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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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メイメイの謝罪

 切り裂かれた空間を通るとそこは宿の部屋では無く、様々な道具で溢れた場所で様々な薬が棚に並んでいるのが見える。

ここは何処なんだろうか、首都である事は間違いでは無いのだろうけど……


「……試薬用の棚?」


 とりあえず部屋の中を歩いて見ると試薬棚と書かれた物が眼に入る。

製造番号と効能がそれぞれの瓶に書いてあるけど、どうやらメイメイに渡された薬が改良された物らしい。

念の為何が変わったのか確認して見ると、エルフ族と比べ人族の間で効果が切れる時間が少なかった事に関する内容のまとめと共に、改良後にどうなったのか書かれているけど、どうやら若い個体程効果が切れるまでの時間が早く、老いれば老いる程長く続くようだ。


「これを見る限り加齢による代謝の低下で効果が伸びたって言う事だけど、改良後服用者代謝を下げ効果を長持ちさせる事に成功したみたいだけど、これ改良しない方が良かったんじゃないかな」

「んー、やはりレース殿もそう思うのじゃ?余も作ったは良いが長時間代謝が落ちた場合の危険性を考えるとどうかと思うておったんじゃよ」

「……メイメイ」


 部屋の扉が開くと外からメイメイが入って来る。

まるでぼくがここにいるのを予め知っていたかのように話しかけて来るけど、もしかしてライさんがカエデに連絡をしてくれたのだろうか。


「くふふ、驚いておるのぅっ!実はのぅ転移先をここに指定したのは余なのじゃよっ!」

「……移動させるならダートのいる所にしてくれたら良かったのに」

「精神が不安定になってる状況でいきなりレース殿を転移させたら何が起こるか分からんでは無いか、これは余なりの気遣いじゃよ……、まぁそれは建前なのじゃがちょっと二人で道すがら話をしたかったのが本題じゃな」

「話?別にいいけどどうしたの?」

「んー、取り合えず遠回りしながら話すのじゃよ」


 遠回りって早くダートの所に行きたいのにな……。

そう思いながら部屋を出て着いて行くとメイメイが何やら申し訳なさそうな顔をしてぼくの顔を見て来て……


「あー、そのなんじゃ?お主には悪い事をしたのぅ……、まさか種族間の違いで基礎代謝の差がここまであるだなんて思って無かったのじゃ」

「いや、予め何が起きるのか分からないのを理解した上で受け取って使ったんだから謝らないでいいよ」

「じゃがのぅ……、余は薬師じゃよ?それなりのプライドがあるのじゃよ、だからお詫びになるのかは分からぬが、出来る範囲で良ければ何でもやるのじゃ」

「んー、結果的に元の腕よりも使いやすくなったからそこまでしなくてもいいんだけどなぁ」

「それはそれで複雑なのじゃが……、何か無いのかのぅ?とは言っても余を嫁に欲しいとか言うのは駄目じゃぞ?いくら可愛らしい見た目をしているとはいえ一国の姫じゃからな、婿になりたいと言うのなら考えんでも無いのじゃが、お主にはもうダート殿とカエデちゃんがおるじゃろ?求め過ぎるのは良くないからのぅ、じゃからそれ以外にって……何じゃそのめんどくさそうな人を見るような顔は」


 ……めんどくさいと思ってしまっているのは確かだ。

何故お詫びでメイメイとそのような関係にならなければいけないのか、ぼくにはダートとカエデがいれば充分なのに、これ以上増える何て事を想像して見ると正直言って無理がある。

これから先の事を考えてもいつかは家族が増えるだろうし、その時に妻に当たる人が複数人いたらどう思うだろうか、二人いる時点でも心配なのにそれが三人ってなったらどうすればいいのかぼくにはわからない。


「まぁちょっと思う所があってさ……、でもそうだね、何でもしてくれるって言うなら婚姻以外でお願いを聞いて貰っていいかな」

「婚姻以外で?まさかお主……、余が可愛いからと不埒な事をする気じゃないじゃろうな!?ダメじゃダメじゃ!婚姻前の交渉など認められないのじゃ!」

「どうしたらそんな考えになるのか分からないけど違うから大丈夫だよ」

「何じゃ欲の無い奴じゃのぅ、年頃の若い男性はそういうのに弱いと思ったのじゃがな」

「確かに一部の人はそうだろうけど、幼い身体の女の子に対してそんな感情を抱くのは一握りの人位だよ……でさ、お願いしたい事なんだけどメイメイが作った薬を定期的にぼくの診療所に届けて貰ってもいいかな、勿論試薬とかじゃなくて治療に使う薬の方なんだけど」


 協力要請に従うついでにあわよくばメイディから薬を仕入れる為の伝手が出来たらと思っていたけど、それがメイメイなら問題無いだろう。

むしろ理想的な取引だと思うし、相手がこの国の王族となれば……これ程信用出来る相手はいない筈だ。


「んー、余の薬で良いのなら幾らでも作って届けてやっても良いのじゃが……、診療所と言う事は行商をしているシャルネに届けて貰えば良いと思うのじゃが、それではダメなのかのぅ?」

「……事情があって頼る事が出来ないんだ、詳しくは皆と合流してから話すよ」

「何やら訳ありのようじゃな、まぁ取り合えずその願いを聞くが、何なら余が作った新薬も届けて良いかのぅ、あぁそんな顔して警戒せんでも良い、ちゃんと人族にも合わせて効果のある薬の方を届ける方にするから安心するのじゃよ」

「それは助かるけど……金額の方は結構高くなるんじゃない?」

「んー、金額の方は新薬に関してはこちらがお願いする方じゃからなタダで送るけど変わりにそうじゃなぁ、余が直接薬を届けに来てやるのじゃ!そうすればお友達のダリアちゃんに会いに行けるからのぅ!って事で宜しく頼むのじゃ」


……そう言って笑顔になると鼻歌交じりにスキップを始めるメイメイを見て、こうすると年相応の女の子なんだなぁって思うけど……、定期的に他国の姫が遊びに来ることを知ったらメセリーの【魔王】ソフィア・メセリーの胃にその内穴が空きそうだなぁと心配になるが、これに関しては戻った時に暫くストレス発散に付き合ってあげた方が良いのかもしれない。

そんな事を思いながら通路を歩いているとメイメイがこちらを見て『着いたのじゃ、ここにお主の愛しいダート殿とカエデちゃん達がおるからのぅ、先に入って感動の再開をしてくるのじゃよ……余は空気を読んで少しだけ間を置いてから来るから安心するのじゃ!』と言って、部屋への扉を開けると勢いよく背中を押して来るのだった。

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