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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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禁忌の治癒術の危険性

 あの後二階の居住スペースに行ったらリビングのソファーでサリッサが眠っていた。

そしてぼく達が戻って来たのに気付くと、キッチンに歩いて行って温めた料理を出してくれると……


『本日お帰りになられるのか分かりませんでしたが、お二人のお食事を用意してお待ちしておりましたので……、冷めないうちにお食べ下さいね?』


 と言うと頭を深く下げて――


『では、私はもう日が暮れたので先に休ませて頂きます……、あ、後お二人のお部屋の方ですが外に音が漏れないように防音対策しておきましたのでご安心して、夜をおやすみくださいね』


 ……その後、何とも言えない気まずい雰囲気になったけど、特にあったとしても今日の反省会以外にはする事が無く気が付いたら朝になっていた。


「……で?私の手が治るって言ってたけどどうやって治すの?」


 今日は診療日の休診日だから、集中してスイの治療を行う事が出来る。

だから起きて直ぐ朝食を食べる前に彼女の元に行ったけど、既に起きてぼくの事を待っていたようで――


「スイ、起きてたの?」

「起きてるわよ、禁忌指定された治癒術をこの目で見る事なんて滅多にないし」

「見るって言っても……、使う時に麻酔を体内に入れて眠らせて体から寝てるうちに終わると思うよ?」

「……それだと見れないじゃない、嫌よそんなの、痛みの方は薬で何とかするから麻酔無しでやって欲しいんだけど?」

「ぼくが言うのもどうかと思うけど……、正気?」


 人の失われた部分を再生する治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、正直それを見たいというのはどうかと思う。

スイがそういうのなら見せてあげたいけど……、以前自分に使った時の気が狂いそうな程のあの痛みは正直耐えるだけでも精一杯だったから、彼女がそれに耐えられるのか心配でしかない。

だって肉体強化の適正が斥候型だから、使うと五感が敏感になりやすい部分がある以上、薬で幾ら痛みを和らげたり感覚を麻痺させたとしても、抑えるのに限界がある筈だ。

そう思っている間にスイが自身の腰に下げている道具袋から、薬の入った注射器を取り出すと自分で刺して体内へと入れる。


「治癒術で薬の効果が出るを早くしたから、これで行けるわ?」

「……本当にいいの?」

「えぇ、思い切ってやってちょうだい」

「分かったけど、後悔しても知らないからね」


 心器の長杖を手元に顕現させると、それをスイの失った手に当てて魔力を集中して行く。

彼女の脳内にある身体本来の形を引っ張り出すイメージをしながら、魔力を同調させて行き……、手の周囲を魔力で覆うようにすると……


「あ、これ、あなた何考えてるの!?」

「何って……、失くした部分を作り直すんだけど?」

「作り直すって、これはそんなんじゃ――」


 その瞬間スイの眼を大きく見開かれる。

まるで痛みとは違う何かを耐えるように、歯を食いしばるその顔はとても苦しそうだけど本当に大丈夫なのだろうか。

とは言えそうしている間にも骨が形成されて行き、その上に血管と神経が細い糸のように伸びて行く。

そして周囲を覆うように筋肉が切断面から伸びて、指を動かすのに必要な筋が指先へとゆっくりと繋がると


「んんっ!?」


 ……スイの口の中で歯が折れる音がした。

このままだと口内を必要以上に傷つけてしまい、出血により喉が詰まった結果上手く呼吸が出来なくなってしまう。

そうなってしまった場合、切断面の再生以前の問題だから一度手の方に回している魔力を止めて開いてる方の手で彼女の顔に触れて口を開けると、もしもの為に予め用意しておいた清潔な布を口に入れてこれ以上かみ砕かないように噛ませながら、治癒術で出血を止める。


「……だから止めた方がいいって言ったのに」

「んあんっ!んんっん!んんにぁんんいん!?」

「喋ると傷が開くかもしれないから黙ってて」

「……」

「大丈夫、もう終わるから」


 そして再び長杖に魔力を通すと手の再生を再開する。

筋肉と筋が剥き出しの状態から脂肪、真皮、表皮と形成されて行き……、指先には傷一つない綺麗な爪が生えて行く。

後は繋がった血管を機能させる為に、魔力を血液へと変換し、神経に脳から発せられる電気信号が通る様にと、彼女の脳に指令を送って作り直された親指の指先から小指までゆっくりと関節を順番に動かして、機能に問題が無いかを調べて無事に人体の一部として接続されている事を確認した。

そして魔力の同調を切って治療を終えると……


「……終わったから、もう口の布を取っていいよ」

「あなた、カルディア様以上の異常者よ」


 いきなり母さんよりも異常だと言われてしまい困惑する。

あの人なら正直、今のぼくよりもレベルが高い治癒術が使える筈だし、この禁忌指定された術ももっと効率的に、更にはより危険性を排除した安全な方法で使う事が出来る筈だ。

正直その方が異常だと思うんだけどな……


「……ふぅ、でもありがとう、おかげでどうして禁忌指定されたか正しく理解出来たわ」

「正しくってどういう事?」

「この術は人の寿命を確実に削るって事……、失われた部分を治すのではなく強引に体全体を細胞レベルで作り変える事で文字通り作り直す、それにより本来の細胞の寿命を無視した異常な分裂が行われるという事は……、損傷部分の範囲が大きければ多い程寿命が大きく削られるって事よ」

「……、作ったぼくが言うのもどうかと思うけどそんなリスクがあるだなんて思っていなかった」

「でしょうね……、正直人の手で生み出してはいけないレベルの術だもの、今回は私がお願いして使って貰ったけど、次からは何があっても使っちゃダメよ、やり過ぎたらあなた……禁忌を犯した存在として指名手配されて、過去の私みたいに討伐対象になるわよ」


……そう言って難しい顔をするスイは『……でもこの術なら応用出来れば父を戻す事が出来そう』と言いつつ、口の中に手を突っ込むと治癒術を発動させて何かをしている。

いったい……、どうしたのだろうかと思っていると『折れて砕けた歯を治癒術で固めて元に戻したのよ、さっきの禁忌の術でもこうやって使えばデメリットは減らせるでしょ?』と笑顔で言うのだった。

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