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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第八章 戦いの先にある未来

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紅獅子の存在意義

どれ位の時間が経っただろうか……。

ケイスニルの背中に掴まって首都から離れて夜の鬱蒼とした森を移動しているけど……、いったい何処へ連れて行こうとしているのかと不安になるけど、あの場で彼に着いて行かなければ犠牲が増えただろうから、この判断は間違ってはいない筈だ。


「……ぼくを何処に連れて行く気なの?」

「あぁ?そりゃおめぇって言ってなかったな、ルードってお前と戦った小僧の治療を頼みたくてな……」


 ルードの治療?確かにあの時自傷による出血が酷かったとはいえ、そこまで重症になる程だったろうか。

何方かと言うと負傷のレベルだとぼくの方が重傷だった記憶があるんだけど……


「ルードの治療ってあの状況で考えるとそんな重症になるようには思えないけど」

「小僧の死霊術は特別なんだよ、自身の血を媒介に仮初の命を与えるからな」

「それだけなら輸血をしたりして失った血液を入れてあげれば何とかなるんじゃ……?」

「……その治療が出来る奴がいねぇんだよ、以前は治癒術が使える奴が一人いたんだが俺達を裏切って出て行っちまったしな」


 ケイスニルの言っている治癒術が使える奴はぼくが治癒術を教えているスイの事だろう。

確かに彼女は優秀だけど、当時の技術のままなら魔力を血液に変換して輸血を行なうのは難しかった気がする。


「しかもその女が今やおめぇの弟子なんだろ?……随分楽しそうにしてんじゃねぇか」

「……何でスイがぼくの弟子だって知ってるの?」

「そりゃあおめぇ、俺の飼い主がこの前メセリーの辺境都市クイストに行った時に見たらしいからな、そういやダートって小娘にも会ったと言ってたな、俺達の方に連れて行こうとしたらお得意様に邪魔されたって文句を言っていたけどな」

「……お得意様?もしかしてコルクの事?」

「ん?あぁ、確かそんな名前だった気がするな」


 シャルネが辺境都市クイストに来てダートに接触していた……?、その事に関して二人から何も聞いて無いという事は、【精神汚染】の効果で記憶から消されてしまっているのかもしれない。


「まぁ、なんだ?こうやって強引に連れ出した手前、言うのはどうかと思うんだけどよ、おめぇはルードを治してくれんのか?」

「治療が必要な人がいるって事だから、ぼく個人の感情よりも治癒術師としてやるべきことを優先はするけど一度症状を見てからじゃないと何とも言えないかな、取り合えず彼の元に着く前にどんな状態なのか教えてくれる?」

「あの後意識を失ってから一回も眼を覚ます事無く眠り続けてやがる、そのせいで飯を食ったりとか出来ねぇからやせ細っていく一方だ、現状は協力者の助けで延命が出来ている状況だが、正直いつ衰弱して死ぬか分からねぇ」

「……協力者?」

「どうせこの後会う事に何だから気にすんじゃねぇよ、で?ここまで聞いた感じ何とか出来そうか?」


 何とか出来そうかって言われたら多分出来るだろうけど、正直昏睡状態になってから一週間が経過している。

長時間の意識障害になった原因が分からない以上治療法を間違えてしまったら二度と眼が冷めなくなってしまう可能性があるが、何よりも危険なのは目が覚めたとしても脳に何らかの障害を負ってしまうリスクがあるという事だ。

後少し何らかの要因からルードの症状を知る事が出来れば出来る事が増えると思うのだけれど……


「出来るとは思うけど脳機能に障害が残る可能性があるからもっと詳しく知りたいんだけど……、その前にぼくからも質問していいかな」

「ん?……あぁ、何が聞きてぇんだよ」

「……どうしてルードをそんな必死になってまで助けようとしてるの?」

「あ?そんな簡単な事を聞くのかよ、戦士は自分よりも弱い者を助け保護をするのは当然の事だろうが」


 話をしていて思うけど、この人はただの乱暴な人なだけでは無い気がする。

以前戦った時はグランツの事もあって悪い印象しか無かったけど、仲間思いの立派な大人に見えてしまう。


「……何でそういう考えが出来るのにあの人に従っているの?」

「あ?そんなんおめぇ、弱者は強者に従うのは当然だろうがよ、単純に飼い主であるシャルネが俺よりも強かっただけだ」

「それだけの理由で禁忌を犯してマスカレイドと一緒に世界の敵になったの?」

「まぁな、それにその方が俺よりも強い奴と戦う機会が増えるだろ?、俺の存在意義は戦い、そして強者を打ち倒し、喰らって血肉とする事だからな、この方が俺にとって都合がいいんだよ、勿論おめぇも育って今よりも強くなったら俺が喰うからな、覚悟しておけよ?」

「……その時は悪いけどぼくがケイスニルを殺さずに捕まえるよ、そうすればぼくの方が強いって事になるし命令を聞かざる負えないでしょ?」


……ぼくがそう言うとケイスニルが『それは面白れぇ……、ならその時は誰にも邪魔なんかさせねぇタイマンで殺し合うぞ』と笑いながら言葉にする。

そうなった時彼を殺さずにいられるだろうかと思うけど、出来ればこの人を殺したくないという気持ちの方が大きい。

そんな事を思っていると徐々に走る速度が遅くなって行き、完全に動きが止まった時には即席で作られたかのような雑な作りの家が現れるのだった。


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