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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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偽装の魔導具と疑い

 マスカレイドが本に細工をして、本を魔導具へと改造して偽装の魔術を施したのだとしたら、この中には見られたくない物があるのかもしれない。

その場合、回路を取り除いてただの本に戻してしまったら……中に何があるのだろうか。


「……マスカレイドがやったんだと思う、多分この中に見られたくない物があるのかも」

「なるほど黎明か……という事は、この本に付与された魔術はレース君の左腕の義肢のと同じ事になりそうだね」

「多分そうだと思うけど、……それがどうしたの?」

「あぁ……、俺は一時期栄花からマーシェンスに導具と魔科学の技術を学ぶ為に留学した事があってね、機会があって彼の作った作品に触れさせて貰う事があったのだけれど、今でも記憶に残る程に素晴らしい物だった」


 そう言いながら本を片手で持ちながら雷で包み込むと、空いた方の手でぼくの義肢に触れて……


「えっと……何で左腕に手を?」

「回路に電流を流す事でその作成者の癖が分かるんだ……、特にマスカレイドが魔導具に刻む回路には独特な癖がある物が多くてね、そこを解析する事でどのように弄れば安全に解除出来るのかが分かるんだよ、まぁ……雷を操る属性を持つ血筋は少ないから出来る人は限られてしまうのだけどね」

「血筋が少ない雷を操る属性、……もしかしてだけど留学する経緯って学ぶ為以外にもミオラームの親戚って言う可能性もあったりする?」

「レース君の予想は当たってはいるだろうけど外れでもあるね、……マーシェンスの王族とは血縁があるのは確かでそのおかげで雷を扱う事が出来るのも当たっている、ただそれは遥か昔の話で今は王族の一族としての血は薄まっているからね、それが理由で留学を許される事は無いかな、ただ単純に学びたくて留学しただけさ」


 ……本当にそうなのだろうか。

ならどうやってマスカレイドの作った魔導具に触れる事が出来たんだろう。

もしかしてだけど、その時に何かぼくでは想像出来ないような事があって、内通者になっている可能性がある。


「……義肢を解析する前に一つ聞きたいんだけどいいかな」

「ん?それで君の疑いが晴れるのなら、一つではなく幾らでも答えるよ」

「どうやってマスカレイドの魔導具に触れる機会を得たの?」

「あぁ、マーシェンスでは定期的に魔導具や魔科学の発展を願う懇親会があってね、その際に王族がマスカレイドの作った作品を展示してくれるのだけれど、俺を含む留学組の中でも成績が優秀な人物は参加する権利と共に特別に触れる事が許される、その際に許可を得て解析をさせて貰ったんだよ」

「……なるほど」


 その言葉が本当なら疑うのは違う気がする。

魔導具と魔科学を学ぶ為に栄花からマーシェンスに留学したという事は、慣れ親しんだ国から異なる文化のある場所へと一時的にとは言え移り住む事になる。

メセリーに魔術と治癒術を教わりに学園に入学する他国の人達のように、かなりの勇気がいる筈だ。

そんな環境で一生懸命に頑張って来た人を疑う何てしていいのだろうか……。


「どうやら疑いが晴れてきたようだね」

「はい、でもまだ質問していいかな」

「構わないよ?先ほど言ったように君からの疑いが晴れるのなら何でも答えるよ」

「……マーシェンスでマスカレイドに会った事ある?」

「留学先で何度か遠目で見た事はあるから、会った事があるにそれを含めるのなら……そうだと言えるね、それを除くのなら話した事は無いから違うって事になるね」


 という事は……マスカレイドとの交流は無かったと見た方が良いだろう。

ならこれ以上ライさんを疑うのを止めて信じた方が良いのもしれない……、それにアキラさんが信頼している人だ。

必要以上に警戒し過ぎて嫌われてしまうのは良くない。


「レース君、これで君の疑いは晴れたかな?」

「はい……、ライさん疑ってしまってすいませんでした」

「いや、謝らなくて良い……、相手に疑念を抱いたのなら真実を確かめようとするのは必要な事だよ、例えばだけどマーシェンスにおいて魔導具と魔科学において新しい作品や技術を産み出し、発展させる為には探求する心が必要だって言われるからね」

「……なるほど?」

「いい方が難しかったかな……レース君悪い事をしたね、ただそうだね……かみ砕いて言うと知りたい疑いたいという気持ちは大事にした方が良いって事かな」


 ……あんなに疑ってしまったのにそう言って許してくれる辺り、本当に良い人なのかもしれない。

何て言うかぼくが診療所を運営していなくて、治癒術の研究をして新たな術を生み出したり既存の術を改良しよりよき物にするのを目的としているメセリーに存在する組織に所属していたら……、上にはこういう人がいて欲しいと感じる程に安心出来る。

そんな雰囲気を感じるから不思議だ。


「……ありがとうございます、そこまで言ってくれる何て嬉しいです」

「はは、どういたしまして……、では魔導具の解析をさせて貰っていいかな?」

「はい……お願いします」


……ライさんが集中しやすいように近くの椅子に座ると、テーブルの上に義肢の左腕を置いて力を抜く。

そんなぼくの姿を見て安心したかのように頷くと、義肢に触れて雷属性の魔術で電流を流し解析を始めるのだった。

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