【黎明】の魔導具
義肢を接続した後にミオラームから使い方を口頭で説明され、実際に彼女の前で偽装の魔術が発動したのを確認すると、説明書を作るついでにこの国の王様に挨拶してくると言って出ていってしまったから、聞きたい事があったのにタイミングを逃してしまった気がする。
「ダート、ミュラッカの事知ってた?」
「……知らない、今初めて知ったから驚いてる」
「あー、だよね、ぼくもちょっと理解が追いつかないかな」
何とも言えない沈黙が部屋を支配する。
おめでたい話ではあるんだけど、どうしてミュラッカは伝えてくれないのだろうか……。
「……何で伝えてくれないんだろうなぁ」
「んー、ほらミュラッカちゃんって今国内の事で忙しくて連絡をする余裕が無いのかもしれないじゃない?、だからしょうがないのかも?」
「確かにそうかもしれないけど……」
「もう、そんなあれこれ細かい所は少しだけ私嫌いだよ?」
「……気を付けるよ」
ダートから初めて嫌いと言われた気がする。
確かに人の事情に対してあれこれと小言を言うのは良くないと思うから気を付けないとな……
「うむ、わかれば宜しいのですっ!」
「……えっと?、何か普段と違う気がするけど?」
「あー、えっと、ほら最近レースの周りって個性が強すぎる女の子が多かったから、ちょっと頑張ってみようかなって」
「んー、確かにミオラームやメイメイもそうだけど性格が濃いけど、ダートはそのままでいいよ、自分らしくいてくれた方が嬉しいしそれに安心する、だから無理に作らないでいいよ」
「……ん、ありがとう」
何て言うか彼女らしくない気がする。
いつもならこんな事しないのにどうしたのだろうか……。
「ダートどうしたの?、何かいつもと様子がおかしいみたいだけど……」
「様子がおかしいって……当たり前じゃない、レースが死にかけたんだよ?それで一週間も眼を覚まさないで寝た切りっ!、いつ眼が覚めてもいいようにこうやってずっと側にいて、いつも通りに接しようとしたけど、そんなの無理に決まってるよ……」
「え、あぁ……」
「今回はたまたま生きてたけど、腕を無くして義肢になったその意味が分かるよね?」
「……うん」
ダートが眼に涙を浮かびながらベッドに横になっているぼくに抱き着いて来る。
確かに今回はたまたま生きてたけど、彼女や栄花騎士団のハスさんが居なかったら死んでいてもおかしくなかったわけで……、ダートが怒るのも当然だと思う。
「ねぇ、こんな危険な目にあってまで栄花騎士団の任務に協力する必要ってあるのかな」
「どういう事……?」
「だってレースが死にかけるし、こんな危険な目に合うなら最初から協力しなければ良かったんだよ」
「……ダート、それは違うよ、協力するって決めたのはぼくの意志だし、それにぼくが強くなりたいと望んで進んだ結果がこれなんだ、それに極端な意見になっちゃうけど、朴達がこの世界で生きる為には戦わなければいけないんだと思う、マスカレイドに狙われている事もそうだし、シャルネがぼく達を手に入れようとしているのもそう」
「……え?シャルネさんが?」
……あれ?シャルネの名前を言えた。
これはいったい……、いや?もしかしてだけど一度死にかけて意識不明になった事で精神汚染の効果が無くなったのかもしれない。
いや、それとも、この国にいるらしいシャルネ・ヘイルーンとキリサキ・ゼンの娘である【マリステラ・ヘイルーン】の力でこの国では彼女の能力が聞かないとか?、いや……それだとルードもシャルネの名前を言える筈……。
「……ちょっと待って試したい事がある」
「え、うん」
義肢に組み込まれた偽装の魔術を解くイメージをすると髪が白くなって行く。
その状態でシャルネの名前を言おうとすると――
「――、うん言えない」
「えっと、レース何をしてるの?」
「ちょっとね……、また偽装の魔術を発動してみる」
再び偽装の魔術を発動させ何度か小声でシャルネの名前を呟くとやはり言葉にする事が出来る。
何となくだけどどういう事かは分かった、体を奪われていた時のぼくは偽装の魔導具を使用しておらず『キノス・ルミヒウタレ・ヴォルフガング』と言う母が付けてくれた名前になっていた。
そして今はマスカレイドの作った魔導具に入っていた回路が組み込まれて、偽装の魔術が再び使えるようになり、魔力の波長は『レース・フィリア』になっている事から考えると、この精神汚染という特性は対象になった人物の魔力に影響を与える事で、認識をずらしたり、記憶から存在を消す、ぼくやルードみたいに名前を言おうとすると言葉が口から出なくなったりするのではないだろうか。
つまり今ならシャルネの事を伝える事が出来る、彼女が何をしようとしているのか全てを
「……ダート、今から大事な話をしたいからカエデとダリア、そしてアキラさん達を集めて貰えるかな」
「アキラさん達はカエデちゃんの指示で、Sランク冒険者【滅尽】焔の炎姫の身柄を確保しに行っていないよ?」
「なら、カエデとダリアの二人だけでいいよ、カエデの耳に入れば栄花騎士団の団長に連絡してそこから最高幹部全員に話が行くと思うし」
「分かった、直ぐ行ってくるね?」
……抱き着いていたダートが名残惜しそうにぼくから離れると、ベッドから立ち上がり急いで部屋から出て行く。
そしてぼくの呼吸と時計の針が規則的に動く音が部屋の中で静かに響き、ダートが二人を連れて来てくれるまでの間、魔導具の義肢を取り付ける為の施術で失った体力を少しでも回復させようと思い眼を閉じて身体を休めようと横になるのだった。




