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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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間章 死滅の霧と治癒術師 

スイ視点

 正直その才能に嫉妬している私が居る。

あの現代魔術と治癒術の母と呼ばれる賢者【叡智 カルディア】の元で幼い頃から治癒術を学んで来たのは凄いし、魔術に関してはあの人の心が無い魔科学者【黎明 マスカレイド】から少しだけ手解きを受けたりもしたという。

そんな性格はともかく、この世界で最も優れた術者の二名に育てられた彼に対して思う所が無いというのは無理な話だ。


「……で、人体の構造はこのようになっていて、内臓の位置は肋骨の下に守られるような感じで肺と心臓があるんだけど」


 最初は彼の弟子になれば、カルディア様から直接治癒術を教わる機会があるかもしれないという考えもあったし、教わる事も出来たけど……、あれは正直異常だった。


『あなたある程度治癒術が使えるみたいだからそうねぇ、ここから始めようかしらぁ』


 と言って私の手を掴んだかと思うといきなり、私の身体を内側から何処に何があるのか分かるように壊しては治しながら……


『ここの骨を壊すとね?関節の可動域が制限されてしまうから治す時は欠片すら残さないように、失敗しても元通りに戻してあげるからこれから壊すところを治癒術で治し続けなさい、私のレースちゃんは出来たわよ?』


 何て異常な事を言いだしたかと思ったら、私の治癒術の練度に合わせて容赦なく致命的な臓器も含めて壊して行く。

唯一頭部だけはそこを壊すと死んじゃうからと言う理由で壊されなかったけど、おかげでトラウマになり、今ではカルディア様に会うだけで身体が強張ってしまう位だ。

……それと比べればレースはまだ現実的な教え方だ、師と同じ教え方をするのかと身構えてしまったけど、最初にどうすれば覚えやすいのか私に聞いてくれたし、分からない所が何処か、ある程度進んだら何処まで理解出来ているのか確認する時間をくれる。

ただ……


「ここまでは分かったみたいだけど、次は試しに……」

「あなたねぇ、戦闘訓練の後に毎日こうやって私に治癒術を教えなくてもいいのよ?、今にも寝そうじゃない」

「眠いけど大丈夫……、後三日もしたら護衛依頼が始まるから、その間に出来る事は全部やらなきゃ」

「あなたねぇ、それで倒れたらどうするのよ……、私に治癒術を教えているせいで倒れましたとかって言われたら嫌なんだけど?」

「大丈夫帰ったらちゃんと休むから……」


 これだ、私が休むように言うといつもこう言って人の話を聞いてくれない。

最終的にお嫁さんになったらしい、ダートが迎えに来て強引に中断させられる位だ。

ただ彼女も最近何か忙しいみたいで、迎えに来る度に魔術師が着るローブを着ている事が多かったりする。

特に私と同じAランク冒険者で【泥霧の魔術師】の二つ名を持っているけど、悲しい事に冒険者の名前って長ければ長い程実力が低いって事になるから、強さの方は期待が出来ないだろう。

私は【死滅の霧】と四文字で、あっちは六文字、正直Bランク以上になると実力よりも実績が重視されるけど、それだと高ランク冒険者の実力が分からない。

その為強さを明確化する為に二つ名が付くけど、最高の戦闘能力を持つ人物になると二文字で、逆に一番低いのは六文字だ。


「……言ったそばから寝ないでよ」


 隣に座っているレースの声が聞こえなくなったから、起きているのか確認すると、治癒術の専門書を枕にするような感じで意識を失うようにして眠ってしまっている。


「そこまで疲れているなら自分の家で寝ればいいのに……、迷惑な人ね」


 後少ししたら診療所に働きに行かなければいけない時間だけど、このまま寝ている彼を部屋に放置して行っていいものか。

取り合えず起こす為に声を掛けたり身体を揺すって見ても起きる気配がない。

……本当に迷惑だ。


「私じゃ肉体強化をしても斥候型だから意味がない……」


 どうしたものかなぁと悩んでいるとドアがノックされる。

今この寮にいるのは、栄花騎士団のカエデとアキラ、そして南東の大国マーシェンスのメスガキとその護衛だ。

その中の誰かが訪ねて来たと思うのだけどいったい何の用だろう。


「レ、レース様はこちらにいらっしゃるかしらぁ!?」

「げぇ、メスガキ」

「メスガキ?メスガキって何ですの?」


 返事をする前にドアを開けて入って来る非常識な女王様を見て嫌な気持ちになる。

護衛依頼を受けたとはいえ正直この子の事は嫌いだ、初対面での印象が悪かったのもあると思うけど、何をどうしたらここまで我が儘になるのか私には理解が出来ない。

でも、この子が賢王になってからマーシェンスの国内は以前と比べて住みやすくなったらしいから、王としてはしっかりと仕事しているのかもしれない、それともこのメスガキの下に付いている臣下達が優秀なのかもしれないわね。


「あなたの事を褒めてるのよ」

「ほんとですのっ!?私嬉しいですわぁっ!、これから私自身の事をメスガキと名乗る様にしますわね?」

「……やめて、それはやめて私の首が飛ぶから物理的に」

「え?どうしてですの?」

「本当に頭が良い人は自分をそんな偉いと自慢しないのよ?、つまりあなたがそうやって名乗るよりも周りが自然と呼んだ方が良いでしょ?」


……私がそう言うと目を輝かせながら、『なるほど分かりましたわっ!、私これからメスガキの賢王ミオラーム・マーシェンスと呼ばれるように頑張りますっ!』と元気な声を出す。

あぁ、これ間違いなく護衛のフィリアさんに聞かれた、私の命終わったわ……と思っていると『あ、忘れてましたわ?ダート様がレース様を迎えに来てるのでお呼びに来ましたの、こちらにいらっしゃることが分かったので今から呼んで来ますわね?』と言って部屋を出て行ってしまう。

その後、迎えに来たお嫁さんに起こされたレースはうとうとしながら自分の家に帰って行く。

ついでに私はその後、『フィーっ!私メスガキって褒められたのですわっ!……、え?誰にってスイ様にですけどそれがどうかしたのかしら?』と直接聞いた彼女から、きっついお叱りを受けるのだった。


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