扉を開ける。
古い金属の扉独特の音がしたかと思うと、今度は下に続く階段が現れ……
「中にいるんじゃなかったの?」
「この中にある部屋におるとは言ったが階段が無いとは言ってないのじゃよ」
「ダリアも知ってたの?」
「そりゃまぁ知ってたけど、父さんがここまで怖い顔をするとは思わなかったから……何つうかごめん」
「それだけダートの事が大事なんじゃよ、ほらここで立ち止まらずにさっさと行くのじゃ」
今のぼくはそんなに怖い顔をしているのか。
自覚が無いけどそこまで言われると、余程凄い表情をしているのかもしれない。
取り合えず階段を降り始めるけど、周囲に明かりになるような物が一つも無くて不気味な感じがする。
しかも三人で降りてる最中に遠くで、金属音と共に扉が勝手に閉まりその音が大きく響く。
「結構……長い階段だね」
「そりゃそうじゃよ、可能性は低いのじゃがもし侵入者が入って来た時に惑わせる為の術が掛けられておるのじゃよ」
「それってどうやったら解けるとかってあるの?」
「ん?余がおればそのうち着くから大丈夫なのじゃ」
「……俺の時はそんな時間掛からなかったけどなぁ」
なら何故ぼくの時は時間が掛かっているのか。
もしかしたら王族が複数人いると術が発動してしまうのかもしれない。
どれくらい歩いただろうか、階段を下りたり……人が呼吸する音が静かに響き渡り、これが何処まで続くのだろうかと不安になる。
しかも恐ろしい事に明かりが一つもないせいで、下りているという感覚はあるのに自身の身体が見えない……これは余程精神が強い人でなければ気が狂ってもおかしくないだろう。
ぼくはまだメイメイから、終わりがある事を聞いているから大丈夫だけど……何も知らずに迷い込むような事があったら、不安から発狂していて筈だ。
「まぁ、術をかける精霊は気まぐれじゃからなぁ……ん?ここじゃな」
「ここって何も見えないけど?」
「言ったじゃろ?そのうち着くと……、つまりここがそうという訳っじゃ!」
何時ぼくの前に来たのか、メイメイの声がした後に何もない空間がゆっくりと開き始める。
そして金属が軋むような音がして中から明かりが入りこんで来たかと思うと、椅子に座ったダートの姿が見えて、不安だった心が安らぐ気がした。
「……レース」
「ダート、大丈夫だった?」
「うん、王様がここに連れて来てくれたから」
「良かった、でもショウソクとカエデは?」
「レース?王様の名前を呼び捨てにしちゃダメだよ?、王様はやることがあるらしくて出て行ったけどカエデちゃんはこの部屋の奥で調べ物をしてるよ?」
見た事の無い薬品が並んだ棚と読めない文字が書かれている本棚。
更に周囲を良く確認してみると、大きなベッド等の家具が置かれていたり……そこから離れた場所には人の形をした何かが壁から出ているのが見えて、あそこだけ異様な雰囲気を醸し出している。
「メイメイ……あれは?」
「あれがさっき説明したエルフから精霊へと昇華した、ショウソクの使役している神霊の元になった人物じゃよ」
「神の身体に寄生する形で生まれたって言ってた奴?」
「そうじゃ……、あの亡骸は余を産んだ母の者でな?当時の父は何を考えておったのじゃろうな、樹木を操る魔術を使い神の身体に取り込み寄生させる事で、身体を生かし精霊へと昇華させる儀式をおこなったのじゃよ」
知れば知る程、この国の王は頭がおかしいと感じる。
精神を病みメイメイの事以外に関心を抱けなくなったせいで、まともな判断が出来なくなっているのかもしれない。
けど以前アキラさんを交えて話した時は会話が成立したから、今はある程度症状が改善してきている可能性がある。
「……まぁ、それに関しては関わらないでおくよ、深く聞いてもぼくじゃどうしようもないと思うし」
「私もそれがいいと思う……」
「なんじゃ、おぬし等夫婦は二人して……人はこういう未知を見ると楽しくなると思うのじゃがのぅ」
「いや、これはもう未知でもなんでもなくて、やってる事はただのホラーだろうが……」
「そう言うものかのぅ、じゃがおぬし等が深く関わらんと決めたのならそれでいいのじゃよ……、じゃがカエデは何処に行ったのかのぅ」
……確かにこの部屋の何処かにカエデがいる筈なのに何処にも姿が見えない。
取り合えず部屋の中を歩きながら探してみると、奥の方で椅子に座り本を読んでいる彼女が姿が見える。
集中し過ぎて周りの声が聞こえていないようで、ぼくが隣に立って名前を呼んでも反応が返ってこないのだった。




