首都への帰還
ライさんが袋の中に入ってしまったのを見て、そのままにしておく訳にもいかないからどうしようかと思っていると……
『──ス君、レース君聞こえるかい?』
イヤーカフスを付けた方の耳元から声が聞こえて一瞬体が跳ねる。
『聞こえているのなら、返事をせずに袋を拾った後にイヤーカフスを二回叩いて欲しい』
指示された通りに魔導具の袋を拾うとイヤーカフスを二回叩く。
『無事に聞こえてるみたいだね、一応レース君の方からも音声と映像を届ける事は出来るんだけど……必要になったらやり方を説明するよ、とりあえず今から首都に戻るまでの間は遠隔で映像と周囲の音声が聞こえるようにしておくよ』
再び返事の変わりに二回叩くとハスと合流する為に歩き出す。
それにしても彼にこの出来事の事をどうやって説明しようか。
ぼくの事だから直ぐに顔に出てしまうだろうし、そこからバレしまってライさんの考えが無駄になってしまのは良くない。
「レース!、戻って来たか!あっちにはライは居たか?」
そうやって悩んでる間に、ハスのいる場所に来てしまって声を掛けられる。
こっちに走り寄って来る彼に何て返事をすればいいのか分からずに……
「え?あぁ……うん」
「……あ?どうした?」
『レース君、俺の入ってる魔導具の袋をハスに見せてくれ』
「あっちには……えっとこれしかなかったよ」
ハスの目が大きく見開かれる。
そしてぼくの両腕を力強く掴むと……
「これはライのじゃねぇか!、他には何かなかったか?あいつの着てた服の一部とか!」
「こ、これしかなかったよ」
「……そうか」
「えっと、何ていえばいいのか分からないけど……」
「いや、いい……今はそっとしといてくれ」
必死に表情に出ないように顔に力を入れているおかげで強張ってしまう。
そのおかげでハスに疑われないのは良かったのかもしれないけど、何だかそれはそれで複雑な気持ちになる。
「そっとしておくのは構わないけど……、出来れば首都に戻ってからの方が良いんじゃないかな」
「レース、ほっとけって……いやわりぃ、おめぇの言うように確かにその方がいいな」
思いの外早く落ち着いたみたいだ。
正直もう少し時間が掛かると思っていたから以外だけど、戦闘以外では頭に血が上る事があんまり無いのかもしれない。
『レース、戻るのなら俺の短剣を使ってくれ……君なら、空間魔術をうまく使える筈だ』
「ん?レースどうした?耳を抑えて……、あ?おめぇそんなもん着けてたか?」
ハスがぼくの耳を見て訝しげに眉をひそめる。
これはまずいかもしれない何かしらの言い訳を考えないと……
「いや、今はそんな事気にしてる場合じゃねぇか……」
「あ、あぁ……ちょっとだけ考え事をしててさ、ライさんが使ってた短剣があるでしょ?あれを使えば空間魔術で首都に直ぐに戻れるんじゃないかなって」
「あれか……、でも誰が使うんだ?俺は性格的に相性が悪いから使いこなせねぇぞ?」
確かにハスがあの短剣を使うとなった場合、空間跳躍は無理だろう。
今いる場所を起点にして指定された座標に空間を繋げる、これを使うのにかなりの集中力がいるし何よりも高度な空間認識能力も必要になる。
「それならぼくが使うよ、ダートから空間魔術を教わって簡単な物なら使えるようになってるから、この短剣の能力を生かせると思う」
「そう言う事ならおめぇに預けるわ、こういうのはちゃんと使える奴が持っていた方がいい……ライの形見だ、壊すんじゃねぇぞ?」
「大丈夫、ちゃんと大事に使うよ」
ハスから短剣を受け取ると空間魔術を使う為に意識を集中していく。
すると頭の中に立体的な座標が浮かび上がり、首都までの距離が数値として表示される。
とりあえず跳躍する場所を設定しやすい首都内に用意された自分の部屋に指定し、短剣に魔力を込めると今いる場所と部屋を繋げるイメージをしながら空間を切り裂く。
「……本当に使えんだな」
「最初は時間をかけてやっと空間収納が使える位だったんだけどね、この前ダートに空間魔術の使い方を色々と教えて貰ったおかげで出来るようになった感じかな」
「適性の無い魔術を使えるとか、なんつうか……おめぇそういうとこは凄ぇっていうか便利だな」
「そこまで便利じゃないよ、雪の魔術のおかげでその派生元である火、水、風の三属性は使えるけど土属性は使えないし、それに実戦で使える程練度がある訳でもないからさ」
「使えるだけ凄いと思うぜ?俺は精々火属性とそこから派生した炎熱だけだからな」
炎熱が何かは分からないけど、火属性は炎等を生み出したり操ったりするから……多分熱を操るとかそんな感じな気がする。
「とりあえず繋げた空間の中に入ろうよ、早くしないと閉じちゃうから」
「ん?あぁ、わりぃ」
……いつまでもここにいて何かが変わる訳でもない。
それにせっかく繋げたのにまた閉じてしまったら、再び魔力を大量に使う事になるからそうなる前に早く移動してしまいたい。
そう思いながらハスをせかすと、珍しく誰もいない部屋へと駆け込むのだった。




