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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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時間稼ぎをするぼく等と賢王を信じる宵闇の心

 頭部が魔導具になっているモンスターの姿を見て怯んでしまったぼく達のうち、フィリアを除いた全員が一瞬反応が遅れてしまった。

頭部から何やら魔術の詠唱のような物が聞こえたかと思うと、目を見開き声にならない悲鳴を上げているミオラームに向かって、魔力の光を灯した風の刃が飛んで行く。

それをライフルから撃ち出された弾丸が打ち抜き……、反応したダートが空間魔術で遠くに飛んで行く弾をモンスターの頭部へと跳ばす。


「……やるじゃないあなた、減点は取り消してあげる」

「でも、全然効果がないみたい」


 ダートが言うように、頭部は傷一つ無く未だに詠唱のような物を呟いている。

もしかしてそこに何かの秘密があるのかもしれないと感じて、長杖の能力である【空間移動】を使おうとしたけど……、シャルネに身体を奪われた時の事を思い出して使えなくて、相手の攻撃を防ぐ為に【自動迎撃】を再び使わざる負えなくなりその場から動けない。

それに大剣と長杖の両方を咄嗟に顕現させてしまったせいで、魔力の消費が激しくてこれ以上は魔術も使えそうにないし、これは完全に足を引っ張ってしまっている、でも今のぼくが前衛をやっていられるのは長杖による防御のおかげで、折角覚えた大剣の使い方を活かす事が出来ていないのが事実だ。


「レース、結構な勢いで攻撃を魔術で防いでいるけど大丈夫?」

「そろそろきついかも……」

「どれくらい持つ?」

「……正直言うと限界が近い」

「なら気合で少しだけ耐えて、魔術が使えないなら両方出してるのは初めて見たけどその長杖と大剣は心器でしょ?、心が折れなければ耐えられるから武器で受けて」


 武器で受け流そうとした時はフィリアに助けられたけど、受けるとなると多分凄い衝撃が体に来ると思う。

耐えられるのか心配になるけど言われた以上はやるしかない……。


「分かった……、でも受けた後はどうするの?」

「それは、スイあなた準備出来たと言ったよね、私達はもうあなたの毒が効かないって事でいい?」

「えぇ、だからいつでももう動ける」

「じゃあ、レースが攻撃を受け止めたら直ぐに毒を相手に打ち込んで、大きな口が二つもあるんだから霧状にしなくても身体に入るでしょ?、任せたから、後は……ミオっ!あなた何時まで動けなくなってるの?」

「はぇっ!?……で、でもフィー、怖くて私足が……、ほら立とうとしても力が入らなくて」


 ミオラームが必死に立とうとしているけど、腰が抜けてしまっているのか立つ事が出来ずにその場で転んでしまう。

こんな状態のあの子にいったい何を刺せようというのか……、そう思うと同時にモンスターの前脚が勢いよくぼくに向かって振り下ろされる。

咄嗟に長杖を魔力に戻して、大剣を両手で持って受けたけど思っている以上の衝撃が体を襲い全身の骨が軋んだかのような音が内側から聞こえて来た。

それに合わせたスイが手元に無色の液体を作り上げると、直接飲ませるつもりなのか凄い速さで走ってぼくの前に出るとそのまま荒々しく呼吸を繰り返している獅子の口に向かって腕を突っ込んだ。


「ならそのままでいいから心器を出して、あなたの超電磁砲が必要なの」

「……でも私の心器は直ぐに壊れて」

「私を信じて、あなたなら大丈夫、ミオが普段背伸びして大人っぽくなろうとしてるのも知ってる、今も怖くて震えてるけど勇気が出せる子なのを私は理解してる、だからお願い」

「失敗したら怒らない?」

「怒らない、だって私はあなたの全てを信じてるから」


 スイが腕を引き抜くと……、何があったのか手首から先が無くなっていて夥しい量の出血が起きていた。

痛みを必死に堪えているのか表情からは汗が噴き出しているし、何よりも早く止血をしなければこのままでは危険だ。

人体が欠損するという事はその部位に流れていた血液が失われるという事だし、更には手を失っただけでも人によってはバランスを取る事が出来なくなるから、スイはこの戦場ではもう戦う事は出来ないだろう。

ただ……、モンスターに毒が効いて来たのか獅子と山羊の口から泡を拭いて立ったまま身体を小包に震えさせ動けなくなっている。


「スイ、手は後でぼくが何とかするから今は止血だけしてっ!」

「……わ、かっ……くぅっ!」


 ……仮にここでぼくの治癒術を使い再生させたとしても、あの走る速さから判断すると肉体強化の適正は【斥候型】と判断出来るから、戦闘中に治そうとしたら痛覚が過敏になっているだろうから、本来なら起きる確率が低いとは言え、肉体強化を使っている今だと痛みに耐えきれずにショック死してしまう危険性がある……だから今は、スイに治癒術を使わせて止血をして貰うしか手段がないけれど、ぼく達に刺している魔力の糸を外して傷口に巻き付けてから治癒術を使っている当たり、冷静な判断が出来る余裕があるみたいで安心する。

そしてぼく達がこうしている間にも、フィリアとミオラームのやり取りが続いていて……


「分かりましたわ……、そこまで言われましたらやるしかありません事ねっ!」

「ふふ、それでこそ私のミオ……、ダートあなたはミオの身体を支えて立たせてあげて?」

「はいっ!」

「私の身体を任せましたわよ?ダート様……では、行きますわっ!」


……ダートがミオラームの身体を支えて立たせると、彼女の手に決闘の時に顕現させた銃が現れる。

そして手を震わせつつフィリアから、ライフルに使っているのだろう弾を受け取って銃口に込めると、全身から青白い光の電流を放ちながら赤い光をモンスターの頭に向けて撃ち出すのだった。

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