疑心暗鬼になる思考
とりあえず現状出来る話し合いとしたら後は攻め込まれた時にどうするかだけど、この国の王族を抜きにして話を進めてしまってもいいのだろうか。
外部の人間が関わるべき問題ではないと思うけど、これってぼくの立場を考えると育ちはメセリーだけど、出生はストラフィリアでしかも王族だ。
この場合外交問題になる可能性もあるし、もしかしたらそれ以上の事になってしまうかもしれない、そうなってしまった場合王位を継いで新たな王となったミュラッカの負担になってしまうだろう。
特に彼女の場合、最近子供が出来たという事はこれから先……そう安定期に入るまでの間体調を崩したりもするだろうから、兄としてはあんまり負担をかけさせたくない。
……そういう意味ではダートもそうなるだろうけど彼女は大丈夫なのだろうか、今はまだ問題無さそうだけど日数が経過して、お腹の子が育って大きくなって来た時に今回とは別の協力要請が届いてしまったら断る事が出来るのか……、そう思うと不安でしかないし……もし断れなかった場合、ぼくは多分栄花騎士団を敵に回してでも彼女を守ろうとする筈。
「貴様が考えている事は顔に恐ろしい程出ているから何となく分かるが、そんな事にはならないから安心しろ」
「……アキラさん?」
「どうせダートとお腹の子を見ながらどう守ればいいかとか考えていたのだろう、少なからず私とカエデがいる間は無理な事をさせる気は無いから安心しろ」
「でも……今回とは別に協力要請が来たらどうすればいいのか不安でさ」
「確かにそれに関して現状、来てしまったら断れないのも事実ですからね……」
栄花騎士団の団長がどんな人物であれ、今迄の行動や最高幹部の人達からの評価……、そしてメイメイの感じた印象を踏まえると、こちらの状況を気にかけてくれる事は無いだろう。
むしろ必要とあれば世界の為に犠牲にされる可能性がある、それに良く考えてみるとぼくから見てもおかしい気がする点が多い、どうして指名手配されている人物の居場所がある程度分かっているのに行動が後手なのか。
ストラフィリアの時もそうだ……、実際に行動を起こし始めてから最高幹部を派遣していたりするのもそうだけど、グロウフェレスと相性が良いヴァンパイアのシン、そしてマスカレイドの天敵とも言える能力を持つドワーフのトキ等、二人が不利になる人物を何故適切に配置する事が出来るたのか、それならガイストと相性が良い人物をもう一人配置する事で……短い間であったけどぼくとの距離感に悩みながらも、不器用に父親になろうと努力をしようとしてくれた前覇王ヴォルフガングが死ぬ事は無かった気がする。
「レース?凄い怖い顔してるけどどうしたの……?」
それに……トレーディアスの時もそうだろう、マスカレイドの元から逃げたスイに対して有利に戦える猫の獣人族のソラ、そしてカエデと友人関係に見える彼の妹のラン。
ソラの能力を使って毒を防ぐ事が出来たという事は、そのままスイを無力化して討伐する事も可能だった筈、それにカエデから聞いたランの能力を考えると、限界へと至っているらしいから……過剰な戦力がそこにあった可能性がある、でもこれに関してはカエデの事を考えて予め派遣していたと思えばまだ納得が行く。
「ちょっと……ね」
それなら最初のルードと戦った時の事はどうだろう。
ケイは当時最高幹部になったばかりで経験が浅かったらしいけど、アキはどう見ても実力を隠していた気がする。
ケイの戦闘能力は正直言って心器を顕現させていない時は、今のぼくと然程変わらないけど……アキの場合、うろ覚えだかど水で作った矢を射るだけで心器特有の能力を一つも使っていなかった筈だ。
それに関しては彼女なりの考えがあったから疑い過ぎるのは良くないけど、接触して来た時の事を考えると肉体強化から魔術、更には治癒術まで高いレベルで使う事が出来る栄花騎士団の最高幹部が何故ぼく達に接触する必要があったのだろうか、ダメだ当時はそこまで人に興味を持てなかったからうろ覚え過ぎて全てが疑わしく思えてしまうのは良くない。
こういう時はちゃんと言葉にして聞いた方が良いな……
「ねぇカエデ……、ちょっと栄花騎士団に対して考えたって言うか思う事があるから聞いてもいいいかな」
「え?あ、はい?別にいいですけどどうしたんですか?」
「実は……」
ぼくが先程思い悩んだ事を伝える。
多分これはただの妄想なんだろうけど……吐き出さずに胸中に隠してしまいその結果疑心暗鬼に陥って誰も信じられなくなるよりは、相談した方が良い筈だ。
「……なるほど、つまりレースさんは団長が全て分かった上で人員を配置していたのではと疑問に思ったわけですね?、でも確かに最高幹部の人達を見ると組み合わせ次第ではSランク冒険者の討伐が出来る可能性があったり、マスカレイドとシャルネ側にいる使命手配された人物に相性が良い人ばかり」
「やっぱり違和感を感じるよね?」
「えぇ……確かに昔からこうなる事を知っていたようで……それに【死人使い】ルードに対して相性が良いアキラさん、とは言え【紅獅子】ケイスニルと相性が良いメンバーはいない変わりに……、この国と相性が悪いハスさんとそのブレーキ役になれるライさんが揃っていますね、まるでこの国の王を討伐する未来があるような?アキラさんはどう思いますか?」
「そうだな……、それに関してはレース、貴様の考え過ぎな面もあるから落ち着いた方がいい、副団長であるカエデは知らないだろうが、私達最高幹部は各々目的はあれど理解した上でこの立場にいる、ただまぁそうだな……誰一人として団長を信用をしていないのは確かだが、手腕に関しては信頼している、今はそれだけでいいだろう……だがそれよりもだ、いい加減こそこそと隠れて聞いていないで出て来たらどうだ?薬王」
……アキラさんがそう言って誰もいない壁を見ると『気付いているのなら最初から声を変えればいいだろう』と声がする。
驚いて声がした方向を見ると、壁が人の形に変形したかと思うとそのままエルフの男性となりこちらへと歩いてくるのだった。




