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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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13話 カエデの気分転換

 唸るカエデを見て大丈夫かと心配になるけど、ダートやランの反応を見る限り心配しているようには見えないから多分問題無いのだろう。


「……分かりました、今回は私が未来の旦那さんであるレースさんの為に用意させたという事にしておきます」

「それって自分の立場を悪用したって事になるけど大丈夫?」

「いえ、レースさんは栄花騎士団と協力関係にありますから……、ほら義肢の事もそうですが、要請を受けて行った先で左腕を失うという大怪我を負いましたし、それを理由にすれば問題ありません」


 カエデがそういうのなら本当に問題無いのかもしれないけど……、そういえば左腕を失くすのってかなりの大怪我だと言うのは忘れていた。

義肢になってから左腕だけ、自分の考えた通りに直ぐに動いてくれるから前の生身の腕だった頃よりも使い勝手がいいせいだと思うけど……、多分それとは別に禁術指定された治癒術を使えば体の欠損なら治せてしまえたのも理由になる気がする。

ただあれは使えば使う程寿命が縮んでしまうというリスクが最近見つかったけど、スイと改良して……切断又は損傷した部分が残っていればそれを使って再生し元に戻す事が出来るようにはなったけど……、そのおかげで体の一部が無くなっても治せるから気にする必要が無いと何処かで思い込んでいたのかもしれない。


「……それならいいけど、でもトキが同じ素材を使って自分用の斧を強化してたけどいいの?」

「そ、それは……うーん、もうあれこれ気にしたら疲れそうなので聞かなかった事にします」

「あ、カエデちゃんが諦めたの……」

「ランちゃん……、私もキャパオーバーってあるんだよ?」

「それなら休むの、カエデちゃんは真面目過ぎるから気分転換に今日は一緒に首都を散策するの」


 カエデの返事を聞く前に、ランが彼女の手を取って強引に部屋から出て行ってしまった。

確かに最近ずっとダートに付きっ切りだったし気分転換をするのは大事だ思う。

とはいえ……ここ最近ダートと二人きりになる事が少なかったから、凄い久しぶりな気がする。


「カエデちゃん……最近凄い頑張ってくれてたから、良い気分転換が出来るといいなぁ」

「だね、カエデは真面目だから誰かが息抜きさせてあげないと……」

「それをしてあげられる身近な存在は私とレース位しかいなかったけど、ランちゃんが家に来てくれるならこれから安心出来るかな」

「……もしかしてランが家にいる事を許可したのって?」

「うん、それもあるよ?だってお腹の子が大きくなって産まれたら暫くは忙しいと思うし……、サリッサさんがお世話をしてくれるって言うけど出来る限りは私がやりたいし」


 そう言いながら長杖をぼくに返しながら愛おし気に自身のお腹を優しく触る。

その顔は妙に色っぽいというか、大人の魅力に溢れていてちょっとだけダートがぼくよりも先に親になったんだぁという気がしてしまう。

出来れば一緒に親になっていきたいと思ってはいたけど、男性は女性とは違い実際に産まれて来た子供を見ないと本当の意味で親としての自覚が付きづらいらしいから、そういう意味でも彼女が先に母親としての自覚を持つのは仕方が無いのかもしれない。

……一応ぼくも子供が出来た事を自覚してからは、色々と自分なりに考えたりこうすれば良いのだろうかと思い悩んではここ数日の間に何度かアキラさんに相談した事があるけど


『知らん……、私に聞くよりもダートに直接聞いて上手くやれ』


 と最初は返してくれたが、昨日は飽きれた顔をされてしまい……


『人に正解を求めるな、夫婦という物はそれぞれの姿形があるものだ……、何度も言っているがダートと相談しながら上手くやればいい、そしてその過程で上手くいった事を大事にし、良くなかったと思ったところで話し合いしながら次に活かせ』


 と言われてしまった。

正直確かにその方がいいと思ったけど、そこまで言われてやっとぼくがアキラさんに迷惑を掛けていた事を理解したのは良くない。

そう思って謝ったら『最初は誰もが不安になるものだからな……気にするな』と言って許してくれたから、この戦いが終わったらお詫びも兼ねて何かお礼をした方がいい気がする。


「……レース?」

「ごめん、ちょっと考え事してた……、ほら久しぶりの二人きりだから何を放そうかなって」

「んー?何を考えてたの?」


 一緒に椅子に座りながら気になったようにそう聞いてくれるダートに、ここ数日の間に悩んでいた事を話してみる。

するとちょっとだけ困った顔をして……


「色々と考えてくれるのは嬉しいけど、あんまりアキラさんに迷惑を掛けちゃだめだよ?」

「……うん、だからこの戦いが終わったらアキラさんにお詫びを兼ねたお礼をしないとなって」

「私もそれがいいと思うけど、あんまり変な所に行っちゃダメだよ?」

「変な所?」

「ほら……辺境都市クイストって都市になって人が増え始めたおかげでいかがわしいお店とか増え始めてるらしいから、あのね?お礼の時って多分ジラルドさんも一緒に来ると思うし……あの人って貴族としての教育を受けはしたけど頭の中は典型的な冒険者の思考だから、連れて行かれそうでやだなぁって」


 そういえば都市になったから入り組んだ裏路地にそういう所が増えたらしいけど、さすがにジラルドでも結婚したんだからそんな所に行くことは無いと……思う。


「誘われても行かないよ……、ぼくにはダートとカエデがいるからね」

「うん、信じてる……、お礼は事について分かったけど……レースは悩んだり考え込まなくても今まで通りでいいよ?私が元居た世界だと……んー、立場的にはお貴族様だったけどこの世界で言う所の魔法使いの家系で戦う以外の能力はあんまり高くなかったせいで、領地も小さかったから自分達で子育てをする事が多かったし、私も将来親になったら出来るようになりなさいってお母様から色々と教えて貰ってきたから」

「……そうなんだ、でも出来る事はしたいかな」

「それなら、私はあんまり戦いに参加出来そうにないから無事に帰って来て?今はそれだけでいいから絶対だよ?、これから先の事は全部終わってからにしよ?」


……そう言って笑うダートは、不安な気持ちを抑えながら強がっているように見える。

その姿を見てぼくも少しだけ不安になりそうだけど、今はやるべきことをやろうと思うのだった。

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