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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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治療する筈が

 ケイスニルに連れて来られた家に入ると外は凄いボロボロなのに意外と中はしっかりとしていた。

二人分のベッドに切り株で作られたテーブルと椅子等、必要性最低限な暮らしが出来るものが揃っている。


「……一応確認するが、ここまでの道のりを覚えていたりはしないよな?」

「真っすぐ移動していたのは分かるけど、暗かったから何も分からなかったからそんな心配しなくてもいいよ」

「ならいい、取り合えずルードの事診てやってくれ」

「……分かった」


 ……ぼくが覚えていなくても指輪があればダートがぼくを見つけてくれる筈だ。

とりあえず言われた通りベッドに横になっているルードに近づいて診察の魔術を発動すると、思った以上に酷い事になっている。

体内の血液が減っているのもそうだけど魔力も体内に殆んど残っていない、内臓の方も殆んどが既に機能していないという状況でこれで良く今迄生きて来られたと思う。


「……ここまで酷くなるまで何で放っといたの?」

「そ、そんなに悪いのか?」

「少なからずぼくと戦う前から身体に異常が起きていたと思うし、正直言ってどうして生きているのか不思議な位だよ、例えるなら死んだ体の機能を死霊術で無理矢理動かしてるような」

「……まじかよ、けど治療術師なら治せんだろ?」

「正直言うなら普通の方法なら無理だよ」


 普通の治癒術師なら死んでしまった部分を治す事は不可能だ。

ただスイと話しながら改良したあの治癒術なら治せるだろうし、寿命が減るというデメリットも少ない筈だ。

無くなってしまった物を作り再生させるよりも、今ある物を使って作り直してしまう方が安全だと思う。

これに関しては治癒術師の協会に論文を書いて提出してみたけど、今度はきっと禁忌指定されないと考えているけど、どうなるのだろうか……。


「普通の方法ならって事はそれ以外の方法で治せんだろ?」

「……出来るけど寿命が減るデメリットがあるからあんまりお勧めはしないし、ルードの弱った身体だと耐えきれないかもしれないよ?」

「それなら俺の魔力をルードに分けてやってくれ、血液も足りないなら俺のを使えばいい……、治癒術師なら出来るだろ?」

「……理論上は出来るけど本当にいいの?」

「良いって言ってんだろ?強者は弱い奴を守らなくちゃいけねぇ、躊躇わずにやってくれ」


 ケイスニルがそこまで覚悟を決めているのなら魔力を使わせて貰おう。

心器の長杖を顕現させると義肢の手に持つと、空いた方で彼の手に触れて魔力を同調させると長杖をルードに付けて体内に流して行く。


「何で心器を出すんだ?」

「……一度に二人同時に魔力の波長を合わせた事が無いから、心器の能力を使う感じかな」

「そうか、なら頼んだ」


 ルードと魔力の波長を合わせるとケイスニルの魔力と結びつかせる。

……暫く様子を見て二人の魔力の間で拒絶反応が起きていない事を確認すると、魔力の糸の先端を針に加工して二人の胸に差し込み魔力の通り道を作ると、ケイスニルから手を離して両手で長杖を持ち意識を集中して行く。


「……おい、何だこの針は」

「集中してるから黙って」

「お、おぅ」


 長杖を通じてルードの体内に流れて行くケイスニルの魔力を血液へと変換して行く。

本来なら魔力と血液の質が余りに違い過ぎると拒絶反応が起こってしまうのだけれど、さっきの確認作業でそのリスクが少ない事が確認出来たから問題無い。

徐々に顔色が良くなって行くルードを見ながら、今度はケイスニルの魔力を使って体内を作り直して行くけど……


「――ぐぅ、思った以上に辛いな」

「ルード自身の魔力が少ないから辛くても耐えて欲しい」

「分かってるが、グロウフェレスみてぇに魔力が豊富にある分けじゃねぇから、こういう時相棒が羨ましくなるぜ」

「……喋ってる余裕があるなら大丈夫でしょ?」


 とはいえ人族に獣人族の魔力を流し込んで体内を作り直した事が今迄無かったから、正直何が起こるか分からない。

それにこの人はお伽噺の時代から何百年も生きている当時を生きた純粋な魔族だから、長い時の中で変化をして行った現代の獣人族とは違うと思う。

大丈夫だとは思いたいけど、何らかの異常がルードの体に出てしまってもこればっかりはしょうがないと割り切るしか無いだろう。


「……まだかかるのか?」


 ケイスニルが何か言ってるけど無視して治療を開始して行くけど、ルードの体内を作り直し行く度に何故か彼の身体が痙攣している。

何が起きているのか分からないけど今ここで治療を止めてしまったら、死なせる事になってしまうから続行するしかない。


「……ん?」

「お、おいっ!治すんじゃなかったのかよ!?」

「いや、えっと……?」


 ルードの髪がケイスニルと同じ髪色に染まって行き、体には蝙蝠の翼と蠍の尾が生える。

内臓も本来の物の他に毒を生成する器官が生成され、肉体そのものが大きく変化してしまっていた。

……これではまるで二人が合わさって生まれた新しい種族のようだ。


「……どうして小僧が俺と同じ種族になったんだよ、しかも人化の術を使って失くした翼と尾がありやがる」

「……人化の術って確かドラゴンとかが人里に降りる時に使う魔術だよね」

「あれとはちげぇよ、俺達がこの世界で生きる為に世代を重ねて身体をこの世界の人間に近づけて行く為に相棒が作った術の事だ……、だからこんな事が起きるわけがねぇ!」

「……世代を重ねて?でもケイスニルはお伽噺の時代から生きてるんでしょ?つまりその一世代目って事は姿を変えているだけで肉体は獣人族じゃなくて魔族その物って事だよね?……という事は、魔力をルードに同調させて身体を作り直した事で肉体そのものが、ケイスニルの本来の姿と混ざってしまったって事になるのかも」

「……それじゃまるで、こいつが俺のガキになったみてぇじゃねぇか」


……細胞そのものが作り変えられてしまった以上その判断で間違いない筈だ。

今やルードの身体に流れている血はケイスニルと同じ物で、肉体も人族とは比べ物にならない程に強靭な物になっているのだろう。

治療する筈がとんでもない生物を生み出してしまったのかもしれないと思いつつ『……血縁が産まれた以上はそうだと思う』と言葉にするのだった。


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