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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第一章 非日常へ

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当時の生活

 あいつに部屋まで案内して貰ったはいいが、本当に殺風景で何もない部屋だと感じる。

なんつーか窓が一つあるだけで家具も何も置いてありゃしない……、物置にしては綺麗だし何なんだろうな。


「取り合えず買ったりしたもん全部出すか」


 空間収納を開きベッドを窓際付近に置く、この方が朝起きた時に日の光が当たるから嫌でも目が覚めるだろうからこれでいいと思う。

他には俺が長期滞在する時に宿に置かせて貰う家具を適当に置かせて貰えばいいか。

ただ俺の性格だとどうしてもそういう並べ方は雑になってしまうから、ここは術を解いた方がいいか……。

それに暫くは来ないだろうから大丈夫だろ。


「……これでいいですね」


 指を慣らして術を解いた私は改めて部屋の中を見る。

ベッドが一つだけの部屋ではどうしても殺風景になってしまうし、女性の部屋としてもどうなんだろうと思うので空間収納の中から小さい衣装箪笥と小物入れを取り出してドアの邪魔にならない所に置かせてもらう。


「後は……どうしようかなぁ」


 衣装箪笥にはこの村に来た時に着ていた服と魔術師のローブ、後はおばさまから頂いた服もしまって行く。

そして上に元の世界から唯一持ってきた家族の写し絵が入っている小さな額縁を置いていつでも見れるように置いた。


「……お父様とお母様にもう会えないって分かっていても会いたくなってしまうわね」


写し絵を指で優しく触れて当時の生活を思い出して感傷に浸ってしまう。

あの頃はこの世界で言う魔術の名家に生まれ何不自由ない生活をさせて貰って、幼少から魔術の習い事をして来たけれど何処か満たされなかった。

この世界に来てからは色んな事があったけれど、自分の力で生きていると感じて楽しんでいる私がいて……それでも二人の顔を見ると会いたいと思ってしまうのはしょうがないのかもしれない。

家族に会いたいと思う気持ちは私の中では当然の気持ちだと思うから……


「ダメね……切り替えないと」


小物入れに生活必需品を取り出して並べて行く。

この家に助手として住む以上、お化粧とかもある程度はした方がいいだろうかと悩んでしまう。

お母様から将来必要になるからと一通りの事は教えて貰ってはいるけれど、この世界に来てから一度もした事がない。


「明日から少しずつまたやってみようかな……」


 そんなことを思いながら空間収納から手鏡を取り出して自分の顔を眺めるけど、幸いな事にこの世界では傷がついても治癒術のおかげで痕が残らないから綺麗なままでいられるおかげでお化粧をしても違和感はなさそうで良かった思う。

それに確かお母様が言ってたのを思い出す……。

若い頃にお化粧をし過ぎると肌が荒れてしまうから軽いお化粧だけにしなさいっていう風に教えてくれたっけ、それなら肌に軽く付ける位で良いのかな。


「部屋にテーブルが欲しいから今度買いに行きたいけど……今はこんな感じで良いかな?」


 そうしてる間にドアの隙間から良い匂いが入って来た。

この香りはお肉だろうか……、それに香草の良い匂いもして遠くからでも食欲がかき立てられる。

という事はそろそろお夕飯が出来る時間なのかもしれない、術を掛け直そうかな……。

指先に魔力の光を灯して自身に暗示の術を掛けて行く。

今の私が薄れて違う私に変わって行く感覚には何度やっても慣れないけれど……、まぁ俺がこの世界で生きる為には必要な事だ。


「さぁて、あいつが呼びに来る前に俺から行ってやるかねぇ」


 俺は部屋を出るとリビングへと早足で向かって行く。

近付けば近づく程良い匂いがするじゃねぇか……、これは結構期待出来るかもしれねぇな。

期待に胸を膨らませながら勢いよくドアを開けて部屋に入る。


「おぅっ!良い匂いがしてっから来たぜー!」

「……今からダートを呼びに行こうと思ってたから丁度良かったです」


……あいつが俺を笑顔で迎えてくれた。

そしてテーブルには美味そうな肉と野菜が二人分並んでいて、真ん中には取りやすい用に分けられたパンがあり丁度良いタイミングで来れた事に思わず笑みがこぼれてしまう。

これなら二日目の夕飯も期待できるなと思いながら椅子に座り飯を食う事にする。

食っていて思ったんだがよ……もしかしたら胃袋を掴まれているのは、あいつじゃなくて俺の方かもしれねぇな……。

んな事を思いながら夕飯の時間が過ぎて行くのだった。


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