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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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スイの理想の男性像

 あの後二人で禁忌の治癒術について改善案を出し合っていたら、いつの間にか朝食を食べる時間を過ぎてしまっていて……、ぼくの事を探しに来たダートに怒られてしまった。

その時に二人きりで何をしていたのかと詰め寄られはしたけど……、スイの手が治っているのを見て安心した顔をすると、そのまま二階から三人分の食事を持ってきて空間収納の中から人数分の椅子と丁度良い大きさのテーブルを取り出して、その上に朝食を乗せて行く。


「スイさん大丈夫?食べられそう?」

「治った利き手の方がまだ上手く動かせないけど、逆の方の手でなら何とか食べれそうだけど……、どうしてここで皆で食べるのかしら?」

「んー、私が食べたいからかなぁ、だってスイさんとは仲良く慣れそうだし、それに理想の男性像について色々と聞きたい事あるからかなぁ……、レースも気になるでしょ?」

「……え?、あぁ、う、うんそうだね」


 え?気にならないけどと言おうとしたら、隣に座ったダートがぼくの方を見て来たから取り合えず話を合わせる事にする。

彼女なりの何らかの考えがあるんだと思うんだけど、理想の男性像を聞いてどうするのだろうか。

だって毛深くて、痩せた体型の筋肉質、そして年下で……、性格は真面目で一途な浮気をしない誠実な人。

そんな人物がいるだなんて思えないし、居たとしても出会いはタイミング次第な気がするから何て言えばいいのだか分からない。


「……そう?昨日話した事以外には特に無いけど、そうね、性格を更に言うなら人懐っこくて好きな人に対して甘えん坊な男性で、やっぱり誠実で一途、そして何よりも普段は大人びていてかっこいいんだけど、二人きりの時にちゃんと気持ちを言葉にしてくれて、母性をくすぐられるというか、あぁこの人は私が居ないとダメなのねって感じさせてくれる人が良いわね、そういう意味では年下男性の方がいい、年上の人の場合ってもう自分の事を自分で出来てしまう人が多いから甘えたりとかしてくれない人多いし、安心は出来るけどなんか違うから――」


 何て反応すればいいのか分からない程に凄い楽しそうに説明を始める。

取り合えず聞きながらサリッサが作ってくれたであろう朝食を食べるけど、この味付けはどっちかというとぼくの好きな物ばかりで思わず食事に集中しそうになってしまう。

それにしても何時の間に彼女はぼくの好きな味付けを覚えたんだろうか……、それに何だか懐かしいというかぼくが疲れている時にダートが作ってくれる、母さんから教わった特別な味付けにそっくりで嬉しくなる半面何だか複雑な気持ちだ。


「でね?……ってこのパンに挟んだお肉やお野菜の味付け特徴的だけど美味しいわね」

「うん、お義母様から聞いた味付けなんだけど……、レースが体調崩してたり、疲れて落ち込んでる時に食べると元気になるって言うから久しぶりに作ってみたの」

「……え?、これってサリッサが作ったんじゃないの?」

「サリッサさんがいつも通り私達の分も作ろうとしてくれてたんだけど、昨日の事があったから

今日は私が作りたかったの」

「……見せつけてくれるわねぇ、でもまぁ美味しいからいっか」


 昨日サリッサが作ってくれた料理は美味しかったけど、正直言うとダートが作ってくれた食事の方が好きだ。

どうやったのかは分からないけど常にぼくの好きな物を作ってくれる。

こっちも同じようにしたいんだけど上手く行っているかは分からない……、でも美味しそうに食べてくれるから良いのかもしれない。

でも……、これからはサリッサがぼく達の世話をしてくれるらしいし男性が調理場に立つ事を好まないだろう。

そう思うとぼくが調理をする機会があるのだろうか……、少しだけ残念だ。


「……で?、ここまで私の好みの男性像を説明させたんだから何かあるんでしょう?」

「え?あぁ、うん……、全部が当てはまるかは分からないけど、スイさんは一度会った事ある人でいいなら紹介出来るかも?」

「……会った事ある人?」

「毛深いと言っても尻尾だけど……、スイさんと同じAランク冒険者で二つ名は【拳狼】で狼の獣人の男性かな、性格に関して理想通りだと思うよ?」

「あぁ、あの冒険者ギルドの長になった元Aランク冒険者【紅の魔槍】ジラルドの仲間だった人ね……、へぇ年齢は幾つなの?」


 確かにクロウの性格ならスイの希望に会うだろうけど、本人に確認しないで勝手に紹介何てしてしまって良いのだろうか。

特に獣人族や人族となると、種族としての文化が違ったりするから難しいものがある気がする。

でもまぁ、どうなるかは二人の気持ち次第だから流れ的にもここはスイの力になって上げた方がいいのかもしれない。


「ぼくと同じ年齢だった筈だけど……」

「そう、なら決まりね、今から会いに行きたいんだけど……、確か名前はクロウ・クロスだったわよね?今は何処にいるか知ってるの?」

「コーちゃ……、んー、私の親友のコルクから聞いたんだけど昼間はこの家の近くにある、彼女の雑貨屋に護衛として待機していて、夜は宿屋に部屋を借りて住んでるらしいよ?」

「コルク……、あぁあのトレーディアスの王女様ね、じゃあ案内して貰っていいかしら」

「うん、レース悪いんだけど言ってくるね?ふふ、コーちゃんがクロウがこのままだと一人で歳取って行きそうって心配してたから頑張って来るっ!」


……ダートはそう言って立ち上がるとスイと二人で部屋を出て外に行ってしまう。

出来ればテーブルと椅子を片してからにして欲しかったなぁって思いながら食べ終わった食器をまとめて二階のキッチンに持って行くと、丁度洗い物をしていたサリッサにお願いしてやって貰うけど、やっぱり自分の事が自分で出来ないのは違和感があって少しだけ嫌だ。

それにどうやら今この家にいるのはサリッサとぼくだけでみたいで、ダリアとルミィはどうやら都市を探検したいという妹の我が儘に付き合わされて外に遊びに出ているらしい。

そうなると何だか、彼女と二人きりというのは何かがあるわけでは無いけど落ち着かない、取り合えず昨日の戦いに付いてアキラさんに相談したい事があるから会いに行ってみようかと、サリッサに一言用事で出かける事を伝えて家を出るのだった。

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