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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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闇天の刃と宵闇

 フィリアの行動に驚いて歩くのを止めてその場に止まってしまう。

まさか、いきなり銃を取り出して狙撃をするなんて思ってなかったし……、どうやったのか分からないけど、近くにいないとその武器が心器である事が分からない程の隠密性。

それに弾が打ち出される時の音がどうやっているのか、隣にいても一切聞こえないというのも異常だ。

もしかしてだけど、彼女の切り札である宵闇の能力だろうか……。


「フィリア……」

「既にこちら側の居場所が相手にバレていて、狙いがミオの暗殺だと分かった以上……、ここで仕留めなければ逃げても意味がない」

「そうじゃなくて、一緒にいて何となく気付いたんだけど宵闇の能力って……、隠密性に特化してたりする?、音を消す事が出来たり、何らかの方法で気配や姿を消したりとか」

「あなたの前で特性を言わなかったら良かった、概ねその通りだけど時間帯によって性能が大幅に上昇する、それが私の特性……で、話はそれだけなの?あまり話しかけられると狙いがズレるからダートみたいに黙ってて欲しいんだけど?」

「あ、うん……」


 フィリアはそう言うけどぼくの眼にはミュカレーの姿が見えない。

それでも狙いを定めている彼女の眼には見えているようで、少しずつ銃の先を動かしては一定の感覚で銃口から弾を撃ち出している。


「……逃げられた」

「え?」

「相手の回避する先を予測して撃ち続けていたんだけど……、流石に不利だと判断したみたい、それに狙って分かったけど嫌な性格してる」

「会ったこと無いのに分かるものなんだ?」

「同じ暗殺を生業にする者同士、相手の行動で瞬時に理解する能力がないと生き残れない、そういう意味ではあのミュカレーって人は確実に勝てる状況にならないと、自分から襲って来ない慎重なタイプ」


 初めてミュカレーと戦った時、自分の有利な状況を魔導具で作り出して確実に勝てる状況を作り出して来た辺り、確かにその通りなのかもしれない。

それをあの一瞬で理解出来る辺り、フィリアの洞察力が凄さが伺える。


「ここから遠くへと離れ続けている方向から考えると、マーシェンス方面だから……、予想通りミオ狙いだったみたいね」

「……んん、んっ!んん!?」

「あ、ごめんなさい、もう喋って大丈夫よミオ」

「……ふぅ、どうして私が命を狙われなきゃいけませんの!?、それにこれだとまるで、私の臣下に裏切者がいるって事じゃなくて!?」


 自分の手で口を抑えていたミオラームが大きな声を出すけど……、彼女の臣下に裏切者がいるという意味が分からない。


「裏切者がいる可能性を予め考えて、臣下の中で限られた人しか知らない情報だけど、マーシェンスの王城内にはミオと同じ背丈で容姿が似ている女の子を置いて来た……、この子そこまで頭が良くないけど周囲のサポートがあれば役割を熟せる、だから余程周りが無能でない限りは今ここにミオがいる事は知らない筈」

「……えっと、私言ってしまいましたわ」

「……え?」

「早めにこの辺境都市に向かうという時に、離宮にて兄と姉の面倒を見てくれている方達に、暫く視察の為にメセリーの辺境都市クイストに行くから、不在の間くれぐれも手を抜かぬようにと……」

「ミオ、あなた何て事を……、ってこれはまずいわね」


 フィリアが呆れたような顔をすると眼を細めて遠くを見る。

すると徐々に表情が消えて行き……


「……ミオ、あなたの血を分けた家族が消えるけど良い?」

「フィー、それはどういう事ですの?」

「ミュカレーが空間収納の魔術が付与された魔導具から生物兵器の頭を取り出してあなたの兄達に渡している、それに近くには私の父もいて……、これはつまり離宮に隔離されたとはいえ何らかの方法で繋がっていたと見た方がいい、例えば遠距離通信用の魔導具とか持っていたのかもしれ合い」

「まさか、私が話をしてしまったから?」

「まさかも何もそれが原因、私はミオの命を守る為なら容赦はしない、時間的に調度陽が暮れ始め、そろそろ夜が近付く時間……、今なら確実にやれる」


 表情が完全に消え氷のようになるとぼく達の前から空気に溶けるように姿が消えてしまう。

これがフィリアの言っていた時間帯で能力が上昇するという事かと思っていると……


「分かりましたわ……、マーシェンスの国を変える為に必要な犠牲ならやってくださいまし」

「えぇ、あなたがその手を人の血で汚す必要は無い、引き金を引くのは私の仕事――」


 やがて完全に声すら聞こえなくなり……、先程までここにいたフィリアは始めからここにいなかったかのように痕跡すら消えてしまった。

そしてぼくの背中を軽く叩いて『もう歩けそうだから降ろしてくださいまし……』とミオラームが言葉にする。

言われた通りに降ろすと……


「レース様達にも見えるように私の開発した魔導具を使いますわ……、これはフィーの眼の中に直接入っておりますの」

「眼の中に魔導具が……?」

「ミオラーム様、それってどういう事なんですか?」

「私が賢王になった後犠牲になった人の顔を決して忘れない為に……、フィーの魔導具の義眼を改良したのですわ、過去に暗殺に失敗した際に片目を失う事になったとかで、それ以来マスカレイドが作った義眼を使ってらしたの……、常時マスカレイドに位置情報を知らせる機能が組み込まれてましたけど、そこからヒントを得て私が開発した技術と合わせる事で、実際に見ている光景を外部に出力出来るようにしたのですわ……、じゃあ使いますわね?」


……ミオラームが手の平の上に乗る大きさの四角い機械を、コートのポケットの中から取り出して中に向かって投げる。

するとフィリアが見ているだろう光景が空中に映し出されるが、まだぼく達の近くにいるみたいでその視界にはぼく達の姿が映っていたが……、余りにも一瞬の事だった。

瞬きをした瞬間に映像が樹々の上に変わり、視界の先にマスカレイド達の姿を映し出すと、ライフルを構えたのか半分を長い得物が多い隠し、銃口と思われるところが連続が四回程明るく光る。

そして一瞬の間を置いた後、頭の反対側から内容物を飛び出させながら吹っ飛んでいくミオラームと同じ髪色をした男女と、反射的な行動なのか頭を庇うようにして身を反らしたミュカレーの肩を貫く、彼女は二本の脚でその場に踏みとどまるが傷口を抑えながら何処かへと逃走を開始し、最後のマスカレイドはと言うと……、白衣を血に染め口から大量の血を吐き出しながらその場に倒れるのだった。

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