新たな同行者
あの後部屋に帰って今回は何事もなく休めて、次の日からまたルード達が攻めてくるまでの間ハスとライの二人と共に外で合流していつもの戦闘訓練をする筈が……
「今回は私も同行するの」
「……ラン、それはどういう事かな?」
「昨日カエデちゃんと話していて思ったの、私はカエデちゃんとダートの護衛をする事になったけど……肝心の前衛に出て戦うレースの戦いを知らないの」
「あれ?なんかこの流れ最近良く見る気がする」
何だろう……、騎士団最高幹部の一部はとりあえず相手の実力を見る為に戦わなければいけない風習でもあるのだろうか。
自分で言うのもどうかと思うけど、ぼくよりも濃い人達ばかりで印象が霞んでしまいそうだ。
……正直そんな人達を実質的にまとめているライさんのストレスが心配だけど、まだお腹を抑えてないからこれ位なら平常運転なのかもしれない。
「同行するって言っても私は一緒に戦わないの、だってこの中では一番強いし戦い方的にも単独行動の方が得意なの」
「……この中で一番強いって凄い自身だね」
「本当の事なの、私の速さについてこれる人は何処にもいないの」
「ランの言う事は事実だよ、彼女は優秀な斥候であると同時に条件さえ満たせば一人でSランク冒険者を討伐する事が出来る可能性があるからね」
「……条件?」
あんな強い人たちを条件さえ満たせば倒せるってどういう事だろうか。
……一応貴重な属性の持ち主という事はカエデから教わっているから知っているけど、それだけでそんな事が出来るようになるとは到底思えない。
もしかしてぼくが知らないだけで何かあったりするのかも?とは思うけどどうなのだろう。
「うん、私の属性は特性と心器の能力によって感情が昂らない限りは完璧に制御されているの、本来なら使うだけでも周囲を巻き込んで周辺一帯を長い間生命が生存出来ない位に汚染してしまうけど、武器を通してその魔力を直接相手の体内に送り込めれば生きている相手なら誰でも殺せるの」
「……それって治癒術じゃ治せないの?」
「これに関しては原理の説明がとても難しいの……、生きて核を扱える存在は非常に稀だから言葉にしても分からないと思う」
「あぁ、レース君にも分かりやすく説明すると現代の技術では治療が間に合わない程の損傷を細胞レベルで与える事になる感じと言えば分かるかな……、しかもそれがたった数秒で全身に行き渡るという事はどうなるかな?」
「……仮に全身を徐々に作り直したとしても、治した先から汚染されるから治癒術では治療が不可能って事?」
細胞レベルでの損傷……、ランの汚染という言葉通りなら全身に作用する猛毒のようなものかもしれない。
ただ本当にそんな危険な属性だとしたらダートの側にいさせていいのだろうか、もし彼女が影響を受けてしまった時の事を考えると心配になる。
「それって……ランが人と接触して大丈夫なの?どんなものか分からないから心配なんだけど、ダート達の護衛に着いた場合汚染されたりとかは?」
「……それは、えっと」
「あぁ、それは大丈夫だから安心して欲しい、彼女の能力は本人が言うように特性と心器の能力によって普段は完全に制御されているからね、レース君が心配するような事にはならないよ、現にもし側にいて汚染されてしまうのなら俺達は既に生きていないだろう?」
「あ……」
確かにライさんの言う通りだ……、側にいるだけで汚染されるというのならこうやって外に出ている事自体おかしいし何よりもぼく達が生きている事にも違和感がある。
これは彼女に失礼な事をしてしまったかもしれない。
「ラン……ごめん」
「それ位馴れてるから気にしないでいいの、でも謝罪は受け取ったからこの話は終わりにする」
「……ありがとう」
何とも気まずい雰囲気が包み込むけど、さっきからずっと黙っていたハスがしびれを切らしたように地面を何度か蹴ると……ぼく達の方を見て口を開く。
「だぁもう、こんなとこでうだうだしてねぇで早く行くぞ!それにだ!ランがどんな奴でも俺達の大事な仲間だし、疑ったり心配する必要はねぇだろうが、それに何かあったら俺が全部責任を取ってやるから俺を信じてついてきやがれ!」
と言って一人で森の奥へと向かって走って行ってしまう。
「……こういう時はハスの行動力が本当頼りになるよ、俺とは違い感情に従って動けるのは彼の良い所だからね、ほらレース君、ラン、ハスに置いて行かれる前に行くよ、今日はランが斥候役としてついて来てくれるみたいだからね、モンスターの誘導は彼女に任せて俺達は戦う事に集中しよう」
「そうするの、弱いのから強いのまで何でも連れて来てあげるから任せるの!」
「うん、ランに任せるよ」
「おぉい!いつまで喋ってんだ!早く行くぞ!?」
……森の中からハスがぼく達を呼ぶ声がする。
どうやら来るのが遅いのが気になったみたいで戻って来たらしい。
そんな彼の気遣いに頬を緩めながら急いで合流する為に皆で走るのだった。




