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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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思う所と大切な事

 サリッサの過去の話を聞いて色々と思う事がある。

ストラフィリアという国は何処までも力が無い人達には優しくないという事だ。

姉であるガイストもそれで苦しみ幼くして母を亡くしているし……、それに父であるヴォルフガングも立場と言う物に縛られて孤独になっていた。

強くなればなるほど孤独になり、弱ければ弱い程搾取され奪われていく……、ミュラッカは本当に変えて行く事が出来るのだろうか……、そう思うと何時かは一度ストラフィリアに帰って妹の手助けをした方がいいのかもしれないけど、この事に関しては後で考えた方がいいのかもしれない。

でも、国を変えようとして出来なかった亡き父親と、その意志を継いだミュラッカが頑張っているのに兄であるぼくが何もしないのは違うだろう。


「……レースどうしたの?」

「レース様?凄い思い悩んだような顔をしていますが……」

「えっと、ストラフィリアに関して思う事があってさ……ミュラッカがこれから国を変えていこうと頑張っているという事は、何時かは一度戻った方がいいかもしれないなぁって」

「それは止めた方がいいと思います、あの国では女性の覇王が誕生しただけでも珍しいのに、世継ぎとなる子が産まれる前にレース様がお戻りになられた場合、ミュラッカ様に対して良い感情を持っていない騎士や貴族達の手によって、ミュラッカ様を亡き者にし王位を継がせようとするでしょうから、少なからず数年は戻らない方がいいでしょう」

「……その事に関しては妹にはシンさんが付いているから大丈夫なんじゃないかな」


 正直彼がいるなら、ぼくが戻ったりしても大丈夫なんじゃないかなって思うけど……、違うのだろうか。

あの人の実力の高さをぼく達は目の前で見た事あるから知ってるか問題無いと思うんだけどな……


「確かにそうかもしれませんが、ミュラッカ様に子が出来た場合産まれるまでの間、暫くはまともに動けなくなるでしょうし、仮に症状が安定した後でも状態次第では何が起きるか分かりません、食事も食べれる物や食べては行けない物等も出て来てしまうので、本当にデリケートな時期になります、そういう意味でも最近ミュラッカ様と世継ぎを残すために頑張っていらっしゃるシン様とはいえ、守り切るのは難しいでしょう」

「あ……、という事はあの件は成功したんだ」

「王城内でも有名ですよ?、いつものようにシン様を自室に呼んだ後強引に組み伏せ『今ここで私を愛してくださらないのなら、もう二度と私の血を飲ませないわっ!』と大声で叫んだ後に――」


 サリッサが何があったのか詳しく教えてくれるけど、何をしているんだミュラッカは……夜に何か聞こえたと言われたら嫌だとは言っていたけど、最初から隠せてすらいないじゃないか。


「――と言う事で、私達からしたら早く世継ぎが出来てくれたら嬉しいのですね」

「あぁ……、うん、そう言う事なら何時なら戻っていいのかな」

「そうですね……止むを得ない事情がある時を除いて、お世継ぎが産まれてから今のルミィ様と同じ年齢になってからの方が良いと思います、その間にレース様とダート様の間に男の子が産まれていたのなら、ミュラッカ様とお二人のご子息の間で王族間では充分にヴォルフガング様の血が薄れているので婚姻を結んで頂く事になると思います、もしミュラッカ様の方にも男の子がお生まれでしたら王位継承権はその子になり、後に女の子がお生まれになられた後にその子と婚姻する事になりますね」

「と言う事はもしかしてミュラッカの力になりたいと思ったら……」

「はい、お二人のタイミングがあると思いますが、落ち着いたタイミングで頑張って頂けるとミュラッカ様の助けになると思われます」


 ……やっぱりそうなるか、何ていうかぼくの中の日常が大きく変わり過ぎている気がする。

これに関してはもうしょうがないと割り切るしかないけど、ぼくの事情に巻き込まれるダートは正直しんどいだろうし、妹の力になりたいと思ったけど、ぼくの大切な人が辛い思いをするような事があるのなら、この国から出て姿をくらましてしまう事を考えると思う。

ぼくにとっての大切な事はダートと生きるこれからの未来で、大事なのは家族を守る事だ、これだけは絶対に間違えたりはしたくない。


「レース様は本当に考えがお顔に出やすいのですね……、ヴォルフガング様にそういう所が本当にそっくりです」

「……え?」

「多分ですが、何かあったら愛しているダート様を守る事と、大切な子供を守る事を考えているのでしょう?」

「あ、愛してるってレース!?」

「そうだね……、さっきの言葉を取り消すようで悪いけど、ぼくの大切な家族が苦しむような事があったらミュラッカには悪いと思うけど迷わずこの国を出て何処かで穏やかに暮らすよ」


 これを言ったら間違いなくサリッサに怒られてしまうだろう。

彼女からしたら王族としての責任を放棄する発言そのものなのだから……


「……ならその時は私とルミィ様もお供致します」

「え?」

「実はメセリーに向かう事になった時から考えていたのですが……、ルミィ様はもうあの国に帰らない方が良いと思いますし、それにレース様達の側にいた方が心身共に安らげると思います……」

「どうしてそう思うの?」

「それはレース様が正しくヴォルフガング様の優しさを継いだ方だと思ったからですね……、私はヴォルフガング様とルミィ様に拾われた身です、決してミュラッカ様に忠誠を誓ったわけではないので……、なので私はそうなった時はレース様とルミィ様に忠誠を誓わせて頂きますね?それに……」


 それにってこれ以上何があるというのか、思わずダートと一緒に身構えてしまうが……


「……サリッサさん、他にも何かあるの?」

「私は元商家の娘ですよ?、私が付いてくるという事はこの家の家計の管理、そして診療所の受付業務に必要な薬品類の補充等も行いますし、何より事務的な作業も全て出来るように父から教育をされて来ましたのでお得ですよ?」

「今迄レースがやってたから、着いて来てくれるなら助かるかも?」

「なら決まりですね、これから先何があっても私とルミィ様はレース様とダリア様、そしてご子息様達に着いて行くので宜しくお願い致します」


……確かに助かるけど、サリッサは本当にぼくなんかに忠誠を誓っていいのだろうか。

そう思っていると『ところでレース様、そろそろ私とルミィ様のお部屋に行きたいのですが……、案内して貰えますか?ルミィ様をベッドで寝かせてあげたいので』と声を掛けられる。

確かにリビングのソファーで寝ているルミィを放置してずっと話してるのも良くない、ぼくは妹をそっと抱き上げると全員で三階にサリッサと行き部屋へと案内し、その後は特に何事もなく一日が過ぎて行くのだった。

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