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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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独占欲と歪んだ感情

 会議室を出たぼくは急いでフィリアとミオラームを追う。

でも、冒険者ギルド内には既に居ないようで……、とりあえず外に出ても姿が見えず完全に見失ってしまっていた


「いったいどんな速度で移動してるんだ」

「歩くような速さよ、それ以上の速度を出す必要がある?」

「っ!?」


 背後から声が聞こえて来て反射的に振り向くと、そこには笑顔で手を振っているミオラームとフィリアがいた。

さっきまでいなかった筈なのに、どうやって後ろに気配も無く現れたのか……


「レース様っ!もしかして私に会いたくなって追い掛けて頂けたのですか?」

「いや、ぼくはフィリアと話したい事があって……」

「んもぅっ!ここは嘘でもそうだって言うところですわよっ!?」

「ここで嘘付いたら逆に面倒な事になる気がするけど?」

「うぅ……、ですけどぉっ!乙女心って言う物があるのですわぁっ!察して欲しいのです事よぉっ!」


 ……察しろって言われても無理がある。

この前ダートにも言ったけど、言って貰えないと分からないしそんな事を言われても、どんな反応をすればいいか分からないから困ってしまう。


「察しろって言われても……」

「ミオ?あんまり私のレースを困らせないでちょうだい?」

「私の?ってフィー、どういう事ですの?」

「だって私からしたら弟のようなものだから、私のって言ってもおかしくないでしょ?」

「……ぼくは誰のでもないし、そういう独占欲を気に入った相手に押し付けるのは良くないと思うけど?」


 ……フィリアはいつもそうだ。

ぼくが子供の頃からそうだったけど、この人は一度でも自分の身内だと思った相手に対して独占欲が強すぎる。

彼女からしたら自分よりも弱い存在を守ろうという気持ちの表れなのだろうけど、こちら側からしたら自分の所有物に触れられるのを嫌がる子供のようで、正直あんまり良い感情を抱く事が出来ない。


「レース様は違うと言っておりますわよ?」

「照れてるだけよ、そういえばレース?話したい事があるって何を聞きたいの?」

「冒険者ギルドでどうして皆に対してあんなに上から目線だったの?」

「……ん?あぁその事?理由は簡単よ、気に入らなかっただけ」

「気に入らなかった?」


 それだけの理由で上から目線で相手を下に見ていたのか……。

どうして二人の事が気に入らないのか、ぼくには分からないけどフィリアの中で思う事があったのかもしれないし、この前家にお土産を持って訪に来た時はダートと暫く話したらしいけど……、師匠の名前が出た瞬間に不機嫌になって帰ってしまったと聞いている。


「そう、ダートって言う子は私の許可無しにあなたと夫婦になっているし、スイと言う女は私に挨拶も無しに勝手にあなたに弟子入りして治癒術を教わっている、これが気に入らない」

「……どうしてそれが気に入らない理由になるの?」

「自分の意見を相手に上手く伝える事が出来ないあなたの事だから、周りに流されて断り切れずに強引に夫婦になったり、弟子を持つ事になったんでしょ?、私はあなたの事を成人するまでずっと傍で見ていたから知ってるけど考え過ぎて何でも自分の中に溜め込むじゃない、そんなあなたの結婚相手は私が探すし、弟子も必要なら連絡して貰えれば安全な人物かどうか私がこの目で直接見極めるから、あなたは何もしなくていい」

「フィリア……、数年間会わない間に変わったね」

「私は変わっていない、ただあなたが忘れてしまっただけ」


 昔はここまで束縛が厳しくなかった気がしたけど……、フィリアが言っているように忘れてしまっているのだとしたらそれは、当時のぼくはその環境になれてしまって感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。

そういう意味ではあの時、コルクと一緒に師匠の家を出てこの辺境都市まで来たのは結果的に良かったんだと思う。


「……あなた達?こんな道の真ん中で立ち止まって話している事では無いと思いましてよ?」

「あっ……」

「とりあえず2時間後に現地集合と言う事ですし、ゆっくり歩いて向かいながら話しませんこと?」

「そうね、その方がいい、行くよレースあなたは私に着いて来ればいい」

「着いては行くけど、その考え方には同意できないかな」


 フィリアが睨みつけて来るけど、無視して先を歩き出したミオラームに続く。

……確かに道の真ん中で話すような内容では無いから、この気遣いをしてくれた少女に対して感謝の気持ちと共に、大人なのに気を遣わせてしまった事に関して申し訳ない気持ちが湧き上がって来る。


「ミオラーム、ありがとう……、でも気を遣わせてごめんね」

「別に気にしないでいいですわ?、周囲を気を配るのも上に立つ者の責務でしよう?……それにフィー?私はいつも言ってますけどそういう歪んだ独占欲を持つのは良くないと思いますわよ?」

「ミオ……、でも私から見たらレースはまだ子供だし、子供は間違えた事をしてるなら止めるのが大人の責任」

「エルフやハーフエルフの感覚でものを言うのは違うのではなくて?レース様は既に成人した大人の男性ですのよ?……まぁ、私みたいにまだ八歳の子供だというのでしたらそう言われても納得は出来ますし、現にあなたという親友が出来たおかげで心の支えが出来ましたけど、このお方にはもう大事な人がおられるのですわよ?」

「……分かってる、でも久しぶりに帰ったら家を出て、母に聞いても何処にいるか分からない、それならたまには母を通して連絡をくれればいいのに何の連絡も寄越さない弟に対して意地悪をする位許される筈」


 ……そんな理由だけで意地悪をされても困る。

これは怒った方が良い流れなのだろうか……


「フィリア、悪いんだけど……、そんな事で意地悪をされても困るしダートと夫婦になる事はぼくが自分で考えて決めた事で、スイに治癒術を教える事もぼくから彼女に提案したんだ、これに関して幾ら姉だとしても口を出して欲しくない」

「……レース、あなたさっきも思ったんだけど。考えを自分から口にするなんてあなたらしくない」

「数年も会わなかったら変わるし……、フィリアがそう思うならそれはダートに出会ったおかげで変わろうと思えたからだよ、彼女に会えてそこから色んな人と関わったりする事になるうちに思う所や治した方が良いと感じる所も沢山あって、ぼくなりに頑張ったんだ」

「そう、それならやっぱり気に入らない、私がそうなるようにしてあげたかったし、変わっていくあなたを側で見ていたかった」

「フィー?、それならこれから変わっていく私を見てくれませんこと?」

 

正直そんな重い感情をぶつけられても困るしいい加減弟離れして欲しい、そんな事を思ってもフィリアには通じないと思うからどうしようかと、反応に困っているぼくに助け船を出すかのようにミオラームが提案してくれる。


「……私が傍で見てていいの?」

「当然ですわっ!私はあなたの親友であって妹みたいなものなのでしょう?、だから存分に私があなたを置いて亡くなるまで見ていて構いませんですのよ?」

「うん、ならそうする」

「決まりですわねっ!……でも出来れば、将来私が素敵な方と結婚して子供が出来たらその子の事もお願い致しますわよ?血が繋がってなくてもあなたの甥っ子や姪っ子になるのですもの、大事にしてくださいましね?そうすれば寂しさから歪んだ独占欲を持たなくて済むでしょう?」

「うん、大好きよ私のミオ、あなたの子供達、そう孫もひ孫も含めてずっと傍にいる」


 頬を赤く染めながら言うフィリアを見て、さっきとは違って別の意味で反応に困ってしまう。

ただ分かった事が一つある……、ハーフエルフとして産まれ周囲から迫害されて来た彼女は種族を気にせず親友と呼んでくれ寄り添ってくれる、ミオラームに出会えた事で孤独では無くなったんだ。

良かったと思う反面、それなら早くぼくから自立してくれればいいのに……


「頼みますわよ?私のフィー?」

「えぇ、任された、私のミオ」

「ふふ、これで一件落着ですわねっ!」

「……でも、やっぱりダートの事は気に入らないから、この護衛任務で姉として見極める、少しでも私のミオを傷つけたら別れて貰う」

「んぇ?……どうしてそうなるのですのぉ!?」


……ミオラームが都市から出て森に入る手前の門の前で立ち止まると大きな声で叫ぶ。

そして周囲の人達の注目を集めると……顔を赤くして『皆様何でもありませんわ?だから気になさらないでくださいましっ!』と言ってフィリアの後ろに隠れてしまう。

微笑ましい物を見たかのような反応を周りがするとその場と歩き去って行き、門の前に待機している兵士達も警戒を解いたのか元の立ち位置に戻っていくのだった。

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