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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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団長と隠し事

 カエデが通信端末を使って連絡をした先は、栄花騎士団の団長で彼女の父親だった。

ただ……やり取りを黙って見ていると途中から顔色が変わったかと思うと


「……おとうさ、いえ、団長あなた、それを本当に言ってるのですか?」


 今迄見た事無い程に険しい顔をしたカエデに思わず数歩後ろに下がってしまう。

いったい何があったのだろうか……。


「今なら聞かなかった事に出来ます、ですから嘘だと言って貰えませんか?……『全てを知った上で黙っていた』と言う先程の言葉は嘘ですよね?」


 栄花騎士団の団長は全てを知っていて黙っていた……?、それが事実だとしたらぼく達は何でここにいてアキラさん達は何故任務でこの国に来ているのだろう。

それにどうして団員の人達は騎士団に入っているのか。


「……世界を維持するのがキリサキ家の使命って、その為なら何があっても良いって言うんですね?分かりました、失礼します」


 カエデが通信を切ると一呼吸してぼく達を見る。

その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいて……、こういう時どうすればいいのか分からない、ダートが辛そうにしていた時のように優しく抱き締めたらいいのだろうか。

それとも普段通りに接してあげた方がいいのか、またはそっとしておいてあげるべきか……。


「まぁ、余は奴がそういう人物だと知っておったけどのぅ……、まさかとは思うがカエデちゃんは今迄知らなかったみたいじゃな」

「メイメイ様、知ってたってどういう事ですか?」

「……まぁ、余の事情で色々とあったのじゃよ、ただその時に感じたのじゃが奴は世界の為なら平気な顔で人を殺せるし、身内であれど切り捨てる男じゃなって、まぁ栄花と言う国の実質的なトップなのだから必要な事ではあると思うが、まさかこの世界を壊す危険性のある存在を野放しにしておるとはのぅ……そこの最高幹部のアキラじゃったか、お主は知っておったのか?」

「……胡散臭いグラサンとしか認識はしていなかったな、奴が団長になるまでは最高幹部と言う枠すら無かったというのもそうだが、私達のような高ランクとSランク冒険者の間又は限界に至る器の持ち主を集めた理由は、最高幹部と言う名を付けて異常な戦力の持ち主を集める事で抑止力にする為らしいが、正直私が騎士団にいるのは守るべき家族が出来てしまったからだからな」


 守るべき家族……、アンさんとその間に出来た子供の事だろうけど確かにぼくもアキラさんの立場だったら、彼と同じ選択をする気がする。


「……カエデちゃん大丈夫?」

「お姉様、はい……私は大丈夫ですけど、いえ、ごめんなさい、嘘です」

「だよね?無理はしちゃダメだからね……、カエデちゃんはお父さんと話してどしたいって思ったの?」

「……お父さんを説得したいです、分かっていて放置するんじゃなくてちゃんと協力して欲しいって」

「カエデちゃんの気持ちは分からないでもないのじゃが、そこまで気にせんでも良いと思うのじゃよ……、あぁは言うたが奴の事じゃから世界の危機になったら間違いなく動くじゃろうしな、現状動かないのは緊急を要する事態では無いという事じゃろうて」

「でも、それでもやっぱり、そういう危険性があるのなら予め対処して欲しいというか」


 メイメイの言っていた事が事実であるのなら……カエデの言いたい事は分かるけど、直ぐに対応していた場合、それに割り振る団員の負担等を考えると現実的ではないだろう。


「……その為の私達最高幹部がいるのだろうな、とは言え疑問に思った上で変えたいと思うのなら、姫が将来団長になった際に変えて行けばいい、まぁ私達からしたら周囲の印象を考えたら姫が上に立ってくれた方がいいがな、グラサンに関して好印象を抱いている人物の方が少ないだろう、なにせあいつは……いやこれに関しては姫が団長になった際に分かるだろうな」

「でも私が団長になるとしても、レースさんと結婚したらキリサキの家系から外れてしまいますし……良いんでしょうか」

「そんな事は気にしないで良い、騎士団内部では誰も文句は出ないだろうが……仮に外部から何を言われたとしてもその場合は私達が支えるから安心しろ」

「……えっと、そういう事何でレースさん、私結婚した後に栄花騎士団の団長になりたいんですけど……良いですか?」

「……ん?何でぼくに聞くの?」


 カエデが申し訳なさそうな顔をして許可を求めて来るけどいったいどうしたのだろうか。

そんな事しなくても自分がやりたいならやっていいと思うんだけど……


「……えっとですね、団長になったら家よりも騎士団本部にいる事の方が増えますし、もし将来ダートさんみたいにお腹の中に子供が出来たとしても、立場的にゆっくりする事も出来ないので心配をかけてしまうと思います、それにですね、家にあんまりいない親って子供が見たらどうなのかなって言う心配持って、ごめんなさいあれこれ考えたらレースさんに許可を貰いたいなって」

「許可をって……、カエデがやりたいって決めたならやった方が良いと思うし、それにもし将来そうなったとしても、診療所から直ぐ栄花の騎士団本部に移動出来るから会いたい時に会いに行けるから大丈夫だと思う、それにダートみたいにこど……ん?、え?こど……へ?」

「あっ……」

「カエデちゃん……、それまだ内緒だったのに」

「ごめんなさい、ダートお姉様私ついっ!」


……カエデは今何て言った?ダートのお腹の中に子供って、いやでも確かに少しだけ思い当たる節がある。

以前彼女に治癒術を使った際に腹部に違和感を感じた事があったけど、それがもしかしたらそうだったのかもしれない。

でもそれだったら何dね教えてくれなかったのか、そんな事を思いながらダートの事を見ると頬を赤らめつつも『……えっと、ほら家にいる間の夜ね?カエデちゃんと三人部屋になる前に二人で色々と頑張ったでしょ?そしたらね?……まぁ、えっと、今迄黙っててごめんね?』と不安な顔をしていうのだった。

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