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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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束の間の日常

 散歩に行ったはずが思った以上に時間が掛かりすぎてしまった気がする。

これもハスと喧嘩する事になった事が原因だけど、それ以上に今日はライさんと知り合えたというのは凄い良かったと思う。


「長い散歩だったね?」

「あ、ダート起きたんだ」

「……さすがにお昼までは寝ないよ?」


 用意された部屋に入ると、お洒落な民族衣装に身を包んだダートがお茶を飲んでゆっくりしていた。

ただ……ちょっとだけ不機嫌そうにぼくの顔を見ているあたり、戻るのが遅かったのが嫌だったのかもしれない。


「えっと、何かごめんね?」

「ん?ごめんって何が?私は別に怒ってないよ?」

「でもちょっとだけ機嫌悪いでしょ?だから帰るのが遅くなってごめん」

「んー……確かにちょっとだけ機嫌悪かったりはするけど、これは一人でつまらないなーって思ってただけだからレースが謝るような事じゃないよ?だから自分が悪いと思ってないのに謝るとかしないでいいからね」

「そうなんだ?」


 一人でつまらないってカエデも一緒に部屋に居たはずだけどいったいどうしたのだろうか。

彼女の事だからお腹の中に子供がいるダートがいたら心配で側にずっといるような気がしたから居ないのが珍しく感じる。


「カエデは何処に行ったの?」

「カエデちゃんなら栄花騎士団の最高幹部と連絡を取りたいらしくて少しだけ部屋を出てるよ?」

「へぇ……、それならここで連絡してもいい気がするけどどうしたのかな」

「団長であるお父さんとも大事な話をしたいらしいからあんまり聞かれたくない話をしたいのかも……?、でもカエデちゃんを見ると良いなぁってちょっと思うかな」

「いいなぁって?」


 一体何があったのだろうか……。

ダートがカエデに対してそんな感情を抱くなんて珍しい……。


「だってさ、連絡が出来て会おうと思えば直ぐに会える場所にお父さんがいるんだもの」

「それならさ……、何時になるか分からないけど何とか方法を見つけてダートの両親に会いに行こうよ」

「……え?」

「ほら、カエデのお父さんには婚約の挨拶をしたのに、ダートのご両親にはまだ結婚の報告とかしてないからさ、そういうのはちゃんとしたいなっていうのもあるからさ」

「レース……うん、それなら何時かちゃんと報告に行こうね?」


 会いに行くとなったら間違いなく、この世界の禁忌を犯すことになって栄花騎士団から追われる身になるだろうけど……、それくらいの覚悟はとっくのとうに出来ている。

ただ、その時になったらカエデはついて来てくれるのだろうか……。

彼女は将来的に栄花騎士団の団長になる立場でもあるから、個人の感情よりもこの世界を優先しそうな気がする……、そうなった時ぼくはカエデに武器を向けられるのか分からない。

でも、出来る事なら一緒に来て欲しいと思うのはぼくの我が儘だろうか、そう考えると答えが出せそうになくて困ってしまう。

ただ……そんな思いや考えも嬉しそうに笑うダートを見ていると些細な事に感じる。


「ダートお姉様、遅くなってすいません……ただいま戻りました、ってあれ?レースさん帰ってたんですね」

「うん、ついさっき散歩から帰って来たんだけど……、カエデはもう話の方は終わったの?」

「話ですか?えっと、はい団長である父と色々と話をしたのですが……」

「カエデちゃんどうしたの?」

「いえ、これに関しては父と娘の話なので……」


 なんだかカエデが暗い顔をしている。

いったいどうしたのか……、それに父と娘の話ってこれから家族になるのだから話していいと思うのだけど違うのだろうか。


「カエデ、ぼく達はまだ婚約してる状態だけどこれから先家族になるんだから、そういうのは溜め込まないでちゃんと言って欲しい」

「でも……」

「カエデちゃん、無理して言わなくて大丈夫だよ?言える時が来たらでいいからね?、レースはこういう時直ぐ聞こうとするの良くないよ?相手に合わせてあげないとダメだからね?これからお父さんになるんだから少しずつ気を付けて?」

「あぁ……うん」

「分かったらいいの」


 そう言ってまた嬉しそうに笑うダートを見ると、なんだかこの笑顔をこれからも見ていたいという気持ちになるけど、それ以上にぼくよりも先に考え方が親になってるんだなって思う。

こういう時男性はいつ父親と言う自覚が来るのかという疑問が浮かぶけど、今のぼくではまだ分からない気がする。

ダリアが人の身体を手に入れて娘になりはしたけど、それと実際に女性から産まれる子供となったら全然感覚が違うだろうし、そういう意味では彼女が言うように少しずつ気を付けた方が良いのかもしれない。


「……ところでレースに聞きたいんだけど、散歩に行ってる間下の階から振動があったり、凄い音がなったりしたけど何かあったか知ってる?」

「あぁ、それはハスとライさんがぼくの実力を知りたいって事で訓練場を借りて戦闘訓練をしてただけだから大丈夫だよ」

「戦闘訓練?散歩なのに?」

「うん……、途中でハスに会って流れでそうなってさ」

「ハスさん……、ごめんなさいレースさん、あの人悪い人じゃないんですけど……」


 まぁ悪い人じゃないのは分かるけど、正直ダリアと婚約しようとしたり好き勝手するところはやっぱり好きじゃない。


「……実力を見てもらう時に訓練で負けたらダリアを嫁にくれって言われて、負けちゃったけどね」

「ハスさん……何やってるのですか、私抗議してきます!」

「いや、ダリアもなんだか楽しそうにしてるから、気持ちは複雑だけど別に良いと思う」

「……まぁ、確かにダリアも良い人がいてもおかしくないと思うから、応援してあげた方がいいのかも?でも、凄い複雑そうな顔をしてどうしたの?」

「いや……、なんだか娘を取られたみたいな感じがした凄い嫌だっていうか、でもダリアが楽しそうにしてるからこれでいいのかなって言う気持ちがあって、自分の中で上手く整理出来てないだけだよ」


……ぼくがそういうとダートが吹き出して『もう……、これで将来私が娘を産んだらどうするの?その時も同じ事しないでよね?レースお父さん?』といたずらな笑顔を浮かべる。

それを見てちょっと恥ずかしくなってしまうけど、このやり取りがなんだか気持ち良くて安心してしまう。

自分の家じゃなくても日常がここにあるみたいで……、ケイスニル達が攻めて来た時にここを何としてでも守りたいと思いつつ、束の間の日常を決戦の時まで過ごすのだった。

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