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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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悪への誘い

 いくら治癒術師として治療が必要な人を放っておけないとはいえ、間違いなくやってはいけない事をしてしまった気がする。

本来ならルードを治すだけだった筈なのに、彼を魔族と人族のハーフのような存在に変えてしまったのがその証拠だ。


「……そうかよ、ありえねぇと言いてぇが、戦う事しか脳の無い俺が親になる日が来るとはな」


 以外にも冷静に状況を受け止めているケイスニルに驚きながら彼の顔を見るけど、何やら満更でもなさそうな顔をしている。

この状況でそんな表情を出来る事に関してぼくは意味を理解が出来そうにない。


「どうしてそんな嬉しそうな顔をしてるの?」

「ん?俺がそんな顔をしてるのか?」

「……うん」

「そうか、まぁなんだ?マンティコアと言う種族は俺を残して全員過去に起きた大戦で死んじまったからな、本能的にも個人的にも残す事が出来なかった種族を後世に残す事が出来た事が嬉しいのかもしれねぇな」

「そうなんだ?」


 治療が終わり安らかな寝息を立てているルードの髪に愛おし気に触れるケイスニルを見ると、何て言うか本当に自分の子を愛している親のように感じる。

……これを見てしまったら、この人を敵として見る事が出来なくなりそうだ。


「……レース、分かってると思うがおめぇがやった事は人間との混ざり物とは言え滅んだ種族を蘇らせたというこの世界に対しての禁忌を行なったに等しい」

「分かってるよ……、これがバレたらぼくはあなた達と同じように指名手配されて狩られる側になるんでしょ?」

「あぁ、だからよ、おめぇさえ良ければ俺達の所に来ねぇか?って言ってもいけ好かない陰険眼鏡じゃなくて、飼い主の方にだぞ?おめぇには恩が生まれちまったからな、こっち側に着くなら喰わないでやるよ」

「……えっと」


 ぼくがシャルネ側に着く?そんな事考えた事無かった。

この禁忌を犯し世界の敵になってしまったお伽噺の英雄の味方になる、そうすればぼくの身の安全は保障されるだろうけど、ダートはどうなる?シャルネに狙われている以上ぼくが彼女の元を離れるわけには行かない。

それにカエデやダリアに友人達を捨ててまで世界を敵に回せるのか、少なからずぼくには無理だろう。


「今直ぐ答えを出せとは言わねぇよ……、ただそうだなおめぇなら利口な判断が出来ると俺は信じてるぜ?」

「ケイスニルは飼い主が何をしようとしてるのか知ってるの?」

「あ?勿論知ってるぜ?そのせいで世界が壊れる可能性がある事もな、けどよ結果的にそうなったとしても俺は構わねぇよ、俺よりも強い奴が決めた事だそれに関して弱者の俺に逆らう必要はねぇし後悔もねぇ」

「それってさ思考を放棄してる事になるんじゃないかな、せっかく種族を増やす事が出来たのに世界が壊れたらそこから先増える事が出来なくなってしまうと思うんだけど?」

「……思考の放棄?そんな事分かってるさ、けどよぉ何度も言うが俺は戦士だ強い奴が偉い、そして俺よりも弱い弱者を守る今更それを変える気はねぇし、誰に何かを言われたからと変わる事もねぇよ」


 ……多分だけどこの話はこのまま平行線になる。

長い時を経て固まってしまった価値観と考えと言うのもあるとは思うけど、本人が自覚した上でそれを最善だと思ってしまっている以上、何を言っても無駄だろう。


「それにだ、おめぇが俺達に着くならやって貰いてぇ事がある」

「……やって貰いたい事?」

「あぁ、おめぇにはマンティコアをもっと増やして貰いたい、その為に俺と行動を共にして貰いルードと歳が近い奴らを作り変えて貰う、少なからず500は確保しておきたいからな……、蘇った種族には人化の術が施されていない、その意味が分かるか?この人数が人と交わり新たに子が産まれた後にルード達との間に子を宿せば徐々に血が濃くなり新たなマンティコアが増える、俺の種族は血が濃くなればなるほど、先祖の能力の最終的な能力を受け継ぎやすくなるからな、そこに個人の能力が加算されて行けば最終的にこの世界を一人で滅ぼせる程の英雄が産まれる訳だ」

「……ちょっと言って事の意味が分からないかな」

「今は分からなくていい、少なからずおめぇは俺にとって最高の相棒足りえるって事だ、グロウフェレス以上にな、それに考えてみろ、もし飼い主を殺せる程に強い個体が産まれたらその血を残した俺が強い事になる、つまりだ世界を壊さなくて済むかもしれないぞ?それにだ俺の種族がこの世界を支配したら世界の半分をおめぇの好きにさせてやる、そうなったら定期的に餌になる人間を出荷してくれるなら全てから俺が守ってやるよ」


 そう言って野心に満ちた笑みを浮かべるケイスニルを見て思う。

この人を少しでもまともだと思った事、敵として見れなくなるかもしれないと思ってしまった事が間違いだったと、戦士としての誇りと使命感があるのは確かなのだろうけど、このやり取りで分かった事は誰かに支配される事で初めてブレーキが掛かる人で、遥か昔にシャルネ達に倒された事で牙を折られ大人しくはなったけど、きっかけさえあればこうやって主人にすら牙を向きかねない化物だ。

……それに彼の話を聞いて尚の事シャルネの側に着くことは無い、ぼくの守りたい大切な人達を餌として提供しなければいけない世界に何の魅力があるというのか。


「……まぁ、そこんとこ考えといてくれや、取り合えずオメェのやる事はもう済んだし帰って良いぞ?」

「帰ってって、どうやれば首都に帰れるのか分からないんだけど?」

「ん?あぁそうだな、それなら扉を開けて外に出たら真っすぐ歩き続けろ、そうすれば3,4日すれば首都に着くんじゃねぇか?」

「分かった、ありがとう……ならこのまま帰らせて貰うよ」

「おぅ、次はお互い敵にならねぇ事を祈るぜ?、あぁ後ルードを助けて貰った礼代わりにいい事を教えてやる、一週間後に俺達に協力しているSランク冒険者【滅尽】焔の炎姫が革命の為に首都に攻め込みメイディの【薬王】ショウソク・メイディを討つ、俺達はその為にこの国に不満を持っている群衆を率いて首都を陥落させるつもりだ、おめぇが俺達に着くなら黙っていろ、もしその気がねぇなら戻って伝えていいが、その時は敵同士仲良く殺し合おうぜ」


……ケイスニルはそう言うとまるで友人を送るように笑みを浮かべながらこちらに向かって手を振る。

ぼくが彼の味方になる事何て無いのにと思いながら外に出ると言われたように真っすぐ歩くけど、やはりぼくの予想通りSランク冒険者【滅尽】焔の炎姫、アナイス・アナイアレイトが敵だった事に関して、この多すぎる情報をどう伝えればいいのか頭を悩ませるのだった。

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