手紙の内容
とりあえず出来る限りの掃除や後片付けをしたけど、所々焦げた床や壁に穴が開いた天井とかを見て……戻ってきたみならい騎士の人達がどう感じるのかと思うと、ライさん程ではないけど胃が痛くなりそうだ。
「……ライさん、これどうしよう」
「後でまた薬王の元へ行って謝って来る……」
「あぁ、それなら俺も行くぜ、訓練場で暴れて燃やしちまったしな……」
二人も悩んでいるようで同じように渋い顔をしている。
それを見たダリアが不機嫌そうな顔をしたかと思うと……
「いや、ここでうだうだする前にさっさと謝りに行けよ」
「ダリアさん……そういう訳にはいかないんだ、薬王は何やら襲撃に向けての準備があるという事で何処かに消えてしまってね」
「何処かって……何処だよ?」
「それは俺も分からないかな……、目の前にいたのに一瞬で姿が消えてしまったからね」
一瞬で姿が消えるってそんな事あるのだろうか……。
考えうる範囲では、Sランク冒険者【宵闇】フィリア・フィリスのように何らかの魔力特性により自身の姿を消したりしているのかもしれない。
またはぼくやライさんのように王家の血筋の者だけが使える属性の魔術を使っている可能性もあるけど、その場合メイメイのように周囲の樹木を操ったり、樹を直接生やしたりするだろうから、これはたぶん違うだろう。
なら……ないとは思うけど、何らかの方法でこの首都として使われている【メランティーナ】の体と同化したとかだろうけど……、その場合ショウソクの中に残っている神の力がどれくらいかわからないから推測の域を出ないのが難点だ。
ただ……それ以上に個人的に気になる事があって──
「ライさん、ショウソクがいなくなったって事は……、あの本の中に隠されていたものはどうなったの?」
「あぁ……それなら彼に見せて確認をしたら驚いた顔をして本を取り上げられてね、表紙をナイフで切ったかと思うと中から手紙のような物が出て来たまでは良かったのだけど……」
「もしかしてその手紙の中に何かあったの?」
「そ薬王が目を通した後に凄い不機嫌な顔をしてね……その後にレース君以外には見せるなという事で一応預かってはいるけど、ここで見るかい?それとも後で読むかい?」
「それなら今読むよ、でもショウソクがそう言うって事は本当にぼくしか見ちゃいけないと思うから離れて読むね」
そう言ってライさんから中に入っていた封筒を受け取ると、訓練場の端に行き中に入っている手紙を取り出して目を通す。
そこには……メセリーの初代薬王からマスカレイドへと向けた手紙が入っていて、内容を見ると……
『あなたがこの時代から元居た時代へと戻ってからいくつもの数えきれない程の年月が経過しました……私はレイド、あなたが居なくなった後シャルネ様に頼まれ【薬神】メランティーナをこの身に封じる事になりとても不安な毎日を過ごしています』
と言う当時の出来事を語る内容が続いたかと思うと……
『当時のあなたはまだとても小さい子供で私の息子のショウソクと同じ実の子のように可愛がっていた日々が老いて先が短くなって来た私には、つい先日のように思い出せます。……あの時は苦しい時代でしたがあなたが語る未来の技術や作ろうとしている【魔科学】や【魔導具】と言う物に関して、大戦が終わった後に訪れる日々は何て楽しいのだろうかと、胸を震わせたのも懐かしくそして見ることが出来ないのがとても悲しいです』
マスカレイドが子供の頃に御伽噺の時代に行って、現代に戻ったという内容に目が行って他の内容がいまいち頭に入らないけど……とりあえずとても親しい間柄だったのはこの手紙から伝わる。
それに手紙の所々のインクが濡れたのか所々、少しだけ滲んでいるあたり……初代薬王かマスカレイドどちらかは分からいけど、これを見て泣いたのかもしれない。
『──遥かな未来にあるこの国の書庫の文献に期された術を試している内に過去に飛ばされたと聞いた時は当時驚きましたがレイド、あなたは今元気にしていますか?誰かと笑えていますか?奥さんを貰って可愛い子供達と共に生きていますか?、もしそうなら私との約束を忘れてあなたの人生を生きてください、ですがもし……今が苦しい、つらくて逃げだしたくなったら、私があなたに託した思いを継いで……私達の世界へ続く扉を開けてください、そして我らがエルフ族の悲願を故郷へと戻りたいという想いを遂げてね?……大丈夫あなたなら出来るわ、その時は故郷を知らない私の息子に素晴らしい世界を見せてあげてね』
……なんていうか……凄い反応に困る手紙だ。
これを見たショウソクは何を感じたのだろうか……、ぼくには分からないけど不機嫌な顔をしたという事は良くない感情を抱いたのかもしれない。
そう思いながら、手紙を良く見ると端っこの方に新しく書き加えたような見覚えのある文字が見える。
この癖のある字はマスカレイドが自分が読めればいいと思った時に書くものだ……読みづらいけど何とか目を凝らしてみるとそこには『……いつかあなたを必ず向かいに行きます、何を犠牲にしてでも必ず』と書かれていたのだった。




