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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第九章 戦いの中で

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戦いへと向けて……

 ライさん達と戦闘訓練を始めてかれこれ三日ほど立っているけど、何とか連携が出来るようになった気がする。

例えば何かしようとすると二人がやりやすいようにカバーしてくれるのが凄い頼もしい。

今も外での実践訓練が終わって皆でメイディの首都【メランティーナ】に戻ったところで……


「……あぁ、今日も疲れたわぁ、レースさぁあんたほんっと合わせづらいな」

「でもそんなぼくに合わせてくれるから助かるよ」

「俺もレース君のおかげで新たな戦い方が出来そうで助かるよ……」


 疲れた顔をするハスと、嬉しそうに笑うライさんと言うそれぞれ違う反応をする二人を見て少しだけ微笑ましい気持ちになる。


「俺はこれからダリアと狩りに行くけど、レースはどうする?たまには一緒に来るか?」

「いや、ぼくはいいよ……、二人の時間を邪魔するのは悪いし」

「あぁ、そうか?なんか悪いな気を使わせちまって……んじゃ行ってくるわ」


 タオルを取り出して汗を拭きながらハスがダリアを迎えに行く。

とはいえ娘とお試しとは言え婚約関係になっているのは未だに複雑な気持ちだ。

暫く一緒にいて嫌な人ではないと分かったけど、それとこれとは違うというか大事な家族を他人に奪われるという気がして未だに心の整理がつかないでいる。


「レース君、これからダートさんやカエデ姫の元に戻ると思うのだけれど、申し訳ないがこの後少しだけ時間を貰っていいかな」

「……時間?ライさんどうしたの?」

「訓練中に少しだけ俺が離れた時があったはずだけど、その時にトキから連絡があってね、例の武器が出来たらしいんだ」

「例の武器と言うと……、あの【不壊】の効果が付いた大剣と長杖?」

「あぁ、大剣の方は【重量化】もついているが、君の怪力なら問題なく振るえる筈だからね」


 心器の長杖の能力である【怪力】、ライさんにケイスニル達が攻めて来るまでの間、寝る時以外は無理をしてでも常に薬の効果を切らさずに使い続けるように言われて今もその状態を維持しているけど……。

力加減が難しすぎて食事の時には食器を割ってしまってダートとカエデに心配されてしまったり、歩いていたら床を踏み抜いてしまってたまたま一緒にいたメイメイに引かれてしまう等、周囲への被害が酷い事になっている。

とはいえこの三日で何とか力加減を少しだけ覚えたおかげで辛うじて床にヒビが入る位に抑えられる程度にはなった。


「じゃあ今から受け取りに行くって事?」

「そうだね、冒険者ギルドに運ぶそうだから早めに行って受け取った方がいい」


 冒険者ギルド、色んな冒険者がいる施設に武器を持ってきてくれるって……変に注目を集めたりしないだろうか。

ぼくの義肢に使われているの同じ素材と言う事は黒い色をしているだろうから目立つんじゃないかな……。

でもそれ以前の問題が一つだけあって……


「でも、首都には冒険者ギルドが無いけど何処に行けばいいの?」

「あぁ、君はまだこの国に来たばかりで知らないのだったね……、首都の冒険者ギルドはここから少しだけ離れた場所にあってね、何でも薬王が【薬姫】メイメイがまだ赤ん坊だった頃に冒険者と言う野蛮な職に就く者を近づけたくないという理由で、栄花に相談することなく外に移動してしまったんだよ」

「あぁ……、確かにあの人ならやりそう、メイメイの事になったら手段選ばないだろうし……」

「今でこそ落ち着いた?いや、違うね周囲に興味を持たない程に無関心な王だけど、当時は今よりも酷かったらしい、何でもメイメイに縁談の話を持ち掛けて来た地方の有力貴族を一族郎党皆殺しにしたりとか、まぁそのおかげで結果的にこの国に拠点を置いている複数の犯罪組織がこの国の姫が悲しむ事をしたら滅ぼされると言われて、治安のバランスが取れている異常な状態になっているわけだけどね」


 ライさんが話しながら移動しようと冒険者達が使うアイコンタクトと手でのジェスチャーで伝えると外にあるらしい冒険者ギルドへと向かって歩き出す。

戦闘訓練が終わった後、ライさんの時間がある時に冒険者が使うアイコンタクトやジェスチャーについて簡単な物だけ教えて貰ったけど、教え方がぼくにも分かる位に丁寧で凄いありがたいし、少しだけ難しくて分からない所を聞いたら、どうしたら覚えられるのか一緒に考えてくれるから、何ていうか教わっていて安心出来る。


「そこまで異常な事が起きてたら栄花騎士団が動くんじゃないの?」

「当時はまだ子供で騎士団に居なかったから、俺よりも長くいる幹部に昔聞いた話になるんだけど……、当時団長だった人は放任していたらしいね、けど当時副団長の立場だったキリサキ・ガイは何度か無断でメイディに訪れては止めるように薬王に説得していたらしいよ」

「キリサキ・ガイ……確か今の団長だよね、何だかぼくの知ってる人物像と全然違く手違和感があるんだけど」

「まぁ、今でこそアレだけど、団長になるまでは積極的に働く情に厚い人物だったらしいね、ただ……最高幹部と言う役職を作って俺達のような心器を扱う事で条件を満たせば、複数人でSランク冒険者のような異常な戦力と戦う事が出来る人達を集め出してからは基本的に不在になる事が増えて良くない噂ばかりが増えたらしいけどね」

「らしいって、ライさんはおかしいって思わないの?」


……ぼくだったらその状況を知ったら安心してその組織に居られない気がする。

そう思って聞いてしまうと『……その為に俺たちはカエデ姫を護って立派な団長になれるように育ててるんだよ、今の騎士団は中立的な立場とは言えないからね、詳しくはケイスニル達との戦いが終わって落ち着いたら、あの子の旦那様になるレース君にも話そうかな』と困ったように笑う。

どうしてそんなに困った顔をするのだろうかと心配になるけど、そうしている間に遠くに見覚えのある冒険者ギルド建物が見え始めたのだった。

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